2030年の世界
「現在、日本が抱える人口減少、年金制度、労働力不足などの問題を一挙に解決するために、私は世界に先駆け、今後10年以内に日本人を不老不死します。そうすることで生涯現役で働き、納税していただきます。不老不死産業を柱に経済成長をはかり、年齢に関わりなく皆健康になり、現在の人口より減ることもなくなります」
演台に立つ四方田栄一は自信に満ちた目を会場内に向けていた。彼の頭上には『2030年自由躍進党総裁選プレスリリース』の横断幕が張られていた。
「そんな昔のケネディの月面着陸のようなことを言って、実現の可能性はあるのですか」
白髪交じりの男性記者は四方田を小バカにしたように言っていた。
「あります。既に我が党が後押しするエターナル・バイオ研究所では、老化を抑える酵素やサーチュイン遺伝子の活性化方法を発見しています。これらをベクター注射などで臨床試験し、その安全性を担保するだけです」
「医療的にそうでも、いきなり年金制度を廃止したら、今まで払い続けてきた世代から反感を買いませんか」
若い女性記者は手を挙げると同時に喋り出していた。
「いえいえ、この不老不死医療は、かなり高額となりますので、年金の支払額に応じて負担軽減割引ができるようにします」
「それでは、あまり払っていない若者世代は全額負担みたいなことになるのですか」
「それはですね。何歳に不老不死医療を施すかに関わりますが、不公平にならないように調整します。また年金未払いの場合は、月々数千円支払いの低金利50年ローンや100年ローンという形も考えています」
四方田は女性記者がすぐに手を挙げてまだ何か言いたそうだったが、遮って別の記者の方を見ていた。
「しかし中には自然死を望む人もいるのではないでしょうか」
金髪の女性記者は流暢な日本語であった。
「確かにいると思います。そこでその少数の人のために年金制度は残しても良いと思っています」