大清西部劇 第二話 武器弾薬
●2.武器弾薬
林たちは3人はクチャに向かう途中のオアシス町に差し掛かった。昼下がりの時間帯は暑さをさけて、人はほとんど歩いていなかった。林たちは馬の足取りを緩めて、ゆっくりと進んでいた。
「この時間に外にいるのは俺らぐらいかな」
林は周りを見ながら言っていた。
「馬に水を飲ませてやるには…、あそこの井戸を貸してもらうか」
アフメットは馬の鼻先を井戸に向けた。林と石も後に続いた。
井戸の桶に手を掛けるアフメット。林は、近くの民家に銃口を向けて構えていた。
「勝手に、水を飲んで大丈夫か。誰かに声をかけないと」
林は民家から目を離さないでいた。
「構うものか、まず俺から飲むぜ」
アフメットは、桶を井戸の底に下して行った。民家から物音がして、銃を構えた男が出てきた。
「勝手に飲まれちゃ困るな。客人用はこっちだ」
男はぶっきら棒に言っていた。
「すまない。わかった。こっちだな」
林は文句が言いたげなアフメットの馬の手綱を別の井戸の方に引っ張った。
「あんたなら、あんな奴、目をつぶっても仕留められるだろう」
「褒めてくれるのか」
「いや、妙な親切心は、お前の弱みにだな」
アフメットは不敵な笑みを浮かべていた。
林たちは、別の井戸の前で休息を取っていた。近所の子供数人が西瓜を食べていた。
「こいつら、良く食うな。荷車に積んであるもの全部食い尽くすぞ」
石はじーっと子供たちを見ていた。そのうち、子供の一人が西瓜を抱えて近づいてきた。
「ねぇ、旅の人、食べる?はい」
子供は西瓜を一個まるごと手渡した。石はそれを腰に差していたナイフで四等分していた。石はまず自分が頬張り、味見していた。
「これはうまいぞ、林、アフメット、食うか」
石は林たちに切り分けた西瓜を放り投げていた。林とアフメットは西瓜をかじると果汁がしたたり落ちていた。
「おぉ、こいつはうまい」
林は種を口から飛ばしていた。
「まぁ、いけるな」
アフメットは果汁をすすっていた。
「しかし、こんなうまいものを好き勝手に子供に食べさせるとは、ここはかなり豊かなオアシスだな」
林は町の中を見回していた。
「旅の人、とうだ。ここの西瓜はうまいだろう」
先刻、民家から銃を向けていた男が子供に促されて出てきた。
「うまい。でもなんで、子供に食わせてしまうのだ。市場で高く売れるだろう」
「まぁな、しかし市場に持っていく途中に、武装した盗賊団に遭って、奪われるのがオチだ。やつらに儲けさせるくらいなら、子供に食べてもらった方がマシだ」
「おいおい、あんた、かなり弱気じゃないか。そんな奴ら追っ払えば良いだろう」
林は西瓜の皮の部分までかじっていた。
「ここいらを縄張りにしている軍閥のようなものだから、とても歯が立たない」
男は目を伏せていた。
「それは取り締まらないと、いかんな」
石が口を挟んできた。
「隊長、巡察隊を呼んでくるんですか。こんな所に構わず早いとこクチャに行きましょうぜ」
アフメットは渋い顔をしていた。
「石隊長、我々3人で始末しましょう。軍閥だかなんだか知らねぇけど、やれますよ」
林が言うと、石とアフメットはびっくりとした顔になっていた。
「弾の無駄遣いは、やめようぜ」
とアフメット。
「確かに、軍閥くずれだと、厄介だぞ。武器弾薬を揃えないとな」
石は、林をなだめる様に言っていた。
「奴らは武器弾薬が豊富にあります」
男は止めた方が良いと言う顔をしていた。
「豊富なのか、それなら、そこを襲って奪えば良い。盗賊の巣窟を襲えば今後もあんたらは安心だろう」
林はニヤリとしていた。林はすっかりその気になっていた。
「まぁ、とにかく襲えるかどうか。下見に行ってみよう」
石はその場を収めようとしていた。
古代の漢人の出城が盗賊団の巣窟であった。城門の前に西瓜を積んだ荷車が停まっていた。
「今年も良いできの西瓜できました。これをお渡ししますから、我々の通行の安全をお願いします」
農夫の恰好をした林は、ウィグル語で言っていた。
「どこの者だ。感心だな、どれどれこの西瓜か」
門番の男は荷車の西瓜を調べていた。
「中の倉庫に入れろ。あっ、ちょっと待った。一応改めさせてもらう」
門番の男は、林、アフメット、石の腰に手を当てて、銃があるかどうか確認していた。
「よし、中に入れ。倉庫はそこの突き当りを右に曲がった所にある」
門番が言うと、城門はゆっくりし開いた。林が手綱を引き、アフメットが荷崩れを抑える形で荷車は場内に入って行った。石は林の横を歩き、城内に目を光らせていた。
城内には銃の手入れをしている男や、機関銃(ガトリング銃)を武器庫に運んでいる者もいた。
「ガトリング銃があるが、どうする」
石は小声で林に言う。
「荷車の載せられそうもないし、暴発するように細工でもしておくか」
林は機関銃がどの武器庫に置かれるか目で追っていた。
「おい農夫、西瓜を丁寧に倉庫に入れろ」
城内の男が、林たちの様子を見ながら言っていた。
「おい、俺一人で積み下ろしをするのかよ」
アフメットは不服そうであった。
「あんたが、一番力がありそうだから、頼むんだ」
石は、おだてる様に言っていた。
林は食物倉庫の裏手から出て、武器庫に向かっていた。しかしガトリング銃がある武器庫は鍵がかかっており、
中に侵入できなかった。隣の弾薬庫は、裏窓が開いていたので、中に入れた。弾薬箱を引きずって、食物倉庫に戻った。石も別の弾薬庫と武器庫に行ったものの、手ぶら戻ってきた。
「隊長、手ぶらですか。西瓜は降ろしましたけど」
アフメットは林の足元にある弾薬箱を見ていた。
「こいつはたったひと箱でも重いから、その荷車で運ばないと無理だ」
石は、林の持ってきた弾薬箱を荷車に積んでいた。
だいぶ日が暮れてきて、薄暗くなっていた。城内の盗賊たちは各所にある松明に火を灯し始めていた。何食わぬ顔で荷車を引き、武器庫に向かう林たち。
「おい、お前らどこへ行く。城門はそっちじゃないぞ」
呼び止めた男は、荷車のむしろをめくり上げる。
「なんだこれは!弾薬箱じゃないか」
その男は、銃口を林たちに向け、首から下げていた笛を吹いた。笛の音が城内に響いた。
「やぺぇぞ」
アフメットは、たじろいでいた。男が引き金を引く。銃声と共に倒れた。二つの銃声がほぼ重なり、一つに聞こ
えていた。林は、ズボンの裾に銃を戻していた。アフメットは林に笑みを見せていた。3人は荷車の底の裏側に隠しておいた、拳銃をそれぞれ手にした。石が近寄って来た盗賊の男撃ち倒し、炊事場の裏手に林アフメットを
誘導した。弾薬箱を積んだ荷車はそのままにしていた。
炊事場を通り過ぎると武器庫があった。林は武器庫の鍵を銃で撃ち抜き、扉を開ける。3人は武器庫の中に身を潜めた。城内は盗賊たちが林たちを探して走り回っていた。
「この建物は、頑丈そうだし、弾薬もたっぷりある。いっちょ、やってやろうぜ」
林は2丁拳銃で構えていた。武器庫の格子窓から、近寄って来る盗賊たちを次々撃ち倒していた。
アフメットは、やたらに拳銃を乱射し、すぐに弾込めになってしまった。石はそれをカバーするように撃っていた。武器庫の壁に弾丸が当たりまくっていた。石は右側の格子窓から撃ち、アフメットは、左側の格子窓から撃っていた。
「ここに固まっているよりも、分散した方が良いだろう」
林は、素早く炊事場の方に走って行った。林の動きを発見した盗賊が発砲する。林の足元に土煙が上がっていた。林は構わず、走り荷車の下に滑り込んだ。林は下側から荷車をつかんで、ゆっくりと炊事場の方に移動していく。
荷車の車輪に弾丸が当たっていた。幸いにも車輪の回転に支障はなかった。炊事場の井戸の石垣のそばまで来ると車輪がひっかかり動かくなくなった。
林は井戸の石垣の陰に移動して、盗賊たちに狙いを付けていた。一発は楼門の上から撃っていた男に当たり、男は楼門から転落していた。もう一発は、武器庫にガトリング銃を向けようとした男に当たった。さらにもう2発でガトリング銃の可動部分の歯車に弾丸を打ち込んだ。別の男が来てガトリング銃のハンドルを回す。数発、武器庫の壁に当たり、穴だらけにした。しかしガトリング銃が詰まり、弾丸が暴発し、男は吹き飛んだ。その後、林は武器庫に戻った。
「もうこれで20人はやっただろう。奴らも降参するかな」
アフメットは、城内の死体を見回していた。
「そう甘くはないだろう。大砲をこっちに向けている」
林は、格子窓から目を離さなかった。
「どうする」
石が囁く。
「こうするまでだ」
林は拳銃で狙いをつけると大砲を向けている男たちを次々に撃ち倒した。
「でも、あっちの大砲は…」
アフメットが叫んでいた。
「こっちだ」
林は、床板に付いている鍵を撃ち抜き、床板を蹴り落とすと地下倉庫に飛び降りる。アフメットと石も後に続いた。次の瞬間、大砲の弾丸が武器庫に当たり、大爆発した。石片や木片が派手に空に舞い上がっていた。地下で身を伏せている林たちの上にもパラパラと破片が落ちてきていた。武器庫があったの所はがれきの山になっていた。
「やったぞ」
盗賊の声がしていた。しかしその声の主を林が撃ち倒した。
「おい、奴らまだ生きている。怖ぇ何者だ」
別の盗賊が叫んでいたが、逃げ去る間もなく、石の銃弾の餌食になっていた。
「火焔山の妖怪じゃないか」
逃げ出す盗賊はアフメットが放つ銃弾に後頭部を撃ち抜かれ倒れていた。生き残った盗賊たちは、我先に城門から出ようとしていた。
林が追い打ちをかける様に盗賊たちに向けて発砲する。盗賊たちは城門の外の荒れ地を駆けて行った。
「これで奴らも、もう悪さができないだろう」
石は急に新疆省の役人のような顔になっていた。
「しかし隊長、感謝されてもカネにはならんですよ」
「アフメット、武器弾薬はたっぷりと手にしたから、クチャで役立つんじゃないかな」
林は、初めてアフメットを名前で呼んでいた。
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