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グレンコー渓谷の神話と黒歴史
切り裂きジャック、ブラッディー・マリー、ロンドン塔の幽霊伝説・・・。
英国って史実に基づいたアトラクション多い気がするなあってふと思いました。ロンドンやエディンバラにあるダンジョンや、「このスポットで夜な夜な幽霊が出ます」という言い伝え。
そしてどれもとってもリアルなんです。
事細かく、ここで打ち首にされただの、何人がここで亡くなっただの、オブラートに包まずそれはそれは情景が思い浮かぶほどに。
何でこういう考えに至ったかというと
2泊3日でスコットランドに里帰り(?)したのがきっかけ。
もともと毎年8月恒例のスコットランド最大のお祭り、フリンジとミリタリータトゥーで行こうと計画を立てていたのですが、パンデミックで全て中止。
(とてもとても悲しすぎるので去年の写真でも載せちゃう、昨年8月23日撮影)
この光景を見ると、エディンバラ来たな〜といつもしみじみ。
(昨年8月24日撮影)
過去2年連続でミリタリータトゥーには来ているのですが、本当に感動します。この話はまた語りたいな。
友達ともう一度練り直し、
車を借りてハイランドに行こうではないか
となったのです。
目的地はグレンコー。(とフォート・ウィリアム)
そう、様々な伝説が言い伝えられている場所です。今回はその伝説を紐解いてみようかと。
・グレンコーとは
グレンコー(Glencoe)
ハイランドに位置する、スコットランドでも最も美しいと言われる渓谷。標高1,000メートル程度の山々が連なる景色は圧巻で、ここに立つと、自分が本当にちんまいかを肌で感じます。
私たちは車で行ったので、踏み入ったのは車道沿いにすぎません。それでも壮大な自然に包まれて、本当に気持ちが良いです。ハイキングでさらに歩き回ったりすると、より大自然を体いっぱいに感じられそう。
写真だとこのスケールが伝わらない・・・。
映画『ハリーポッター』は、ハイランドでも多く撮影されていて、ここグレンコーもフォート・ウィリアムのジャコバイト号を始め、ハグリッドの小屋のシーンなどに使われたそうです。
ハリーポッターは途中から映像暗すぎて、よく見えないなあと挫折した。泣
・当日のルート
ハイランドに向かう当日。午前9時前にエディンバラ中心部で借りたエアビーを出発しました。(このエアビーも最高だった!!!)
予定のルートは、
エディンバラ〜フォート・ウィリアムの撮影スポット〜グレンコー〜ローモンド湖〜エディンバラ
です。
フォート・ウィリアムまではナビ計算によると3時間半だったので、お昼をそこで食べようという計画で出発しました。ですが、そううまくいかず、途中でウィスキーのダルウィニー蒸留所(Dalwhinnie Distillery)に寄ったり、カフェで休憩したりとゆるゆる移動していた結果、最初の目的地に着いたのはなんと2時半。笑
ダルウィニー蒸留所についてはまた後日。
グレンコー渓谷に到着したのは4時くらいでした。既に大幅な遅れ。でも旅ってこういうもんだよねえ。
・伝説1:ケルト神話
さあいよいよ本題。
グレンコーにまつわるケルト神話と氏族争いが生んだ血塗られた黒歴史について。
実はここに来たのは今回で2回目。初めて来たときはツアーガイドさんが一緒で、色々解説してくれました。その時のお話を思い出しながら、あやふやな部分はGoogle先生に教えていただきながら、まとめてみました。
そもそもケルト神話って何?
文字通り、ケルトの神々に関する神話。
ケルトは欧州の先住民族で、独自の美術様式や宗教を発達させていたのですが、ローマ帝国の支配や、ゲルマン人(世界史で出てくる「ゲルマン人の大移動」)の圧迫を受けアイルランドやスコットランド、ウェールズなどの一部に逃げたそうです。
ケルトは多神教で、その概念に基づきケルトが伝承してきた神話や伝説がケルト神話。
グレンコーは、このケルト神話に出てくるオシーン(オシアンとも、Ossian)の生まれた場所とされています。
ケルト社会の祭祀ドルイドの求婚を断ったために雌鹿に変えられてしまったサイバ(Sadba)。ある日、ケルト神話に出てくる英雄騎士フィンと出会い、美しい人間の姿に戻ったのだそう。2人は恋に落ち、サイバは後のオシーンを身ごもります。しかし、フィンの留守中にドルイドに見つかり、再び鹿の姿に変えられてしまいます。サイバはグレンコーの奥深くへと逃げ、そこでオシーンを生んだそうです。
グレンコーにある「Ossian's Cave」がその場所と言い伝えられており、なかなかたどり着くのは困難な場所。ロッククライマー泣かせだそうです。笑
山の中腹にある細長い洞窟がOssian's Cave(Hazel Treeから拝借)
ここ登るとかむり〜〜〜!!
オシーンはゲール語で「小さな鹿」という意味。母親の姿から名前が付けられたんですね。その後オシーンは、サイバを探しにグレンコーへ来たフィンによって見つかり、大切に育てられました。
オシーンの成長後の物語もあるのですが、とっても長くなっちゃうのでここでは割愛。ざっくりいうと、ちょっと「浦島太郎」ぽいお話になります。
・伝説2:氏族争いの末の惨殺事件
グレンコーって、ゲール語で「嘆きの谷」という意味があります。
ちょっと不穏な名前・・・。実はここで惨殺事件があったのです。
こーんなに青空が広がっているのにね
時はさかのぼること1692年。グレンコー村で悲惨な虐殺事件が起こりました。
イングランドでは当時、名誉革命が起こった頃です。英議会がスコットランド系のスチュアート家出身のジェームズ2世を追放。オランダから国王らを迎え入れ、「権利の宣言」「権利の章典」を制定し、これにより英国の立憲君主政治が確立されました。
まさにこの時歴史が動いたってやつ。世界史でやったな〜懐かしい。記憶が断片的に思い出されていく
この時、ジェームズ2世を擁護していた勢力がジャコバイトです。このジャコバイト最大の支持勢力はハイランドを中心とするスコットランド人でした。
ジェームズ2世の追放を受け、この地域に住む氏族らは新国王ウィリアムから年明けまでに自身に従うと誓うよう要求。従わなければ命はない、という脅迫により、多くの氏族長が期限前に署名を行いました。
しかしイングランド側はあの手この手で署名場を変更したり、刺客を送り込んで邪魔をしたりと署名期限に間に合わせないように策略。
そこで間に合わなかった氏族の一つがグレンコー村のマクドナルド氏族でした。同氏族は、親イングランド派のキャンベル氏族にとって長年の宿敵だったことにより、制裁(つまりは実力行使の格好の餌食)対象となったのです。
キャンベル氏族は政府の命を受け、約120人を従えてマクドナルド氏族の村を訪問。2週間近い滞在の間、村人たちはキャンベル一派を客人としてもてなしました。そんな村人の警戒が解かれ始めたある夜中、キャンベル一行は家々に火を放ち、夜襲をかけます。子供含む40人超が焼死したほか、別に40人ほどが刺殺されました。
このむごいやり方は、スコットランド中から批判が噴出。今尚やや残るイングランドとスコットランドの不仲のきっかけと見られています。
グレンコーはほぼ晴れる日がないそうです。一説にはマクドナルド氏族の悲しさの涙が雨となっていると言い伝えられています。また、事件があった2月ごろには人々の叫び声が聞こえたり、霊が見えたりするとの話も聞きます。
お友達を写してみた。こんな綺麗な青空を見れるのは貴重!
・英国人がフィクションホラー好きな理由
冒頭でも書いたように、英国には心霊スポットやホラーアトラクション、ナイトバスツアーが多くあります。
こういうのは世界各地にもあるんでしょうけど、全面に押し出してアピールしているのは少ないんじゃないかな。
スコットランド人の友達にもめちゃくちゃ勧められた記憶もある・・・笑
私自身は、ロンドンとエディンバラにあるダンジョンはコンプリートして、エディンバラの「メアリー・キングズ・クローズ」ツアーも行こうとしていた。結局、直前で怖気付いてやめちゃったんだけど。
街の雰囲気もそうさせているのかなあ。こう、いつもどんよりで憂いに帯びている感じ。英国を題材にした漫画やアニメ、ドラマ、映画も米国みたいな「ハッピー」「弾ける」「キラキラ」とは対象的で陰湿で暗くて霧がかかっていて血塗られた様子が醸し出されている。
で、友達に聞いてみたわけです。
”どうしてホラー系とかドロドロな歴史系アトラクションが多いの?”
すると返ってきた答えは・・・
”実際に起こった出来事だから” 。
「事実は小説より奇なり(Truth is stranger than fiction)」てこと!?そういや、この言葉は英国詩人バイロンの作品から生まれた表現だった。
実際に起こったことをオブラートに包んだり歪曲した表現に変えたりはせず、ありのままを伝えるお方たち。自分たちの歴史に誇りを持っているんでしょうか、大英帝国のプライド的な?
ぐるぐると頭の中で仮説を立て、消し、また新しい仮説を立て・・・実際のところは答え出ず。
ちなみにいわくつき物件や事故物件も人気が高いんだそう。うそずら。