少し前に『枕草子 紫式部日記』から紫式部日記のごく一部を引用したが、今回は枕草子のなかで栞の登場しているくだりを引いてみたい。
まずは二十三段に夾算(けふさん)が二度出てくる。天皇が女房たちに古今和歌集の歌をどのくらい暗記しているかテストするというお話。先日、ある人気歴史学者がTV番組で、昔の人は古今集なんか全部覚えてましたというようなことを発言していた。まさか、そんなはずないでしょう、とテレビの前で突っ込んだのだが、やはりそんなことはなかったようだ。
宰相の君とあるのは藤原重輔の女(むすめ)で清少納言と並び称された才女だとのこと。その彼女でも十ばかりしか暗記していなかった。これは覚えておかなあきませんやろと天皇はあきれて、ここまで、と当時しおりとして使っていた竹の夾算を草子に挟んだのである。
とは言え、全部覚えている女房もいましたよ、という話がつづく。中宮定子の発言である。
全部で二十巻だから半分まできたところで、村上天皇は感心してしまって、そこまで、と夾算を挟んで、ベッドルームへこもったと。起きてきたときに残りも試そうとテストをつづけたのだが、すべて間違いなく覚えていた。
もう一箇所、三十段にも栞かと思われるものが登場している。
二藍・葡萄染[ふたあゐ・えびぞめ]は「紅と藍とで染めた間色で濃い紫」と本書の註には、字数の制限もあってか、ごく短い解説がある。『色の手帖』(小学館、1986)にはもう少し詳しく、次のように出ている。
「さいで」は裂出(さきいで)の音便という。布を裁ったあまり切れ。裁ち切れ。ずっと前にはさんで忘れていた赤紫の布切れが草子の間に挟んであるのを見つけたとき、昔が恋しく思われる・・・ということで紙の栞はまだなかったのかも知れないが、平安の人たちも手近にあるものをブックマークにしたことがよく分かる。なお、夾算は今でも製造されているようだ。ひとつ自分でも作ってみようかな。
字差(じさし)/夾算(きょうさん) 阿育苑川勝
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