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大海に帰す、これが私の散書の総てである


青山毅『総ては蒐書に始まる』(青英舎、1985年11月16日、装幀=池田良二)

青山毅は読んだことがなかった。本書略歴と検索でヒットした情報を引いておく。

あおやま・たけし
1940年、千葉県生れ。書誌学専攻。/『高見順書目 I』(1974年)の他、『平野謙全集』『小熊秀雄全集』『島尾敏雄全集』『吉行淳之介全集』の書誌・解題などを担当。他に雑誌・新聞・月報などの細目を発表。/現在、日外アソシエーツ(株)に勤務。

本書奥付

『千葉県人物・人材情報リスト 2019第1巻』(日外アソシエーツ 2018)p.290「青山毅」には千葉県市川市が出生地の書誌学研究家と記載されており、「昭和39年日本近代文学館,58年日外アソシエーツ(株)を経て,62~63年四国女子大学助教授。古書店を回って「文学新聞」「美術新聞」「特高月報」「春陽堂月報」など,新聞や月報の収集につとめ,53年から一時個人誌「ブックエンド通信」を発行。」等の経歴が確認できた。 

レファレンス共同データベース

収録エッセイ「総ては蒐書に始まる」(初出『国文学 解釈と鑑賞』1980/10/1)と「総ては散書に終わる」(書き下ろし)から少しばかり紹介してみる。

1950年代後半に高校生活を送った。医師を目指して理科系の進路を選択していたのだが、突然、肺結核に襲われ休学そして留年を余儀なくされた。その療養期間中に退屈にまかせて家にあった『現代日本文学全集』(円本)を読み始め文庫本で現代文学に親しむようになった。

復学しても勉学には身が入らず一日の大半を読書ですごすようになっていた。高校三年の担任に図書館司書の道をすすめられ、その専門課程のある大学へ入った。

 大学に進むや、書籍代かせぎのアルバイト生活。そのうちにアルバイト員として出版社の嘱託になるありさま。読みたい新刊書は定価の八掛で求め、その費用は給料相殺。あまりがあれば、神田の古本屋歩き。図書館学の草分け的存在であった故武田虎之助教授は、人を介して「たまには俺の授業にも出て来いよ」との伝言。 

p13-14

武田教授からは大学院進学をすすめられるも辞退。社会へ出て、別所直樹『太宰治研究文献ノート』(図書新聞社)がきっかけとなって太宰治の書誌学的蒐集を始める。次に高見順の本を集めるようになり『高見順書目』(1970)を三百部限定で刊行した。

 研究者たるもの、己れの研究範囲の資料は、コピーを含めて、極力自分で所蔵するように努力すべきである。それによって、実証的研究が存在するのだ。図書館学出身の私としては、現在の図書館学理論に逆行しているが、こと近代に関する限り、これは私の持論である。

p17

 勝本清一郎の『近代文学ノート』第三巻に収録されている「近代日本文学の曙」で、勝本は北村透谷の『楚囚の詩』で問題になっている黒ゴマ点と白ゴマ点について、「印刷が粗悪なため黒ゴマ点と白ゴマ点との判別のむずかしい箇所も多い」と記しているが、これも勝本が幻の本と騒がれていた『楚囚の詩』を入手、あるいは見たからこそいえるのである。勝本清一郎の場合、自分の目の通っていない資料については、いっさい触れてないように見受けられる。
 これが研究者の魂である。それだからこそ、限りない蒐書が必要なのだ。

p17

これを俗に「持ったもの勝ち」と言う(とは小生が折々に言う冗談の本音である。持ったもの、とは「本」であり「実弾」であり、それらの根源となる「欲」である)。

青木は十五歳から本を読み始めて三十年間で《仮に一年三百冊平均としても、わずか九千冊である。おおくとも、まともに読んだ本は、一万という数字には達しないであろう。》(p393)と書いているが、一年に300冊を《まともに》読むのは、まともじゃない。1964年から1983年の19年7ヶ月間、青山は日本近代文学館に勤務したそうだ。そこで書庫に保存されている多くの◯◯文庫が死蔵されていることを寂しく思った。

 私の場合、私の「本の果て」は、ほんの一部を除いて、散書に終わらせたい。私が仮蔵する本は、利用する者があれば、古書として次の人に引き継ぎたい。 

p395

と書いたその一部というのが《高見順、平野謙、小熊秀雄、島尾敏雄、吉行淳之介の前著作であり、総て私が全集等で書誌を編んだもの》であり、しかもそれらを《カバー、オビ、ハコ、月報、チラシなどの付物を一緒に、原型をくずすことなく保存することを条件とすれば》、日本近代文学館が唯一の機関であるというのが実情(むろん執筆時点1985年でのこと)と書くほどのなはだしい未練ぶりである。

もちろんその気持ちは痛いほどわかる。とはいえ著者自身も書くように《所詮は散書の運命にあるのである。/大海に帰す、これが私の散書の総てである》(p398)、本は流れ出てこそ本であり続ける。


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