シュルレアリスム好きには逃せない書物を次々と刊行しているエディション・イレーヌ。先日紹介したアンドレ・ブルトン『時計の中のランプ』と同日発売の本書『神秘の女へ』も愛蔵に値する美しい一冊である。
アンドレ・ブルトン『時計の中のランプ』
最近のエディション・イレーヌの造本意匠を担当しているのは佐野裕哉氏。余白と文字の扱いなどに戸田ツトムの影響を感じさせながらも、隅々まで独自の叙情的な甘美さを備えており異彩を放っている。それらがエディション・イレーヌの息遣いとぴったり寄り添っているように見えるのが、妬ましいほどである。
佐野裕哉
https://www.yuya-sano.com
オビの惹句にいわく
ここに本書は語り尽くされている。デスノスの生涯については本書の訳者松本完治氏の編著になる『シュルレアリストのパリ・ガイド』(エディション・イレーヌ、2018年)の第三章でかなり詳しく紹介されている。今改めて読み直したのだが、まさに詩人らしい生涯で、強制収容所を生き抜いたにもかかわらず、解放後にチェコスロバキアのテレジン収容所でチフスのために死亡した。1945年6月8日。
デスノスの遺灰がフランスに戻りモンパルナスの墓地に埋葬されたときエリュアールはこういう談話を発表したそうだ。
本書のなかでは「今世紀のある子供の告白」が素晴らしい。睡眠実験や自動筆記にシュルレアリストたちの誰よりも優れていたというデスノス、幼児期よりその天才を示していたことが分かる。
訳者解題の結論部分からも引用しておく。
歴史上もっとも人類が消滅の危機に近づいている現在こそ、デスノスを読む意義があると松本氏は力説しておられる。要するに、今、人類に必要なのは、愛と自由、これしかない。