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デスノスは、言わなければならないことのために、命を投げ出したのだ


詩 ロベール・デスノス、画 アンドレ・マッソン『神秘の女へ』
(松本完治訳、エディション・イレーヌ、2024年4月27日、造本設計=佐野裕哉)

シュルレアリスム好きには逃せない書物を次々と刊行しているエディション・イレーヌ。先日紹介したアンドレ・ブルトン『時計の中のランプ』と同日発売の本書『神秘の女へ』も愛蔵に値する美しい一冊である。

アンドレ・ブルトン『時計の中のランプ』


最近のエディション・イレーヌの造本意匠を担当しているのは佐野裕哉氏。余白と文字の扱いなどに戸田ツトムの影響を感じさせながらも、隅々まで独自の叙情的な甘美さを備えており異彩を放っている。それらがエディション・イレーヌの息遣いとぴったり寄り添っているように見えるのが、妬ましいほどである。

佐野裕哉
https://www.yuya-sano.com

オビの惹句にいわく

表題詩集に加え、貴重な散文『今世紀のある子供の告白』、さらに没後出版の詩集『何気ないふうに』を収録。
盟友マッソンの圧巻のカラー・エッチングを配し、もう一人の盟友アルトーのオマージュを付した、デスノスの詩的宇宙を巡るアンソロジー。

ここに本書は語り尽くされている。デスノスの生涯については本書の訳者松本完治氏の編著になる『シュルレアリストのパリ・ガイド』(エディション・イレーヌ、2018年)の第三章でかなり詳しく紹介されている。今改めて読み直したのだが、まさに詩人らしい生涯で、強制収容所を生き抜いたにもかかわらず、解放後にチェコスロバキアのテレジン収容所でチフスのために死亡した。1945年6月8日。

『シュルレアリストのパリ・ガイド』(エディション・イレーヌ、2018年)

デスノスの遺灰がフランスに戻りモンパルナスの墓地に埋葬されたときエリュアールはこういう談話を発表したそうだ。

 ロベール・デスノスのうちには、ともに賞讃に値する二人の人間がいる。一人は、誠実で良心的で権利と義務意識の高い人間。もう一人は、優しく情熱的で誰よりも自らの愛する人と友人たちとすべての生身の人間たちを裏切らない海賊。彼は、その人間たちの幸福にも不幸にも小さな悲惨にもささやかな喜びにも共感した。デスノスは、言わなければならないことのために、命を投げ出したのだ。[『ラジオの詩人ロベール・デスノス』水声社、小高正行訳より]

『シュルレアリストのパリ・ガイド』p126

本書のなかでは「今世紀のある子供の告白」が素晴らしい。睡眠実験や自動筆記にシュルレアリストたちの誰よりも優れていたというデスノス、幼児期よりその天才を示していたことが分かる。

 私は一人で遊んでいました。私の六年間は夢の中で生きていました。海上での遭難[カタストロフ]に育まれた想像力によって、私は美しい船で、うっとりするほど素晴らしい国々へ航海しました。寄木張りの床が荒波そっくりに見え、私は思いどおり、タンスを大陸に、椅子を無人島に変えました。なんて危なっかしい航海でしょう! ある時は復讐者[3文字傍点]が私の足の下に潜り込み、またある時は、メドゥーサ[5文字傍点]がワックスをかけたオーク材の海の底へ沈んでいきました。それから私は絨毯の浜辺に向かって両腕の力で泳ぎました。こうしてその時、私は最初の官能的な情動を味わったのです。それは本能的に私を死の恐怖に同化させるものでした。その時以来、私は航海に出るたびに、茫漠たる海で溺死したいと思うようになりました。そこには「夜の大海原」と題する詩篇の記憶がありました。

  おお、どれほど多くの水夫が、どれほど多くの船長が、
  はるか遠くの岸辺に向かって、喜び勇んで逝ってしまったことか、

 私は偶然この詩篇を隠された本で読み、肉体的な快感に巻き込まれて力を消耗させました。

p40

訳者解題の結論部分からも引用しておく。

常に《末期の眼》でもって、言葉が愛を営むポエジーを高揚させ、眩くような生命の《間欠泉》を謳歌し、その情熱が現実世界の枠組みを融解させていく彼の詩世界は、紛れもなく、かつての盟友アンドレ・ブルトンが評した「シュルレアリスムの神髄に最も近づいた人物」(『シュルレアリスム宣言』)の手になるものであり、それは少年時代から死ぬまで変わらぬこの詩人の天性であって、先ほど私は彼の詩風を四期に分けたが、それは外面上のことであって、彼こそは一生涯、真にシュルレアルな詩人であったというべきだろう。 

p91-92

歴史上もっとも人類が消滅の危機に近づいている現在こそ、デスノスを読む意義があると松本氏は力説しておられる。要するに、今、人類に必要なのは、愛と自由、これしかない。

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