美しい古書を破いて包装に使いはじめるような、堕落退化した破壊的な時代なのですね。
『チャリング・クロス街84番地』をまた久しぶりにもとめた。これまでの版については以前のブログに書いておいたので参照していただきたい。
チャリング・クロス街84番地
https://sumus.exblog.jp/19555406/
以前のブログでは江藤淳の古本屋体験を紹介するだけで本文にはほとんど触れていない。そこで、今回は少しばかり本文から引用してみる。
改めて確認しておくと、1949年から69年にわたって、ニューヨークに住むヘレーンとロンドンの古書店員フランク・ドエルとがやりとりした手紙が本書の内容である。初めは堅苦しく、だんだんに気心が知れてきて、最後に親友のようになる。アメリカ人女性のキビキビとしてざっくばらんな書き振りと親しくなっても慇懃さを残しているフランク(ヘレーンからフランキーと呼ばれるようになるが)の英国人気質の対照も読みどころ。次に引用するのは、まだそんなに親しくはなっていない、文通し始めて一年ほど経ったころの手紙である。
ヘレーンはロンドンから届いた古書が別の古書の用紙で包まれていたことに驚き、こんなふうにしたためている。
こういうことは時々ある。個人的には本を破った紙という経験はないにしても、大判の古雑誌や新聞紙で包んでくる古本屋は、少し前にはけっこういたものだ。昔は新聞紙で商品をくるむのは当たり前だった。今はアマゾンかヨドバシカメラの包装紙やパッキングの使い回しというのがけっこうあるけど。
強烈に覚えているのは、本を包んだ新聞紙にタバコの匂いがしみこんでいたことである。愛煙家の古書店主が送ってくる本がタバコ臭いというのはわりとよくあった(今はほぼ皆無)。どうして包み紙が? と思っていたところ、たまたま道端で見てしまったのだ。宅配の運転手が窓を締め切った小型トラックの中で煙もうもうとタバコを吸っているのを。助手席に配達する荷物を積み上げてあった。なるほど、そういう理由だったか。
近頃、ちょっとギョッとしたのは濃密な香水をまとった運転手さんである。荷物にもかすかに香が移っているときがある。汗臭いのがいやなのだろうが、あの香水はキツいなあと思ったりする。「香水の臭い方、入店をお断りします」と張り出してある古本屋さんが近所にあった(現在は移転)。なること、これは閉口である。その主人の気持ちがわかった。
さて、古書による包み紙に対するフランクの返事はこうである。
そうそう、明治時代、日本から海外に輸出する陶器などの包み紙として浮世絵を使ったという話に通じるところもあるかもしれない。『イギリス内乱史』、いくら端本とは言え、17世紀に刊行された『The History of the Rebellion and Civil Wars in England』を破るというのは考えにくいので、18世紀、いや19世紀の初め頃に出た版ではないかと思われる。
たとえ19世紀の書物であってもその用紙はなかなかいい風合いなのである。ニューヨークにいたのでは、めったに出会えないだろう。現在の日本でもしかり。たまたま、本日、パリから(ロンドンではありませんが)届いた1832年の本があるので参考までにその写真を掲げておく。
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