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あつい番茶をのませてくれた(る)
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『生誕120年記念 木山捷平』(姫路文学館、2024年2月17日)を頂戴しました。御礼申し上げます。
送ってくださった方の手紙が添えられていました。早めに出かけようと思いながら、けっこう忙しくしていたので(古本屋めぐりに・・・ではないです)まだ見に行けていませんでした。
《ぜひお越しいただきたいと思いますが、限られた時間の中での閲覧になるとすれば播州姫路時代の木山捷平と今回発見された木山捷平の幻の第三詩集の原稿あたり特に念入りに見ていただければと思います。》
《そしてその後にでもおひさまゆうびん舎にお立ち寄りくださったら窪田さんも喜ばれると思います。》
そうです、おひさまゆうびん舎、ぜひ寄りたいです。久しぶり(小山清の展示以来ですか)。楽しみです。
ここで言及されている《第三詩集の原稿》というのは令和三年に都内の古書店より姫路文学館が入手した54篇の詩稿群です。この流転が興味深いのです。昭和十九年、木山が満州へ渡る前に友人の野長瀬正夫に三冊目の詩集の原稿を預けました。
野長瀬は郷里(奈良県十津川村)への疎開から再上京する間も、常にその詩稿を大切に保管していた。ところが、昭和30年代に神保光太郎門下のある若い詩人にその詩稿の話をしたところ、「ぜひ見せてほしい」と持ち帰ってしまい、それきりになったという。この件については、野長瀬自身も木山の追悼文(「木山捷平と私」/「ポリタイア」昭和43年12月)に書き残しており、病床の木山から電話であの詩稿を返してくれないかと言われ、困惑したという。野長瀬は、あわてて事情を説明する手紙を木山に送った。木山の死後、ある古書店が木山の詩稿を入手したので真贋をみてほしいと夫人に連絡があり、内容を確認したものの買い戻すことはできなかったという。
以来、詩稿の行方は不明であったが、当館が令和3年(2021年)に都内の古書店より入手した54篇の詩稿群が、様々な裏付けにより、まさにその「失われた詩稿」もしくはその一部であろうという結論に至った。
コピー機のなかった時代は写しも容易ではなかったでしょうが、人からの預かり物を貸したりしてはいけない、と肝に銘じたいもの。とにかく無事だったことはファンにとっては大いなる慶です。
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図録のなかでは内藤省二「"たった一人の友"大西重利と姫路市南畝[のうねん]町二八八の謎」を興味深く読みました。大西重利については以前たしか内海宏隆「表現者・大西重利の人と生涯 木山捷平との交流について」を紹介していたと思います。
内藤論文はさらに大西と木山が疎遠になった原因にまで踏み込んだ内容です。何がどうだったのかは本論を読んでいただくとして、「秋」(詩稿ノート、昭和2
年7月4日)、「秋 ー大西重利にー」(詩集『野』昭和4)、詩稿「友の秋」(昭18頃)、詩稿「秋の友達」(昭18頃)などの詩句の変遷から木山と大西の交友の距離を測るというのはなんともスリリングです。例えば「た」と「る」の違いに木山の心中がうかがえるというのですから。
あつい番茶をのませてくれる(「秋」詩稿ノート、昭和2)
[「た」を消して「る」に]
あつい番茶をのませてくれる(「秋」『野人』第五号、昭和3)
あつい番茶をのませてくれた(「秋 ー大西重利にー」詩集『野』昭和4)
「秋 ー大西重利にー」(詩集『野』昭和4)の全文を引用しておきます。
秋
ーー 大西重利に ーー
僕等にとつて
秋はしづかなよろこびだ。
夜
僕が五銭がせんべいを買つて
ひよこ ひよこ と
この土地でたつた一人の友を訪ねると
友は
口のこはれた湯呑で
あつい番茶をのませてくれた。
ああ 友!
秋!
貧しい暮しもなつかしく。
姫路文学館
http://www.himejibungakukan.jp
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