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人間の言葉で演説するよりも、犬にでも吠へさせた方が余程効果がある
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ある古書目録に長谷川如是閑の著書がずらっと並んでいた。なかに挿絵・柳瀬正夢と注釈のある本書を見つけて注文してみたら、無事昨日届いた。まだ支払いが済んでいないのだが、まあ、明日には入金できるだろうから、本書の挿絵を楽しんでいただきたい。柳瀬の本は以前にも取り上げている。
『柳瀬正夢画集』真理社、昭和23年10月30日
https://note.com/daily_sumus/n/n5e0c5e3fa9da
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せっかくだから如是閑の文章も拾い読みしてみる。世界の新聞を読んでいると書かれているだけあって、古今東西、地球レベルの話題で、今日の国際ニュースを見ているのと、そうは変わらない広さと深さがある。当時は英国が統治していたイスラエルとパレスチナの問題もすでにかなりこじれていたことが分かる。
長谷川 如是閑(はせがわ にょぜかん、1875年(明治8年)11月30日 - 1969年(昭和44年)11月11日)は、日本のジャーナリスト、文明批評家、評論家、小説家。明治・大正・昭和と三代にわたり、新聞記事・評論・エッセイ・戯曲・小説・紀行と約3000本もの作品を著した。大山郁夫らとともに雑誌『我等』(後に『批判』)を創刊し、大正デモクラシー期の代表的論客の一人。「如是閑」は雅号、本名は萬次郎。日本芸術院会員、文化功労者、文化勲章受章者。
いろいろ面白いことを書いているが、ここでは映画やドラマなどでよく見かける演説中止の様子を取り上げてみたい。大山郁夫が衆議院議員総選挙に立候補したので香川県へ応援演説に如是閑が出かけたときの様子である。まず大山郁夫のウィキからそのくだりを参考までに引いておく。
1927年(昭和2年)1月、労農党の党務に専念するため早稲田大学を辞任。 1928年(昭和3年)の第16回衆議院議員総選挙に田中義一内閣の大蔵大臣だった三土忠造と同じ香川県から立候補するが、官憲の激しい選挙干渉に遭い落選。落選報告会に参加しようとした弁士が多数拘束されるなど徹底した弾圧は続いた。 さらに同年4月11日、山陰地方遊説の帰路、水谷長三郎とともに東京駅に到着したところ、ホーム上で右翼の一群に囲まれて殴打され負傷する事件も発生した。大山を警護していた警察官は暴徒を拘束しないばかりか、旧労農党員2人をビラを撒いた容疑で拘束した。
「組織の力」と題されたその一文は昭和3年3月に発表されている。少年時代に政治演説を聞いて気分が悪くなった話からはじまって、自分がその嫌いな演説しなければならなくなったと続ける。
最初の第一回は、少しむづかしい事を黒板を使つて『これとこれとこれが』などゝいつてやつたので無事に済んだが、其あとの分は悉く三分としやべらないうちに中止された。少しも中止され相な事をいつた覚へがないから何をいつた為に中止されたのかよく判らない。一度などは、ちつとも不穏な事をいつた積りでなかつたのに、『中止』と叫ばれて、思はず『オヤ』と大きな声を出したので聴衆に笑はれた。
最後の丸亀では、夥しい聴衆で、それが甚だ熱心らしく感じられたので、今夜こそは無事やりたいと思つて、『今晩は平常の学術演説と全く同じ内容のことをいふのだから警官も中止はされまい』といつたらそこで『中止』された。聴衆が憤慨して私を囲んでわいわいいつた。そこで私がその人達に何かしやべると『検索』といふことをされるのだといふことをきいてゐたので、たゞその人々のいふことをきいて『ありがたう』といつた。
かういふ状況の下に於ては、人間の言葉で演説するよりも、犬にでも吠へさせた方が余程効果がある。それでも『中止』するなら、犬の皮で張つた太鼓をかつぎ出してドンドン叩いた方が、主意が徹底する。
知人の警察官は善良な人ばかりだ、だから警察官の多くは善良な人々なのだろう、しかしその善良な彼らがこんなことをするのだから組織の力は恐ろしい。無産階級の組織化が必要な理由がここにある、という結論になっている。