嫌っていた父の家で、アンリは文学の好みと素養を培った
石川美子『山と言葉のあいだ』を文学ソムリエ善行堂のイチオシということで購入。なんというか、優しい読み心地で、気分よく読み了えられた。主にフランスの山岳と文学を平易な語り口で綴った長短のエッセイ十一篇を収録する。
ベルリブロ
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いずれも好篇だが、なかでも「セザンヌの山とミヨーの家」は印象に残る。著者が留学中に出会ったアパルトマンの女主人との交流、そしてその歿後にあきらかにされていく彼女の過去。その叙述の背景としてサント・ヴィクトワールの山容をなつかしく描き出すあたりはみごとである。
かつてマダム・ミヨーは小説家だった。彼女の二冊の小説はアパルトマンの部屋に初めから置かれていたのだったが、そこに滞在しているときには読む余裕がなかった。亡くなったと知らされてから、さらに二十年を経て、著者はマダムの書いた二冊の小説『おなじ船』と『昨日、それは青春』および『レ・タン・モデルヌ』誌に発表されたふたつの短編小説を探し出して読み始める。それらは自伝的作品であった。そこからマダムの人生が幻燈のようにあらわれてくる。検索してみると下記の二冊、『Le même bateau』の方は手に入りやすいようだ。
⚫︎Le même bateau, Gallimard, 1961
⚫︎Hier c’est la jeunesse, Editions :La Pensée Universelle, 1972
「故郷の山に帰るスタンダール」もよかった。母を早くなくして父に厳しく育てられたためスタンダール(本名アンリ・ベール)は父親を憎むようになってしまうのだが……。こんなアンリの読書体験が語られているくだりがある。
一方、著者もまた植物学者だった父の書斎を愛する娘であった。「静かな背中の山と本」より。
他にも、1940年にジャン・ブリュレールが創立した地下出版社ミニュイ社についての記述(p200-201)も参考になったし、シャモニーの町にある「メゾン・ド・ラ・プレス」という書店へは、山好きでなくとも、訪ねてみたくなる。山の本、そして本のなかの山々が鮮やかにそびえ立つ好著である。
Chamonix Maison De La Presse
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