ピエール・ド・マンディアルグ『オートバイ』読了。
マンディアルグ『ラ・モトシクレット』(nrf Gallimard, 1963)
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ヒロインの名はレベッカ、19歳で許嫁レーモンがいる。父親は、ジュネーブのデグランジュ街で古書店を経営しているシモン・レス(p98)。その顧客の中年男性ダニエル・リオナールとレベッカは不思議な肉体関係を結ぶ。ダニエルは、レベッカが結婚したとき、巨大なハーレー・ダヴィッドソンを彼女にプレゼントした。そのオートバイにまたがって彼女は夫の国(フランス)と恋人ダニエルのいるドイツを往復するのだ。古書店でのシーンを抜書きしておきたい。
参考までに、最近のフランスでは最後のページではなく、巻頭の遊び紙か扉あたりに値段を書くのが普通のように思う。
そこへエンジン音を響かせてダニエルがやって来る。
ダニエルは「最近入ったスエデンボリの本が見たい」と主人に告げ、主人が奥へ入って本を探している間にレベッカを愛撫する。
とまあ、日本ならさしずめ谷崎みたいな小説である。訳者の「解説」によれば、この小説と映画「大脱走」(スティーヴ・マックイーンがバイクで脱出するラストシーンが印象的)のヒットで《目下、パリでは、若者たちのあいだにオートバイが大流行だという。ホンダ、スズキ、ハーレー・ダヴィッドソン、ノートン、グッツィといった、耳なれぬ名の外国製品が国産車をはるかに圧倒して人気を集めている》(p265)というようなことがあったそうである。
《一部文学通のあいだでは、現代フランス最高の作家の一人として、つとに最大級の評価をあたえられ》た一方で《一般文壇からはつよい反感をもって冷遇されてきた》マンディアグルが、年齢とともに(といっても『オートバイ』は54歳の作、作中人物のダニエルと同じ年頃)、その新鮮さを明らかにし《今日、最新型のオートバイに打ち乗って、ピガル広場を、サンジェルマン・デ・プレを、颯爽と突っ走っている》(p266)。それはともかく、古本屋小説として見逃せない作であろう。