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お前達は自由に女にも男にもなれるのだ
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尾形亀之助『障子のある家』(小熊昭広、2024年9月5日)を開風社待賢ブックセンターにてもとめた。宮城県柴田郡大河原町(尾形亀之助の出身地)の毛萱街道活版印刷製本所による爐書房版(昭和23年)の復刻版。内容は青空文庫でも読めるが、ファクシミリ版ではなく活版印刷による復元というところが素晴らしい。
毛萱街道活版印刷製本所街道
https://www.kegayakaido.jp/guide/company.html
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『タイポグラフィカルをがたかめのすけ〜金属活字による尾形亀之助『障子のある家』再現展〜』の冊子(小熊昭広、2024年7月22日)も入手したが、そこに載っている熊谷麻那「物理的な言葉」にこうある。
ある冬、大河原にある活版印刷製本所を訪ねると、工房主の小熊さんが尾形亀之助という詩人の本を見せてくれた。尾形亀之助の作る本には、その紙、活字、文字組み、レイアウト等々、すべてに詩情がある(遊び心というべきか)。そのひとの『障子のある家』という本を、小熊さんは復刻した。同じ紙、同じ活字、同じ文字組み、同じレイアウトで。正確にいうと、同じ資材はなくなっているので少しずつ異なっているというが。
その小熊氏自身はこう述べている。二年前に一度復刻を試みて失敗した。
二度目の復刻作業は、眼の前にある再版本の『障子のある家』を、余計なことを考えずにその通りに復刻することを目指しました。幸い、校正を手伝ってくれる頼もしい方もおり、おかげで余裕を持って、前回よりは客観的に復刻作業を行うことができました。そして、改めて尾形亀之助がこの詩集の造形にこめた思いを強く感じたのです。
文学作品は文章が第一です。詩集は、詩語の行間に生まれる詩なるものを味わうものだと思います。そのことに意義を唱えるつもりはありません。その上で、尾形亀之助が自ら装幀した詩集の姿形[すがたかたち]で、いたずらのように彼が仕組んだことを見てみるのも一度ぐらいはあってもいいのではないかと思いました。
さて、本書の内容だが、さすが尾形亀之助である。例えば、尾形のユートピア論とでも言うべき「滑稽無聲映画「形のない國」の梗概」にこんなくだりがあってその皮肉にニヤリとさせられてしまった。
さうかと思ふと本を讀むほど馬鹿げたことはない、今までは金を出して本を買はされるばかりではなくその内容まで讀まされてゐたのだが、これは向ふで讀者へ讀んでもうつぐなひとして渡す金高をわれわれが今まで支拂つてゐたあの「定價」といふところへ刷られてゐなければ嘘だ。そのほかに四五日分の日當さへ出してもらはなければならないものにさへ、われわれはうつかりして自分の方から金を出して買つてゐたのだーーといふことがすばらしい人氣を呼んで本が一册も賣れなくなつたり、(下略)
あるいは、「泉ちやんと獵坊へ」というあとがきのような自分の子供たちへの言葉も奇想天外な内容である。とくにこの部分。
又、さきに泉ちやんは女の大人獵坊は男の大人になると私は言つた。が、泉ちやんが男の大人に、獵坊が女の大人にといふやうに自分でなりたければなれるやうになるかも知れない。そんなことがあるやうになれば私はどんなにうれしいかわからない。「親」といふものが、女の兒を生んだのが男になつたり男が女になつてしまつたりすることはたしかに面白い。親子の関係がこうした風にだんだんなくなることはよいことだ。夫婦関係、戀愛、亦々同じ。そのいづれもが腐縁の飾稱みたいなもの、相手がいやになつたら注射一本かなんかで相手と同性になればそれまでのこと、お前達は自由に女にも男にもなれるのだ。
この時期(昭和初期、初版本は昭和5年発行)にこれだけのことをサラリと言ってのける人間が日本に何人いたであろうか? そもそもいたであろうか?
ひとつ残念なこと、この復刻本には検印紙がない。惜しい。
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なお、原本はこのような姿である。
●障子のある家●尾形亀之助エッセイ●
http://hkurukurublog.blog82.fc2.com/blog-entry-537.html
テキストの校訂についてはこちらのPDFがある。
『尾形龜之助詩集「障子のある家」原本(昭和二三(一九四八)年再版本)準拠正規表現版・藪野直史作製・注附き』
http://yab.o.oo7.jp/syoujinoaruihe.pdf