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『陳澄波を探して 消された台湾画家の謎』を読んで


謎めいた題名に惹かれて、年末図書館で借りたまま台湾へ旅に出た。
年始に帰国して読み始めた。

これもまた分厚めの本だったので、内容も私にはとても読み応えがあった。


三十代の画家がある絵の修復を依頼される。本当は断りたかったけれど、お金を稼ぐために同棲している記者の彼女から請負ように言われ、仕方なく引き受ける。


ところがこの絵の作者についても問うてはならないと言われる。でも修復には作者について知る必要があると調べる所から話が始まる。


陳澄波さんは実在した画家で、油絵を描いていた。

その当時の画家達が生きていた時代と交流のあった画家達が当時を語る現代が交互に描かれている。


相変わらず私は、登場人物の名前が覚えれなくて、時々誰が誰だかごっちゃになっていたけれど。



でも最後はなぜ陳澄波さんが消されることになったのか衝撃だったし、ショックだったし、怖かった。


本の中では、陳澄波さんは名前を言ってはいけない人のようになっていたけど、今の台湾ではどのようになっているのか分からない。


今回の旅行でいくつか美術館は回った。
陳澄波さんの絵は見ていたのかなぁと本を閉じ、ふとリビングの机をみると




あった。



チケットにしっかり『陳澄波』と書かれている



知らない間に台南で出会っていた。


実はさりげに見ていたのか…


ということは陳澄波さんの作品は、現代は公の場で皆が見ることができるということなのだろう。



この本の中では他にもたくさんの画家の名前が登場する。


その中で『林之助』という画家が少し出てきた。
この名前を本の中で見た瞬間、またもや


「えっ…」



そうこの人も今回の旅で出会っていた。


台北市立美術館で「この絵いいなぁ、作者はどなた?」と見た作品の横にある白い四角い説明書キャプションプレート。

『林之助?』

『りんのすけ?』

『えっ日本の人?どういうこと?』

『あれ?また次もりんのすけだ。』


りんのすけがいっぱい。


帰りにミュージアムショップで台湾の風景が感じられるものを求めて購入したけど、誰だったっけ?


慌てて裏を見返すと『林之助』の作品だった。


林之助さんのポストカード


そして彼は、りんのすけではなく、Lin Chih-chuという。


ただ『陳澄波を探して』の中では台湾では、当時日本の人になったり中国の人になったり、時代によって勝手にアイデンティティを求められ、命を落とすこともあったようだ。


もしかすると今もその時代のかもしれない。


でも台北市立美術館で日本の人?台湾の人?と少し混乱しながら絵を観ていた私が今思うのは、

私自身が相手のことを勝手に日本の人?台湾の人?と区別すること自体が違っていたのかもしれない。



どこの人?ではなくて

『林之助さん』

という人。そしてその作品はとても色鮮やかで美しかった。


帰国して台湾の本を読んだことで、点が線になった。


作者のことを知った今、もう一度改めて陳澄波さん、林之助さんの作品を見に行ってみたい。


彼らの当時のバックグラウンドを知ったことによって、その絵を通して
次は自分が何を感じるのかを知りたい。







ちなみに陳澄波さんは油絵に対して林之助さんは膠彩画(こうさいが)という技法で描かれている。この本で初めて知った。岩料を膠で定着させる方法らしい。

確かに台北市立美術館でこの技法が紹介されていて、水彩との触感や色合いの違いを確認できるコーナーまで設けられていた。

水彩画や日本画とも違う、色鮮やかで生き生きとしたように感じる、でも静も感じることもできる色合いの作品だった気がする。


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