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アジア地域最大級の広告祭 Spikes Asia2024 現地視察レポート(後編)

クリエイティブにまつわるトピックスや、ユニークなソリューションをクリエイター目線でご紹介する「ユニクリ!」。
今回は「Spikes Asia2024」の現地視察レポートの後編、セミナーの様子をお届けします。

前編はこちら↓


同時通訳無し!? 2日間英語漬けのセミナー

Spikes Asia2024 現地視察レポート(前編)に続いて、今回は広告祭のメインイベントのひとつでもあるセミナーについてレポートします。
浮かれ気分の前編と違って、少しだけ真面目な記事になります。(しっかりお勉強もしてきました!)

今回の「Spikes Asia」のセミナーは、メインボールルームの1ステージのみで開催されたため、すべてのセミナーを見ることができました。

ただ...今年度のセミナーでは同時通訳の用意がなく、英語が苦手な私たちは大ピンチ...! 
同時通訳のアプリで何とか細切れの情報を拾いつつ、ツアーコーディネーターの(株)StrategyXの松浦さんに随時解説をしていただきながら、必死にしがみついてお勉強してきました。(英語が堪能なら世界がもっと広がるんだろうなと痛感しました...)

来年以降、是非とも同時通訳の再開を願っております! 無い場合は皆様優秀な翻訳機を片手にご参加されることをお勧めします。

セミナー参加の様子。AD島崎が翻訳アプリを見ながら必死に意味を理解しようとしています。

セミナーは朝の9時台から始まって、途中コーヒーブレイクやランチをはさみつつ、夕方17時ごろまでみっちり開催されました。
その間ずっと慣れない英語漬けだったので、初日終わった後は頭からプスプス湯気が出そうな状態でした...

本レポートではそんなセミナーの様子をまとめました!
それではどうぞ♪

セミナー初日のキーワードは「Culture」

こちらはWARC社のセミナーのスライド。

Culture in not a gimmick.  −文化は単なるギミックではない−

様々な文化が入り混じるアジア圏。「Spikes Asia」のセミナーでは「Culture」というワードが多く取り上げられていました。
特に初日のセミナーではカルチャーに言及するものが多くあったように感じます。
 
各国のカルチャーによって、コミュニケーションの伝わり方は大きく変わるものです。意図していない意味合いに伝わってしまったり、逆に全く伝わらなかったり。
広告コミュニーケーションが煩雑化している今だからこそ、カルチャーを中心において、企業・ブランド側が“文化を理解すること”がポイントになっていると言います。
 
また、「伝えたいことを受け手側の文脈に調整する」ということも大切。
自社の強みの訴求ばかりを追い求めるのではなく、受け手側の状況を理解することで、共に文化をつくり広げていくことが重要だそうです。
その上でどんなクリエイティビティを生み出していくのかが大事であると...
 
そして、短期視点でのセールスではなく、長期的な視点で社会に対して何を残すのかを考えることで、より良い広告コミュニケーションにつながるとのことでした。

中国の事例を女性のスピーカーの方が説明してくれました。今回のセミナーでは女性スピーカーの割合が多いのが印象的でした。

ここからは各国のカルチャーを理解して、新しい文化創造をしている事例をご紹介します。
 
1つ目は、韓国の大手自動車メーカー・ヒュンダイの事例。
ヒュンダイの高級車GENESISが中国に上陸する際にとったコミュニケーション戦略についてです。
 
GENESISのエクステリアデザインの特徴に、テールからヘッドライト・ボディの輪郭までを貫く「2本の線」があります。
中国市場に導入を検討した際、この2本線が中国の人にとって意味を感じづらいという課題がありました。
そこでヒュンダイはその「2つの線」に対して、中国において大切にされている“四書”の教えをヒントに新たな意味づけを行いました。

万物は互いに傷つけ合うことなく共存する

この考え方は、中国人にとって共感されやすいとともに、高級車GENESISとして、もたらしたいブランドイメージとも合致していました。そこで2本線に“共存”という意味合いを付与したのです。
その結果、「2つの線」は中国で好意的なデザインとして受け止められ、現地の文化に立脚する形で高級車ブランドとしての新しい価値観を掲示することに成功しました。
 
続いて、「トレンドの正しい理解」についても語られました。
トレンドを意識したことによる失敗例の紹介です。ブランドは日本でも人気の家具メーカーIKEA。
中国では21年より、政府が3人目の出産を容認する政策を施行。国民的な関心ごとになっている反面、中国国民の反応は、賛否両論の状況でした。
 
そんな中、IKEAでは「3人の子ども」を4回連呼する、キャッチコピーをIKEA内で掲出。
三人っ子政策のトレンドを意識したものでしたが、それが裏目に出てしまい、SNS上では「3人子どもがいたら、IKEAしか買えないってこと?」という批判的な意見が続出し、炎上してしまいました。

店内ポスターの紹介

検索上位に入るようなニュースを追いかけるだけでなく、消費者の根底にあるインサイトを把握することが、中国におけるコミュニケーションにおいても大切だという意見で、このセミナーは締めくくられました。

続いて、インドの事例。

世界900以上の都市圏でライドシェアサービスUberが、世界一の人口を誇るインドで展開した“Uber Auto” のプロモーションが紹介されました。
 
インド人は並ぶのが好きで「人気なものには何か理由がある」という文化。そのため、上位2-3ブランドが市場の90%シェアを獲得することもあるそうです。
そこでUberは、もともと現地で人気の交通手段である“Autorickshaw”(三輪自動車)に目をつけ、これをライドシェアにすることで、”Uber Auto”としてデビューさせました。
 
彼らは、慌ただしく急成長するインドの経済、インドの人たちを「Unstoppable(止まることができない!)」という表現で肯定し、様々な「Unstoppable Indians」が実際にUber Autoを使っていた実話をもとにCM展開しました。
 
Uber社のYouTubeにセミナーで紹介されたCM動画が載っていたのでご紹介します。

「カオス」とも表現されるインドの交通事情において、Uber Autoは圧倒的な支持を獲得。結果、2018年に導入して、2024年にNo.1のAutoブランドとなりました。

彼らがフォーカスしたのは「人と人とのつながりの移動」であり、それが受け入れられたことでNo.1の立ち位置を勝ち取りました。

サー・マーティン ソレル氏が語る、AIと広告業界

セミナー2日目で最も注目を集めたのは、広告業界のレジェンド、サー・マーティン ソレル氏のAIに関する独占対談です。
英国最大の非上場雑誌出版社のHaymarket Mediaのシルクさんとの対談形式で行われました。 

右: Atifa Silk 氏 左:SIr Martin Sorrell 氏

サー・マーティン ソレル氏ってどなた?と思った方、大丈夫です...!
私も実は、聞いたことあるような、無いような、やっぱり無いような...という感じでした。(小声)

サー・マーティン ソレル氏はイギリスの実業家です。
世界有数の広告代理店であるWPPグループの創業者であり、JWT、Ogilvy、Y&R、Greyなどをグループ傘下に収め、世界一の広告ホールディングスに成長させたすごい方!
長らくCEOを務めていらっしゃいましたが2018年に退任され、その後スタートアップ企業「S4 Capital」社を設立しました。

 名前の前に入る「サー」とはイギリスの叙勲制度における栄誉称号「Sir」 のこと。サー・マーチン・ソレル氏はエリザベス女王から授与されています。

セミナーテーマは「Be Fearless in the Face of AI(AIに直面しても恐れることなく行動せよ)」

AIについては今回の「Spikes Asia」の出展作品の中でも注目のポイントでした。
1日目午前の部の最後に行われたセミナー「スパイクアジア 審査員による洞察」の会でも、審査員の方々が口々にAI関連に関連する作品が数多く見られたと語っていました。

審査員曰く、「クリエイターはテクノロジーへの挑戦をすべきだ。今はまだ人間が門番になって色々とチェックしないとならない。」と。
テックがアイデアのために貢献してるか?それともテックがアイデアになってしまっているか?という議論も審査で多かったそうです。

ただAIを使ってるだけというようなのも多く見られたようで、「AIは手法の一つであり、アイデアのためになっていればいいが、アイデアそのものではない」とおっしゃっていました。 

さて、前段が長くなりましたが、そんなレジェンドのセミナーの内容をかいつまんでご紹介します。

AIが広告業界へ与える影響としては、まず1つ目にビジュアライゼーションとコピーライティングの効率化が挙げられるとのこと。これは制作における大幅な生産性の向上につながるだろうとおっしゃっていました。
ここは、実際アートディレクターである私としても制作の現場で、実感値として感じている部分でもあります。

 また、次のポイントとしてはハイパーパーソナライゼーションの実現。
AIによるビッグデータ解析で、どんどんオーダーメイドのコンテンツ作成と配信が可能になっています。

例えば、NETFLIXのように、データを作ってコンテンツを作る。
AIがそういうモデルを作っていくことで、コンテンツエンジンを巨大なスケールで確立することができ、アウトプットの総数は必然的に増えていくことでしょう。

そして、メディアプランナーについても言及されていました。

メディアプランニングとメディアバイイングの⾃動化によって、世界に25万人いると言われるメディアプランナーは確実に減っていくだろうとのことでした。
人が介在したことによる不透明性の排除や、メディアプランナー費の削減、中間マージンの削減などがすでに進みはじめています。

ここまで、まるでエージェンシーの危機のようなことが挙げられましたが、それでもエージェンシーの立場は今後ますます重要になると言います。
なぜなら、プラットフォームやアルゴリズムが適切に機能して実装されているかを、独⽴した第三者が検証する必要があるからです。

必要な技術は依然としてクリエイティブであり、それらは強くテクノロジーに基づいています。
今後はエージェンシーがテクノロジーに対して本当に深い理解を持つことが、非常に重要であるとおっしゃっていました。

別のGenAI(生成AI)に関するセミナーでも、AIの台頭において、「エージェンシーは時間のかかる仕事から、もっと戦略的なパートナーになれる可能性がある。」と言われていました。

クリエイターもマーケターも、これまで時間のかかっていたフェーズをAIに託しつつ、より戦略的にそれらを選択し、そしてクリエイティブに活用していくことが重要なようですね。

最後に個人的にグサッと来たメッセージを。 

「AIが仕事を盗むのではなくて、AIを使いこなしている人があなたの仕事を盗みますよ。」

本当にそうですね...!

AIの急激な成長によって、この数年で広告業界に大きな波が来ているのは確かです。昨年のカンヌライオンズでもこの点は大きく取り上げられていました。 
その波にのまれてしまうのか、乗りこなしていけるのかで、エージェンシーの未来が大きく変わりそうだと感じました。

 以上、セミナー編はここまで。

お勉強要素が強かったですが、できるだけ噛み砕いてご紹介させていただきました。(本場はもっと専門用語が飛び交っていました)楽しんでいただけましたでしょうか。

最後に、セミナーのステージでスピーカーになりきっている私たちの写真で締めくくります。
最後までお読みいただきありがとうございました!

左:諸岡 右:島崎
セミナー終了後にステージに上がらせてもらいました。もう消えていた舞台照明をつけていただいたり、スタッフの皆さんの優しさに感動...

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