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初恋2

 彼女は1年生の時に深山と同じクラスでそのころからずっと彼のことが好きだった、というのは割りと有名な話だったらしく、その時一緒にいたサッカー部の下っ端から簡単に聞きだすことができました。その後僕のテンションは一気に下がり、移動のバスの中で、以前彼女にテストの答えを教えるために「メス」扱いした女子に、「大丈夫? エチケット袋いる?」と言われ「うるせぇよ」なんてふてくされたりしていました。

 しかしながら僕の初恋はここで終わる簡単なものではありません。今でこそ負け癖ついた恋心ではありますが、初めて抱いた感情に諦めるという思考はまだありません。3年生になり席が離れてしまった僕と彼女ではありますが、oh!デカナイトの録音テープを渡すことを口実に僕は彼女に近づきました。そうなると今度はサッカー部連中が黙っていません。普段口数が少なく、あまり女子と話している様子のない僕が、席の離れた松本さんに話しかけに行く様子がやっぱり不自然に写ったらしく、いつしか「あいつらは付き合っている」というよりも「松本は深山を諦めて手ごろな大熊に走った」という噂が立てられました。松本さんは僕を無視するようになりました。

 僕は松本さんと話せない悶々とした日々を送り、受験生だというのに勉強が手に付かず、夏休みに入る頃には成績はどん底まで落ちていました。塾の夏期講習に行っても上の空だった僕に、1年生のときから見てくれていた塾講師の大学生が心配して呼び出してきました。夜のファミレスで僕は、半べそになりながら胸の内を打ち明けました。そしてその大学生は言いました。

「どうせ来年には卒業してバラバラになるんだから、今のうち告ってすっきりしちまえ。どんな答えでももらえばすっきりするから、それで勉強に打ち込めるだろ?」

 なるほど、その通りだ。僕は一晩悩んだ挙句一大決心をして、8月1日の学校の登校日、放課後の教室に松本さんを呼び出しました。

 もともと微妙な関係になっていた僕と彼女ではありましたので、呼び出した時点で告白したも同然です。僕のことが嫌いなら来なければいいだけの話なので、僕の待つ教室に彼女が恥ずかしそうにうつむいて入ってきてくれただけで、僕は心底ほっとしました。もちろんそれがOKの返事ではありません。教室の入り口から入ったところで立ち止まっている彼女と、そこから対角線上窓側の一番後ろの席にいた僕の間にどれくらいの静寂が流れたでしょうか。なんのきっかけもなしに僕は切り出しました。

「俺、松本のこと、好きなんだわ」

彼女は顔を上げすかさずこう言いました。

「ごめん! ……あ、じゃなくて。なんか、無視したりしてごめん。なんか、話しづらくて。私も、大熊のこと、好きだったんだ」

 外でセミが鳴いていたことにようやく気がつきました。

(つづく)

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大熊信
お金よりも大切なものがあるとは思いますが、お金の大切さがなくなるわけではありません。