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喫茶店の壁

好きなつもりは全然ないのに、好きになってしまっているものは、いったい自分のなかの誰が、何が、好きになっているんだろうか。なんて、そんな描写の小説がきっとあった気がする。

ああ、今日は寒い。寒いのに、近くの喫茶店でアイスコーヒーを頼んでしまった。僕が頼みたいのは、ホットコーヒーだったのに、いったい自分のなかの誰が、何が、アイスコーヒーを頼んだんだろうか、って。

街が壊れていく映像は、ややトラウマのように見れない。壊れるのは怖い。モノでもコトでも、もうなんにも壊れなければいいのにな。壊れないためには、もう何にもつくらないがいいんだろうと思う。だったら、破壊を見ないで済むのになあ。
このままだとずっとずっと壊れてしまう。

喫茶店の壁に変な絵が掛けられている。絵の中になにかアラビア文字が書かれている。絵画にもアラビア文字にも詳しくないから、何も正確な情報が得られない。ただ、絵の中の人間は頭を掻いて、地面を向いて、悲観の顔をしている。白いマフラーのようなもので口元はよく見えない。青色の服が、きっとそう思わせるのかもしれない。背景は朝焼けか夕焼けかで、橙色が広がる。橙色に照らされるのなら、この青はもっと明るんでも良い気がするのに、やたらと影が多くて、少し哀しい。
一ヶ月前に来た時は、微笑んでいるように見えたんだけど、今日はこの人間が少し怖く見えてしまった。

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