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ときどき競馬、どきどき妄想、ときどき散歩

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ときどき競馬、どきどき妄想、ときどき散歩

最近の記事

風の歌を聴こう

ぬるい風が街の光によって少し湿度を落とす気がする。ハイエースの風量を最大にしてとにかく海へ向かう。 ラジオでは夏はもう終わりと、そう思わなければとにかく悲しいと。セミが猛烈に鳴く時季は過ぎた。あとは暫くの暑さを浴びて、やがて項垂れて、また寒さの始まりを待ち、項垂れる繰り返し。 そして、特に暗い海を選んで、今日は缶コーヒーとタバコ。ここでは冬の日本海は煩いことを思い出す。荷台につけたベッドで、ここでは湿り気のある風を浴びた。 虚無の教室時間が刻一刻と迫る十代の記憶によって

    • キルケゴールかハイデガーか

      キルケゴールはうん・・・、ハイデガーはまあうん、これは居合わせた青年がその友人に向けて言った。「死に至る病」を講義で扱ったという。でも、なぜキルケゴールとハイデガーを比較したのか不思議だった。そのあと特に話は広がらなかったので何も分からない。全くヘーゲルの名は挙がらなかった。ここでふとキルケゴールの「不安の概念」に思考が移動した。またひとつ歳を重ねて、不自由(A-)→自由(B-)→不自由(A)→自由(B)→不自由(A')→自由(B')→・・・ と、この繰り返しが死ぬまで何往復

      • 尾崎でチャラ

        風呂場で尾崎の卒業歌ったらスッキリしたわ。 低気圧跳ね返したわ。 ズボンのゴムが片方食い込んだのもどうでもよくなったわ。 シチューが思ったよりシャバシャバになったのも、 病院で元気じゃないのに「ぼちぼち元気です」って言うと、すげえ嬉しそうな顔したクソ医者のせいで、減薬になったのも、 カレー屋に入った後に焼き魚の気分になってしまったのも、 観葉植物が枯れたのも、 こんなこと誰かに言えばいいのに、誰がみてんのかよくわからんこんなとこに書くしかできない大人になったのも、 全部全部尾

        • 風呂はもうあがった

          正確には湯船には浸かっていないので、お風呂に入ったとは言わず、シャワーを浴びた。44度と熱めの湯で、疲れ切った脳をぼーっとさせる。 風呂場に携帯電話を持ち込み音楽を流す。フジファブリックの赤黄色の金木犀。冷夏ではない今年だったと思う。 いわゆる寝支度なんてのはもう終えて、読みかけの小説を30分ほど没頭する。 ともあれSSRIのせいで常時気怠いこの身体は、もう日中のカフェインは効かない。寝ざるを得ない身体をマニュアル通りベッドへ送り込み、明日朝まで数回の小便休憩を挟みつつ、

          狭い

          暗い狭い小さな部屋はひとつ寝返りを打てばスーツケース、また反対に寝返りを打てば少し冷たな右腕。ひらひらしたカーテンの隙間からは高層ビルが見えて、窮屈な街に窮屈に押し込められた身であると実感する。 薄手のブランケット一枚をそれぞれがくるまる。胎児のようにきゅっと小さくなる緑の少し冷たい生き物、窮屈から窮屈を眺める私。残念なことに薄手のブランケットは私の下半身を覆わず、その役割は不十分となる。 ロビーのBGMはよくある保留音だったことを思い出し、しばし冷静さを欠落させていた自

          クラリネット

          雨は何色なんだとおもう?灰色、青色、水色。雨雲レーダーだと強い雨は赤色だから、赤色。 私は音楽に疎い。オスカーピーターソンのJAZZを流して朝の支度に取り組む。捉えるべき正しい感性は分からない。陽気に聴こえればその日のシャツは暖色。陰気に聴こえれば寒色。 アメリカンスピリッツが14本入りにリニューアルした。そのせいかどうかは分からないけど、いつもの黄色がいつものコンビニになかった。仕方なくタールの低いオレンジにしたけど、あのズドン感がたった2ミリで薄まり、もどかしい。

          クラリネット

          おおみそか、ゆききた。

          おっちゃんが待合室で「あんたあ、ここらの人間かいな。おおぎな荷物ば持って」「いや、ちょっと散歩で」「散歩で、どっがらぎたんが」。どっがらぎたか、私はどっがらぎたがよく分からない。どこの人間なんか、こういうときはなんて返せば良いか。おっちゃんはでも、もうもたもたしている間には、回答への不満からか、どっかのそのそと歩いてった。プラットフォームは元々の凍った雪と、新しいふわふわの雪があるから、おっちゃん、滑らんようにな。 《駅で君を待てども待てども来ずと。んで、全部取りやめで、な

          おおみそか、ゆききた。

          がらがらがっしゃん

          すーっと自室の扉の隙間から肉じゃがの匂いがした。窓の外の光はいつの間にかなくなっていて、ああもう陽が落ちたんだ、と気が付く。夕刻の風は冷たい。夕刻だと気が付いてから風が冷たくなったような気がする。布団を深く被る。 メガネはきっと頭の右側に置いたので踏まないように注意しよう。いや、立つ前にかけてしまえば踏むことはないのだから、そうしよう。と手を伸ばすものの右手にメガネは無くて、代わりに軟式ボールがあった。ゴムの匂いが臭い。匂いはすぐに手に移り、手が臭くなる。 寝転びながら頭

          がらがらがっしゃん

          喫茶店の壁

          好きなつもりは全然ないのに、好きになってしまっているものは、いったい自分のなかの誰が、何が、好きになっているんだろうか。なんて、そんな描写の小説がきっとあった気がする。 ああ、今日は寒い。寒いのに、近くの喫茶店でアイスコーヒーを頼んでしまった。僕が頼みたいのは、ホットコーヒーだったのに、いったい自分のなかの誰が、何が、アイスコーヒーを頼んだんだろうか、って。 街が壊れていく映像は、ややトラウマのように見れない。壊れるのは怖い。モノでもコトでも、もうなんにも壊れなければいい

          喫茶店の壁

          さっきした雑談

          1年後にどうなっているか、みんなで話し合ったの。仕事やめてそうとか、小説家になってそうとか、コリドー街でナンパしてきた27歳商社マンと付き合いそうとか、復縁してそうとか、遠距離恋愛は続かなさそうとか。「1年後に答え合わせ」だっけ?そんな正月番組みたいだなこれ。僕はマッチングアプリでコギャルと出会うらしい。 ずっとずっと見えない知らない線を引くのは、楽しいね。 なんか、もっと軽い意味で「生きる道」的なのができた気がする。 1年後のゴールを作ったんじゃない。道を一旦、仮に作

          さっきした雑談

          ラベンダーのパンツ

          朝4時半にサイレンみたいなアラームが鳴ったので、ベッドから脱皮する虫のようにするりと抜け出し、パンツ(下着)だけが入った洗濯機を回す。その間、私はシャワーを浴びながら、小田和正の「キラキラ」を熱唱する。朝4時45分。 濡れてパーマのようにウェーブする前髪が鬱陶しいと思いながら、パンツを洗濯カゴに入れる。レノアハピネスアロマジュエルのおかげでラベンダーの香りが狭い六畳を覆う。一つ、パンツからラベンダーを香らせることに何の意味があるのか。こいつらは今後、冷たい風と熱くない陽光に

          ラベンダーのパンツ

          ブドウパンとプロフィールと交換ノート

          あの茶色の紙包装のブドウパン。レーズンが入ったブドウパン。それは僕が初めてパケ買いしているという意識を持ってパケ買いしたパンです。おじいちゃんに二百円を貰ってセブンイレブンにパンを買いに行く時、決まって紙包装のブドウパンを買いました。味はコッペパンにレーズンが入っているだけで、特段美味しいわけじゃないんだけど。あの中が一切見えない紙包装のブドウパンを今でもパケ買いをしてしまう。紙包装のパンは恐ろしいよね。滋賀で売ってるサラダパンも食べたい。 今日のお昼、五条イオンのダックテ

          ブドウパンとプロフィールと交換ノート

          ここは雪国、もの寂しい月のようだった

          ここは雪国、頼りない空気が流れる。町が全て白一色に染められている。白以外の色ももう白になってしまったような、慈悲めいた色に。 群馬の水上からの上越国境を越え、湯沢にたどり着いた。降り立つと本当に違う国に来たのかというように、身長なんかよりもはるかに高い積雪を見た。違う国、異世界、そういう例えより、もはや時代を越えてきたのかと言う方が適切かもしれないほどである。それは過去へなのか、はたまた未来へなのか、どちらでもあるしどちらでもなかった。 かつて川端はこの雪国を見たか。でき

          ここは雪国、もの寂しい月のようだった

          冬至、横浜の街は日没後の方が明るい

          2020年12月21日。二十四節気の一つ、冬至。一年で最も昼が短く夜の長い日。天文学的には太陽の黄経が270度に達する日であり、太陽が最も南にある状態を言う。 ぼくが今いる横浜市の日の入り時刻は16時33分だった。16時半でもう太陽はおさらばしてしまうのだから、やっぱり寂しいと思う。でもこの街、暗くなると明るくなってしまった。どういうことか。イルミネーションが街中を覆い尽くしてしまったのだ。みなとみらいの観覧車、運河の側道のライトアップ、赤レンガ倉庫ではクリスマスマーケット

          冬至、横浜の街は日没後の方が明るい

          芸能人って、こんなもの? #完

           御堂筋のイルミネーションは想像通りといえば想像通りで期待以上のものは特になかった。御堂筋を歩く人間は皆厚手のコートにマフラーを着けている。そうか、寒さを直に感じながら見る方がイルミネーションは綺麗なのかもしれない。暖房26度の車内はお世辞にも適温とは言いづらく、半身浴をするみたいにじわじわと暑さを感じる。 「お客さん、難波までで大丈夫ですか?」 「はい」 「それにしても、珍しいですね。タクシーで御堂筋をツアーするなんて」 「そうですか。初めて来たもんで」 「普段はどちらで

          芸能人って、こんなもの? #完

          芸能人って、こんなもの? #3

           車止めには4台ほどの黒のクラウンが止まっていた。スマホを確認すると私が配車したのは「た 4532」と書いてあった。最も目の前に止まるクラウンがそれだったので、窓を二度軽く人差し指の骨で叩き、後部座席のドアが自動で開いて、40〜50くらいに見えるドライバーの男が話しかけてきた。 「お客様、行先はどちらまで?」 「今、御堂筋イルミネーションしてるじゃないですか。あれ、すごい綺麗だなあと昨日思って。だから、御堂筋を難波まで下って、四ツ橋でこのホテルまで戻ってきてもらえますか?」

          芸能人って、こんなもの? #3