書評 ~サクッとわかる ビジネス教養 行動経済学~
動機
人の行動をミクロ的にもマクロ的にも分析することが好きなので、ミクロ的な人間の行動を元に理論を形成する行動経済学に興味をもち、この本を手に取った。
書評
良い点
・図が多いため読みやすく、入門書として最適と思われる。
・説明を丁寧に繰り返しているため、スムーズに読み進められる。
・具体例が身近なものでわかりやすい。
・行動経済学の用語だけでなく成功事例も紹介している点がより実践的。
悪い点
・プロスペクト理論やナッジ理論の説明が少ない。
→ヒューリスティックの具体例が多いだけに気になる。
・用語が多く出てくるので、整理のためにまとめページがあるとより良い。
要約
下記に章ごとの要約を示す。説明の再構成や内容の省略等あるので、ぜひ本を買って一読することをおすすめする。
第1章:基礎から学ぶ! 知って得する行動経済学の考え方
従来の経済学では、人間は経済的合理性(経済的な価値基準に沿って合理的に判断した際に利益があるという性質)に基づいて利己的に行動する経済人であると仮定して理論を展開した。しかし、人間は非合理的な行動や利他的な行動を従来の経済学では説明することができなかった。そこで、人間の行動を心理学的に観察することで、帰納法的に理論を形成する経済学として生まれたのが行動経済学である。従来の経済学と比べて現実に則した実用的な経済学であるため、マーケティングなどのビジネスでも活用されている。
第2章:人間らしい心の動き ヒューリスティック
2種類の思考プロセス
人間は意思決定や問題解決の際にヒューリスティックとシステマティックの2種類の思考プロセスを使い分けている(二重過程理論)。ヒューリスティックとは、簡便な法則(経験則)を元にした直感的な思考プロセスである。一方、システマティックとは、集めた情報を元にした経済的に合理的な思考プロセスである。
また、ヒューリスティックは効率的で速い思考プロセスであるものの、判断結果に偏りを含む可能性がある(認知バイアス)。バイアスのかかりやすいヒューリスティックとしては、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック、固着性ヒューリスティック、が代表的である。
利用可能性ヒューリスティック
利用可能性ヒューリスティックとは、思い出しやすい記憶を元に判断する思考プロセスである。ブランドのロゴや音楽などはこのヒューリスティックを利用している。
主な利用可能性ヒューリスティックは、選択的知覚であrる。選択的知覚とは、多くの情報の中で自分にとって重要な情報のみを選択的に知覚することである。また、カクテルパーティー効果(音声の選択的知覚)やカラーバス効果(視覚の選択的知覚)は選択的知覚の例である。
代表性ヒューリスティック
代表性ヒューリスティックとは、代表的なものを元に全体も同様であると結論づける思考プロセスである。
代表性ヒューリスティックは、少数の法則(サンプル数の少ない偏った情報を元に過度な一般化を行うこと)やステレオタイプ(ある集団の特徴を単純化した一般的なイメージ)などを元にした思考をする場合に起こる。また、平均への回帰(偏った特徴を持つ集団であってもサンプルを増やすことで平均に近づくという現象)を失念している場合にも起こる。
さらに、相手の代表性ヒューリスティックを利用することもでき、初頭効果(最初に与えた印象が後の評価に影響を及ぼす現象)やピークエンドの法則(感情の絶頂時の出来事と終わり頃の出来事のみで過去の事柄を評価する法則)が例として挙げられる。
固着性ヒューリスティック
固着性ヒューリスティックとは、事前に得た情報に固着して判断する思考プロセスのことである。
固着性ヒューリスティックの例としては、フレーミング効果(同じ事柄であっても表現方法を変えることで違った印象を与える現象)、アンカリング効果(はじめに提示した基準となる条件がその後の判断に影響を与える現象)、ハロー効果(目立ちやすい特徴に引きずられて他の特徴の評価を歪める現象)、プラシーボ効果(知識が知覚に影響を与える現象)、サンクコスト効果(損をする可能性が高くても、過去に投入して回収できない費用を考慮に入れることでやめられない現象)、などがある。
また、極端回避性(極端なものを避けて中間を選ぶ心理的特性)もこのヒューリスティックにより起こる。
その他の話題
ヒューリスティックは3つに分類されるが、心理的効果をこの3つにはっきり分類することは難しい。特に、利用可能性ヒューリスティックと固着性ヒューリスティックの間での分類は難しく、カクテルパーティー効果、ハロー効果、プラシーボ効果、などはいずれの特徴も持つと言える。
また、時間的選好と社会的選好は3つのヒューリスティックに分類することができない。時間的選好とは将来よりも現在の出来事の効用を過大評価(現在バイアス)して選択することであり、社会的選好とは他者の効用を考慮して選択をすることである。
社会的選好の例としては、スノップ効果(他者の消費が増加することで購買者自身の需要が減少する現象)、バンドワゴン効果(多数が選択することによって選択者が増大する現象)、ヴェブレン効果(高価な商品ほど顕示的な消費が増加する現象)、などがある。
また、人間の持つ互恵性(他者の行為に対して何らかの形で報いる性質)や利他性(他者の効用が高まることを考慮する性質)も社会的選好へ影響を与える。
第3章:意思決定の仕組み プロスペクト理論
プロスペクト理論
プロスペクト理論とは、不確実性のある状況での意思決定モデルを表す理論である。プロスペクト理論では、意思決定プロセスを編集段階と評価段階の二段階に分けて考える。
まず、編集段階では、与えられた選択肢を認知的に再構成する。この段階では結果を利得と損失に分ける心理的操作がなされ、分割する点を参照点と呼ぶ。ただし、状況に応じて心理的な変化があるため、参照点も変わり得ることには注意が必要である。
編集段階で与えられる選択肢の例としてメンタルアカウンティング(金銭を無意識的にカテゴライズして判断すること)がある。また、メンタルアカウンティングの例としてはハウスマネー効果(取得したお金にかかったコストが低いほど散財するという現象)が挙げられる。
そして、評価段階では、編集段階において再構成された選択肢の中から評価値の高い選択肢を選ぶことで行動を決定する。この段階では価値関数と確率加重関数を元に評価が行われる。
価値関数
価値関数は、横軸を人間の感じる損失や利得の程度、縦軸を(感情的な)価値の大きさ、としてグラフ化したものである。
価値関数は二つの性質を持つ。一つ目は、同じ額では利得よりも損失の場合に価値の変化が大きいことであり、これは人間の損失回避性を示す。二つ目は、価値関数は参照点から離れるほど価値を過小評価することであり、これは収穫逓減の法則を示す。
また、目の前に利益がある場合は確実に得ようとする傾向(リスク回避的)があり、損失を重ねている場合はリスクを取ろうとする傾向(リスク志向的)があることも価値関数を元に説明することができる。さらに、編集段階にて状況に応じて参照点の位置を決めるため、同じ額であっても価値の感じ方は異なる。
確率加重関数
確率加重関数は、横軸を客観的な実際の確率、縦軸を主観的に感じた確率、としてグラフ化したものである。
確率加重関数の性質は、低い確率を過大評価し高い確率を過小評価することである。また、死亡率の低い飛行機事故や感染症を過剰に恐れるのはこのためである。
第4章:マーケティングに活かす! 行動経済学の活用事例
ここまでで紹介した心理的効果以外のイケア効果(自分の創作したものを過剰評価する現象)や韻踏み効果(語呂は人間の記憶に残りやすいという利用可能性ヒューリスティックの現象)なども含め、行動経済学の活用事例を紹介している。本記事では本章の内容は割愛する。
第5章:行動経済学の目玉! ナッジ理論
ナッジ理論は、小さなきっかけを与えることで自発的に望ましい行動を選択するように促す理論のことである。ナッジ理論により説明できる例としては、デフォルトと保有効果が主に挙げられる。デフォルトは、選択の自由がある際に選ばせたい選択肢を初期設定にすることである。この場合、選択者は他の選択肢を吟味することを嫌うため、元々の選択肢を変更しにくくなるという傾向を利用している。保有効果は、自分の持っているものに実際よりも高い価値を感じるということである。この効果は実際に持っていないものにも働くため、オークションで一度でも入札すると高額であっても入札を続ける現象として現れる。
第6章:ビジネスで役立つ! 行動経済学の応用法
本にて扱った心理的効果を日常生活等に応用する例を示している。本記事ではこの章の内容は割愛する。
参考
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