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大吉堂読書録・2023年11月

『図書館へ行こう!!』
いやあ楽しい。日本全国の公立図書館、大学図書館、企業図書館、私設図書館、などなどを紹介するムック本。様々な特徴があり、どこもかも行ってみたくなる。
図書館とはどういう所なのかにも着目し、単に「オシャレ」なだけではない魅力や役割も伝える。さあ図書館へ行こう!!

『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』(奈倉有里)
ロシア語研究・翻訳家の著者が翻訳について語る。
クエストを提示して、どう解決するかを考える形なのでわかりやすい。外国語を学ぶことの意味から始まり、翻訳の極意に至るまで。単に言葉を置き換えるだけでない楽しみを伝えてくれる。

『インナーネットの香保里』(梶尾真治)
世界を変える大きな力を持つ青年の個人的な望みを叶えるために、女子中学生・香保里が同行する。
懐かしのジュブナイルSFのようでもあり、これは「セカイ系」ではなかろうかと思ったのです。大きな物語の中で主人公の視点で描かれる限定された世界。翻弄されつつ自分を確立する物語。

『杉森くんを殺すには』(長谷川まりる)
杉森くんを殺さなくてはいけない。その理由を考えて挙げていく。
人と人の関係性の物語。誰かを支えて、支えられて、支えられなくて、支えてほしくて。
主人公視点の物語は、主人公とともに視界が開けて新たな世界が見えてくる。その時の想いは心の中に残り語りかけてくるだろう。
これは読んだ人と語りたいなあ。なるべく前情報なしで読んでほしいから、語りたいことが語れない。僕自身これは!と思ったのでなるべく情報を絶っていた。
この手法を児童書で扱うのかとか、ここで取り上げられた問題はあれとも繋がるよねとかとか。でもYAはいいぞということだけは大声で語っておこう。

『言の葉の森 日本の恋の歌』(チョン・スユン、吉川凪・訳)
日本の小説や詩を韓国で翻訳している著者が、和歌を訳してそれにまつわるエッセイを添えた本を出版し、それを日本で翻訳したもの。そこに翻訳の面白さがあります。
歌から想起されるものは時代や国を超えるのか。韓国の人だから思うのか、現代の人だから思うのか。それとも個々の人の心によるものなのか。時代や場所を超えたものがあるのだろうか。

『鵼の碑』(京極夏彦)
久し振りのシリーズ新作だけど割と地味だなあ。と思っていたら、じわじわと面白くなってくる悦び。
多視点描写の面白さ。こことここが繋がるのかという驚きと快感を、こことここは繋げちゃいけないというものと絡める。
過去が舞台の物語なのに、実に今が描かれている物語の妙。
これはアレみたいなものかなと思っていたら、最後の最後にそのまんまアレだった驚き。
いつもの登場人物がなんやかんやしているだけでも面白いのは、シリーズを追ってきた(待っていた)者の感慨。
待ってました! と快哉上げる読了感でした。

『私立探検家学園3 天頂図書館の亡霊』(斉藤倫)
物語の歯車が音を立てて動き出したかのような第3巻。
文化の違いは言葉を異なるものにして、同じ感情も別の意味をもたらす。それは友達同士にも言えること。
それぞれの背景から生み出される感情や行動の理由。そこの描かれ方が素敵なのです。
探検家の養成。特別な授業。並行世界としか思えない場所での実習。個性豊かなキャラクターが、特性を活かしてクエストに取り組む。
これらの要素はエンタメものが好きな人にきっと刺さるはず。児童書だからと敬遠するのは勿体ない。

『さみしい夜にはペンを持て』(古賀史健)
日記の書き方や意味を示す。日記を書くことで自分と対話し、自分との関係を築く。日記は未来の自分に向けて書かれる物語。
それをいじめられている中学生タコジローの物語に乗せるのが素敵。
きっと日記が書きたくなる。自分のことを好きになれる。

『虹色パズル』(天川栄人)
変わっていると言われる女子中学生・琴子は、夏休みにドラァグクイーンのおじさんの家で暮らすことになる。
「普通」って何だろう。LGBTQ+、ASDだけでなく、様々な「普通」に「?」を突きつける。
この物語で窮屈さから逃れられる人もいるだろう。偏見が揉みほぐされる。
僕は子どもの頃から「普通」がわからなかった。「みんな」と同じでいられなかった。そういうものなんだと開き直っていた。
でも自分と同じ感覚や感性や思考の持ち主と出会えた時に、解放された気持ちになった。やはり窮屈だったんだよね。
だから世界は様々な色や形で満ちていることを伝えていきたい。

『猫の尻尾も借りてきて』(久米康之)
想いを寄せていた女性の死の真相を探るため、タイムマシンで事件現場へと向かう。
タイムパラドクスもののややこしさに頭をひねりながら、パチンパチンとピースのはまる快感を味わう。
理知的なだけでなく、ノスタルジー的な色付けも為されるから堪らない。

『魔導師の娘 クロニクル千古の闇7』(ミシェル・ペイヴァー、さくまゆみこ・訳)
まさかの新刊に驚き飛びつく。
6千年前を舞台にしたファンタジー。お馴染みのキャラクターが繰り出す新たな冒険に心踊る。
古代の宗教観や自然観を基にしたようなファンタジー描写の説得力が、魅力であり醍醐味だろう。きっと当時の人々には見えていただろう景色が描写されています。


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