見出し画像

会社を作ったって話

今回は全文無料公開。

そう、こないだ会社を作った。とても小さな合同会社だ。名前を「合同会社常磐ラボ」(ときわらぼ)という。

こびんデザインの谷越さんに作ってもらったロゴ
https://cobin-d.com/

あたしはただの大学教員。
大学教員はあんまり起業とかしない。
でも、ちょっと思うところがあって、起業した。

何をする会社か。

あたしの会社では、イベントの経済波及効果の推計業務を担う。
オリンピック開催に伴う経済効果は〇〇兆円ありました!っていうあれだ。あれのもっとローカルなやつ。
お祭りとか、地域密着のイベントとか。そういうものの地元への経済波及効果を推計する。コンサルっぽい調査系の会社だ。

唐突に、夢を語る。
あたしには夢がある。(I have a dream.)

あたしの夢は、「意欲ある学生がバイトに溺れずに勉強できる世界を作ること」だ。社長の夢とはつまり、我が社のビジョンでもある。経済波及効果を推計することが仕事なのに、学生の世界がどうとかどういうこと?と思うだろう。少し説明する。(この辺の、会社の業務とめざすビジョンのベクトルが一致しない時にどうやって会社を売り込めばいいのか、実はまだよくわかってない)

さて、ビジョンの説明である。

ゼミその他の活動で他大学に遠征したいが金がない、資格試験を受けたいが金がない、インターンシップ先の企業まで辿り着くために交通費がかかるがその金がない(インターンシップそのものの費用は会社が出してくれたりする)。学生が色々とやろうと思ったとき、その学生が意欲的であればあるほど金がかかる。だが、地方の学生はだいたい金がない。だからどうするかというと、当然バイトするのだ。そしてどうなるかというと、バイトに時間を取られてやりたいことができなくなるのである。

金を得るためにするバイトのために時間が無くなりしたいことができない、というバカみたいな話が、地方の大学生界隈には山のようにある。東京や都市圏は知らないが、地方にはマジであるあるオブあるあるの話だ。

バイトばっかりして、学生の本分をなんだと思ってるんだ!と鼻息荒く叱るのは簡単だが(そういう人は実際いらっしゃる)、それで問題が解決するなら誰も苦労しない。学生だって勉強や活動に支障が出ない範囲のバイトで必要な金が得られるならそうするのだ。自分がやっていることが本末転倒であることは学生自身が一番よくわかっている。

だが、このバカみたいな話は学生個人の資質の問題ではなく、一つの社会構造なのである。だからこそ、似たような社会状況の地方ではこういう話が山のように出てくるのである。

こういう社会構造と、そこに嵌め込まれて身動きが取れずにいる学生たちを、あたしはこの10年間の教員生活の中で嫌というほど見てきた。勉強や学生生活などを真面目に送る気がないのならいい(よくないけど、あたしにはどうにもできない)。でも、そうではなく、このループはモチベーションが高い学生ほどどんどん嵌まっていくのである。そりゃそうだ。やる気があるからこそ、お金の問題にぶち当たり、だからこそバイトするという話になって、その真面目さゆえ必要額を自分の力だけでなんとかしようとする結果バイトを入れすぎてしまい(あるいはシフトを入れられてしまって)、上記のような結末に至る。ある種の罠だ。

この罠をぶっ壊すこと。これは、大学教員にとって大いなる挑戦だ。きっとこのような問題に対して似たような感覚を持ったことがある大学教員は全国にこれも山のようにいるはずだ。

10年間、ずっとこのバカみたいな社会構造をひっくり返してやりたくて、ずっと考えていた。そして、あたしが会社を作って、そこでバイトとして学生を雇い、彼らに働いてもらって対価を支払うという仕組みは割といい感じで回るのではないかと思った。

問題は、何を事業とするかということだったのだけれど、数年前にとあるイベントの経済波及効果の推計業務を請け負ったことでふと思いついたのだ。これをやる会社を作ろうと。

理由は大きく三つある。
一つ目。自分ができることだから。
本業の大学教員としての仕事と並行してできる業務でなければ、副業はできない(あたしの場合は)。なので、自分の技術でできることをやろうと。あ、もちろんこの起業に関して所属先からの許可はもらってます。

理由二つ目。多分求められているから。
何かとエビデンスが必要な時代だ。
イベントを打つにも、これくらいの経済効果があるものです、と数字で語れる方がいい。もちろん推計なので正確な値が出るわけではないが、そのイベントが一体どれくらいの経済的な価値を地域にもたらしているのか把握する一つの基準にはなりうると思う。

理由三つ目。教えられるから。
これが今回の起業に関してとても重要なポイントだ。
ぶっちゃけた話、経済波及効果の推計をするだけならば、わざわざ会社を作る必要はない。なんならこれまで何度か依頼を受けて、大学教員として行ってきた仕事である。

ではなぜ起業したのか。上述のように、大きなビジョンとしては、「意欲ある学生がバイトに溺れることなく勉強ができる世界を作ること」だが、具体的には推計作業を学生に行ってもらうことになる。それにより対価を払うのだ。

ただ、これには経済波及効果の仕組み、データの取り方、データ整理の仕方、Excelで行列計算をする方法、計算結果をレポートとしてまとめる方法、などなど業務を受けてから成果物をクライアントに戻すまでにきちんと勉強しなければならないことがとても多い。そして、これらはあたしが教えられるものだ。しかも、本業の中で教えられる。

相手は意欲ある学生。きっと熱心に学ぼうとしてくれるはずだ。そして、勉強した成果を業務で発揮すれば、対価として給与が支払われる。この出口が見えているなら、勉強にもモチベーションが上がるのではないかと思う。いわゆる learn to earnというやつだ。

勉強とお金、ゼミ活動とビジネスを直接接続するのはどうなのか。勉強は金じゃないぞ!という正論っぽいけど筋はあんまり通ってない話は耳にしたことがある。だったら、モチベーションをお金に絡ませなくても勉強してれば金銭的に困らなくなるような方法を教えてくれ。そこまで出口を用意した上で、いいだけたっぷりとお説教してくれ。あたしも知りたいから真面目に聞くよ、そのお説教。

わざわざあたしがこんなことしなくたって例の社会構造を打破できるなら、それに越したことはないとこっちも思っている。だってめんどくさいもん。単純に。会社作らなきゃいけないし、資本金だってポケットマネーだ。仕事を取るために営業もしなくちゃいけないし、仕事量だって増える。経理?一番嫌い笑その上確定申告と納税までしなきゃいけないし、会社潰しちゃうリスクだってある。めんどくさいことこの上ない。

でも、やる。(1)自分ができること、(2)社会にニーズがあること、(3)自分が教えて学生が学ぶという構図が確立できること、(4)そしてきちんと勉強した学生がその知識と技術を使って仕事をした結果ある程度まとまった金額を稼ぐことができること

これらを同時に満たす可能性がある方策は、きっと例の社会構造をぶっ壊しうるものになるはずだと信じるからだ。自分の夢のためだ。

もちろん規模は小さい。あたしができること、手を差し出せる範囲の学生の数などたかが知れている。それで社会の全体が変わることなどあり得ない。結局は自己満だろうというのもわかっている。でもそれでいい。自分の手の届く範囲の学生に、何か直接的な手段を提供することから始めなければならない。

そして、もう一つとても大事なことがある。それは、「身銭を切る姿を後に続く子どもたちに見せる」ということだ。自分がやりたいことのためにリスクをとって課題に挑む大人の姿を、きっと後に続く子どもたちは評価してくれるはずだ。「あいつは身銭を切っている」と。人は、結局身銭を切ってる人のことしか信じない。未来に大した希望が持てなくなってしまった時代のど真ん中で生きていかねばならないのは、あたしではなくあたしがまさに手を差し出そうとしている学生たちや、その子どもたちなのだ。彼らに、身銭を切って生きる姿を見せること。

それが重要だ。後に続く人たちにこの人生には生きる価値があると思ってもらわないことには、多分この国の未来はない。それには大人が身銭を切るしかないとあたしは思う。

少しでも、自分の人生を前に進め、自分以外の誰かが人生を前に進めることに意欲的になれるような結果につながれば、とても嬉しい。

では
👋

ここから先は

0字
マガジン発行以降に書いた記事は全て有料記事にしています。もし月に2本以上読む場合には、定期購読の方がお得です!

脳みそダダ漏れマガジン

¥198 / 月 初月無料

僕が大学教員として、また家庭の主夫として日々考えていることのまとめです。内容は育児とダイエットと読書感想文が多めで、分野はあまり統一されて…

サポートされたら、とても喜びます。