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尻物語救急編

この尻物語は、留学中に痔瘻(じろう)という病に冒されたひとりの日本人若手(当時)研究者の尻に関する体験談である。今回、物語は一つのクライマックスを迎えることになるだろう。ああ、もう思い出したくない。

あの日僕のお尻を襲ったのは、箪笥の角に深爪した小指をぶつけた時をも遥かに凌ぐ激痛だった。

痔瘻とは、体内の直腸と肛門の境目にばい菌が溜まって、そこから炎症と化膿がおきて体内が侵食されて、直腸から膿の通路が肛門ではない部分に貫通してしまう病気である。

知らない人からすると、鳥肌ものの病状説明である。肛門以外に直腸から体外に通路ができてしまうのだ。普通の想像力ではちょっとイメージが湧かない変態的病である。

痔瘻発症に関する詳しい経緯は前三編に書いたので、興味がある方はご覧いただきたい。また痔瘻自体は決して珍しい病気ではないので、明日は我が身と思ってぜひ知っておいてもらいたいというのは筆者の胸奥の望みでもある。

また、あの痔にはボラギノールのHPでも解説されているので、現代人の教養の一つとしてぜひご一読いただきたい。

さて、そんな前置きをしてからいよいよ我が物語の続きへとご案内しよう。
今回、本編には救急編というタイトルをつけた。これは誇張ではない。

そして今回は結末から述べよう。手術台の上で僕は叫んだ。It’s burning!!

エリーのアドバイス

「病院に行くなら救急に行かなきゃだめよ」

彼女はそう言うと、僕の顔を人差し指で指しながら「いい?よく聞いて。」
幼さを醸し出す笑窪と少し悪戯っぽい笑みをいつものように口元にたたえながら、生徒に常識を諭す先生のような口調で彼女は続けた。

以下は友人エリーと僕の会話である。
エリー「いい?よく聞いて。救急に行かなきゃだめよ」
僕「え、なんで?」
エリー「ここがイタリアだからよ」
僕「え、なんで?」
エリー「ここは日本じゃないの。わかる?ここはイタリアなのよ。救急に行かないと一生診察受けられないわよ」
僕「え、なんで?」

10年前のことなので詳細は覚えてないが、終始こんな調子のやり取りだった。

要するに、イタリアの病院はあまりに効率が悪過ぎるので、診察を受けるまでの手続きにやたらと時間がかかり、真っ当に受診したら一生順番が回ってこないのだそうだ。

「ましてやダイキ、あなたは外国人だから、それだけでもう受付が受け付けてくれない可能性があるわ」

なるほど。理解した。

エリーは留学先の大学院生。本名をエリザベス・ジェーンという。名前からわかるように、イギリス人の母とイタリア人の父から生まれたのハーフだ。性格もそれっぽい。純粋なイタリア人ほど激情的でなく、どこか英国の空気を感じさせるクールさも兼ね備えた女性である。前回の相談編でも書いた通り、母親の手解きにより英語がとても上手だったので、今回の痔瘻禍の諸々を相談していたのである。

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