御札物語
「カードをお取りください」
お忘れ物のないようお気をつけて…
「やぁ、こんにちは」
「こんにちは、はじめまして。」
「これからしばらくよろしく」
「よろしくお願いします」
「あんたはどこから?」
「僕はこの辺りをずっとグルグルしてる」
「そうなんだ、何人くらい渡り歩いたんだい?」
「んーあまり正確には覚えてないけれど、今のこの人で多分250人目のお財布かな」
「250人!結構多いな!」
「うん、そう思う。いつも見る景色が似たような感じで、目印になる大きな建物が一つだけあるんだけど知っている?それがいつも見えるところで支払われるから多分ずっと同じ街にいるんだと思うよ。君は?」
「俺はわりといろんなところを転々としているよ。ここに来たのもの多分初めてだ。さっきATMで引き出される前は、確か関東の方で仕入れの支払いに使われてね、業者の人がこっちの方らしくて、ちょっと前にあそこに入金されたんだ。それを、今この人が引き出したってわけ。」
「へー、そうなんだ。遠いところから来たんだね。いつも思うけれど、僕らはほんと偶然に出会うし、別れもいつも唐突だよね」
「そうだよな、関東の会社の支払いで使われた俺が、まさかこんなところに入金されるなんて思ってなかったし。そしてこんなタイミングであんたと出会うのも偶然だもんな。」
「今度はどこに行くんだろうか?」
「そうだなぁ、まぁ結局こいつがどこで金を使うか次第だよ」
「あんたはどこに行きたい?この街から出てみたいと思ったりはしないのか?」
「それも考えたこともあるけれど、さっき君が言ったように、それは結局この人がどこでお金を使うか次第だし、もっと言うと、僕を受け取った人がどこでお金を使うか、またその先の…。」
「あーもういいもういい!ふぅ、先々のこと考えても意味ねーよ。とりあえず落ち着いたところで誰かのふところを温める以外に俺たちにできることは無いからな。ははは」
「そうだねー、でも今思ったけれど、僕がこんなにこの街から出たことがないのって、じつはすごいことなのかも」
「何が?」
「だってさ、僕を受け取った人が、たまたまこの街の誰かに僕を渡したってことでしょう?」
「まーそうだな」
「人間ってバカみたいに遠くに行ったり、遠くの会社と取引しててお金を払ったりしているのに、たまたま僕を受け取ったひとはこのまちの中でお金を使って、また僕を受け取った人もこのまちの中でお金を使って、みたいなことを250回も繰り返しているって凄くない?」
「なるほどー確かに。まーでも単に小心者の田舎もんの間をグルグルしてただけって可能性もあるぜ?」
「あはは、確かに。でも僕ら現金は別に人間のパーソナリティなんて関係ないからね。あ、でも雑に扱う人じゃない方がいいとは思うけど」
「それはある」
「あっ」
「あっまだ話してんだぜコラ!はー、コンビニかー、あいつ今度どこに行くかな。とりあえず銀行の金庫の中かなATMにでも入れられんのかな。またこのまちの誰かに引き出されて、誰かの懐をあっためてやれよー。」
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