読書備忘録:建築家のアタマのなか/小堀哲夫
実務での設計を経験しても大事にすべきことを再認識できて、この時期に読めたのはタイミングが良かったかなと。
【建築家のアタマのなか/小堀哲夫】
空想するちから、観察するちから。
そして、共鳴・共振の渦を巻き起こし、多くの人を巻き込むちからと共に目に見えない空間の本質を創り上げる。
問いを空想し、かたちにしていく楽しさを原動力にしていきたいと感じた。
以下は本文の抜粋。
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建築家にとって大切なのは空想する力だと僕は思う。建築家の仕事とは空想を原動力に、みんなの思いや願い、夢をカタチにしていく仕事だ。
いつもと同じことをしていてもクリエイティビティは生まれにくく、いつもと少し違うこと、手を動かしていつもより少しエネルギーを使うことが必要なのだ。
空想の次に大切なもの。
次に必要なものは観察する力だ。
制約はチャンス。法やコストなどの制約は性格であり、その性格を肯定し、伸ばしていけばいい。
そうすれば、敷地は秘めていた力を発揮してくれる。
常に変化している世の中では、対立や制約は自然なこと。
これまでの逆をいく。
モノの重さを知るということ。チャレンジと無知は雲泥の差がある。
風景をつくる建築。建築があるからこそ美しい場所を美しいと感じることができる。光の変化や風の肌触り。自然は自然だけで成立するのではなく、それを感じるための箱、つまり建築が必要なんだと。建築とは風景を認識させる装置なのだ。
ゆらぎのある心地よさ。
かたちのないものをつくる。
多数決で選んでも、いいものはつくれない。何が必要か。誰かが良いと言ったかではなく、自分はどう感じるのか。どんな空想を膨らませていくのかである。
建築の本質はどこにあるのか。色や形ではなく、空間の中で行われる営みやその場所の空気感のようなものが建築の本質だと考えている。建築という形あるものを設計する仕事ではあるけれど、かたちのないものをつくりたいのだと思う。建築によって、光や風、自然、音といった状態や営みをどのように感じることができるか。
幸せな「居場所」がどれだけあるか。
機能的な建築はとても使いやすいと思うが、「なんだか心地いい」と思えることも大切だ。豊かさとは選択肢の多さだと思う。自分が幸せを感じられる居場所がオフィスや学校に、街に、どれだけあるか。それが街やオフィスの魅力を測る尺度になると考える。
居心地の良さは“場所”のつながりから生まれる。
「環境」という言葉には2つの意味があると考えている。1つは空間内部の環境だ。これは空間に身をおく人に建築がどのような影響を与えるか。もう1つは、建築が外部環境、つまり建築と取り巻く都市や自然、社会に至るまで、建築の外側のあらゆることに対してどのような影響を与えるか。新しい建築をつくることで、周囲の自然や地域、都市に住む人々にも良い影響を与え、そのつながりが強まり、交流が増えてほしいと思った。
“らしさ”とは何か。
専門性を打ち出す建築家や設計事務所も多いけど、僕自身は自分のスタイルを固定しなくてもいいと思っている。むしろ固定できないほど、建築への興味が尽きない。
自分らしさ。それは何かに自分を当てはめてしまっているような気がしてならない。自ら何かに自分を当てはめる必要はないと思っている。人は多面的だから自分が知らない自分がたくさんいる。それは人に言われて気づいたりもするし、思い掛けない出来事をきっかけに知ったりもする。
空想力の鍛え方。
空想力は誰にでも備わっている力だと思う。それをどう鍛え、発揮するか。
空想はまず、感じることから始まる。
ネットや本で調べて、先に言葉にしたがる。しかし僕が心掛けているのはその反対で、先に体験してみて、それから言語化することが多い。言語化するということは説明できるということ。つまり先に頭で考えてしまっているのだ。だから、まずは行動してみてほしい。現地に足を運んで、全身で感じる。身体全体で捕まえにいくような感覚だ。そうすると、誰かに聞いた何かではなく、自分の血となり、肉となる。腹落ちした感覚を味わうことができる。
大切なのは“答え“よりも“問い“
アインシュタインも大切なのは、問うことをやめないことだと言っている。中島さち子さんも、数学の世界では、実は『問い』をたてることにこそ、莫大な価値があると教えてくれた。そのためには当たり前のことを当たり前にとらえないことが大切だ。問題意識をもって物事を見て、「本当だろうか」と問うてみる。それが自分ごとにするということ。
空想も、問いと似たような要素があると思う。空想にも人を動かす力があるのだ。
建築家の仕事は、空想をつくり出すことだ。
不安定で正解のない今の世の中で、生き抜いていくために最も必要な力が空想だと思う。
空想力はすべての原動力となる。
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目に見えない空間の本質をつくるために、目にみえるかたちをつくることが設計の醍醐味であり、制約をトリガーにしながら、“なんか心地いい"状態を生み出したいと初心に帰ることができた。
やはり建築設計は面白い。
自分の素直な空想力を信じてみよう。