おわってないのに勿体ない
3月15日、早稲田大学の同輩とともに静岡県は南伊豆町という町を訪れた。今春2度目である。
私は大学入学以降、昨夏には青森県田野畑村の青鹿寮に1週間ほど滞在したり、昨年11月には2泊3日で福島県双葉郡の復興状況や福島第一原子力発電所などを見学したり、今春にも福島県大熊町で地元住民の方々からお話を伺ったりと、地方創生に関する学びを深めてきた。
今春は南伊豆町より「観光客から関係人口へ 若者が南伊豆に関わる施策を考えよう」というテーマを与えられ、2ヶ月という限られた時間のなかでオンラインヒアリングや現地視察を通して学び、政策を立案するプロジェクトに参加している。
そもそも、本プロジェクトは早稲田大学教育連携課が主催するものであり、今年度は南伊豆町のほか岡山、長野、新潟など複数の市町村が参加している。学生はそれらから第一、第二志望を選択し、申し込む。参加にあたっては参加可能枠が限られているため選考がある。
ちなみに、早稲田大学では最近地方創生への関心が学生、大学当局ともに高まっており、地方創生分野に取り組む新たなサークルやコミュニティができたり、24年度からは副専攻「地域連携・地域貢献」が新たに創設される。
私以外の学生がどうなのかは知らないが、私自身は単に地方創生に関心があるなか、ちょうど良いスケジュールでテーマが面白そう、というだけで本プロジェクトに参加したのみであり、南伊豆町とは縁もゆかりも無い。そもそも知らなかった。
過去訪れた岩手や福島での経験が私の地方創生への関心の基礎である。今回訪れた南伊豆町も高齢化が進み、1950 年代には 16,000 人だった人口も現在約 7,800 人にまで減少している、データ上では日本の多くの地域でもみられる典型的な過疎地域のひとつである。
当然、地域それぞれ事情は異なるものの、いままでの経験から多少なり一般的な過疎地域の問題点は分かっているつもりであった。
2月にはフィールドワークとして南伊豆町を3日間滞在した。実情は他の過疎地域と比較して、まったく「おわっていない」ことに気づいた。
第一に、この町には美しい自然がある。ユネスコジオパークにも登録されている伊豆の地政学的特徴は訪れる人を魅了する美しい地形を生み出す。
また、春の時期には桜と菜の花が見られる。近くには「河津桜」で有名な河津があり、そちらは平日でも大いに賑わっているが、南伊豆町には良いか悪いか人が少なく、のんびり散策を楽しめる。
第二に、意外と若い人が多いことである。若い人、といっても近くに大学は存在しないし、義務教育学校も大変小規模であるが、20代〜40代はそこそこに多そうだ。移住してきた方々、地域おこし協力隊として活動される方々、ふるさとワーキングホリデー制度やお試し移住制度を活用される方々など、来た理由はさまざまであったが、役場の方々の計らいによって多くの方からお話を伺うことができた。
南伊豆町で長くお住いになっている地元の方々ともお話しをすることができた。「外部から来た人を白い眼で見ること、昔はあったけどね〜」と話すお母さん。地元の食堂で外国人のおじさんと気さくに話す女将さん。外部から来た人に対して拒絶感が少なく、あたたかい人々だった。東京には無い、南伊豆の価値そのものであると感じた。
ちなみに、私は東京出身の江戸っ子であるが、母方の祖父母は田舎に住んでいたから、まったく田舎に関わりがなかったという訳ではない。しかし、2人が他界して以降、正月も盆も東京で過ごす日々がここ10年弱続いている。地元の方々とお話ししたのは、あの頃の記憶がフラッシュバックしたような体験だった。当然、政治的な地方創生政策に関心があって本プロジェクトに参加しているものの、田舎が好きという感情を再確認できた時だった。
東京でしか生活したことがないような学生にも、南伊豆町ならではのこのような美しい自然と暖かい人を体験したい学生は多いだろう。
こんな素敵な自然、あたたかい人がいるのに、町は活気を失い、将来の担い手を見つけることができず、廃れつつある。南伊豆町は全く「おわってない」のにこのままでは「もったいない」。事前に多く調べていたつもりではあったが、実際来てみて更に本プロジェクトへのモチベーションが上がった。一般に刺さることは当然ながら、自らも "関係人口" の一員となり、恒久的に関わることができる施策を提案する、という個人的な本プロジェクトにおける軸を確立することができた。
昨日は南伊豆町役場にて町長をはじめとする関係者のみなさまに提案させていただく、最終報告会であった。我がチーム「まめたい」(静岡の方言で働き者を意味する)は、交流に焦点をあてた大学生の合宿開催を主とする施策をプレゼンさせていただいた。
本プレゼンについては、伊豆新聞にて取り上げていただいたので、そちらを参照されたい。
本プロジェクトを通して、過去訪れた岩手や福島とは全く異なる南伊豆町の実情を踏まえ、個別最適化された地方創生事業を立案することができた。なお、施策の採否については、今後前向きに検討するとのことであった。
事後の講評で職員さんから「君らはこの2ヶ月一番南伊豆のことを考えた大学生」と言われたが、多分本当である。飲み会終わりの電車の中、ディズニーのキューライン……一瞬の暇さえあればワードとパワポ開いて頭抱えていた。それは単なる義務感でなく、あたたかい人の多い南伊豆町に今後も関わり続けたかったからだ。
今後も継続して南伊豆町ほか私が "関係人口" である地域と関わり、さらに広い視野と選択肢を得て、日本に他数多い過疎地域にも貢献できるような創造力と行動力を身に着けたいと考えている。
南伊豆町のみなさん、ありがとうございました。また帰ってきますね。
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