フィヨルドランド国立公園ケプラートラックⅡ
そして当日。いざ早朝に出発、というわけにもいかず。
実は、コース内のキャンプ場の予約は済ませてあったが、近くのDOCセンターにて許可証を紙で発行してもらわなければならないことを、前日夜に知ることになる。そのおかげでDOCセンターの開始8時までコースを出発することができなかった…。ちなみに、紙で発行しなくても最悪ネット予約画面でも見せればいけたのかもしれないが、そんなリスクは取りたくなかった、という背景がある。
ということで少し出遅れだが無事紙の許可証を発行して午前9時にKeplerTrackCarParkを出発。
予定では18時ごろにIrisburnHutキャンプ場に着くはずだ。楽しみながらもそうはゆっくりしていられないな、と思いながら林の中を進み続ける。
とにかく植物が生い茂っていて、みずみずしく生き生きしている。鳥の囀りが聞こえ、歩いていると逆方向から歩いてくる人たちとすれ違い軽く挨拶をされるので返す。景色はあまり変わらない平坦な道がずっと続いている。
そして約2時間後、木製の橋を渡った先、最初のポイントRainbowReachCarparkに到着。予定より少し早かったがここで休憩を取ることにして、ウッドテーブルに荷物を下ろした。奥の木陰では10代の中国人の姉妹と母親が同じく休憩している。
テーブルにDOCセンターでもらった地図を広げ、改めて全体像を見ると、まだまだ先は長そうだ。
このオスプレイのリュックの中には、4食分の食事、水1.5L、テントと寝袋、クッカーガス類、雨衣、簡単な着替え、虫除け等が入っていてだいたい15kgほどだ。腰紐と肩紐のきつさを調整しながら歩く。腰紐を緩めれば肩に負荷がかかり、肩紐を緩めれば腰に負荷がかかる。
勢いよく背負いまだまだいける、と感じながら休憩ポイントを発った。
次の休憩地点MoturauHutがある場所までおよそ1時間半。左手の林奥に川が見え、川の前は崖になっている。見晴らしがいいのでそこで昼食を取ることにした。バックを下ろし、中からタッパーを取り出すと、その中に昨日の晩御飯の残りのトマトツナパスタがパンパンに入っている。パスタは冷たかったが、その景色とマイナスイオンに包まれた幸せなランチタイムだ。
ランチを終えて先へ進むと、サンドフライが耳のあたりを飛んでいる音がしたので、虫除けを追加で首にスプレーした。南島西側には所謂サンドフライの生息地だということでDEET率高めの虫除けを買ったおかげか、今回のコースでもほとんど刺されなかった。ちなみに60年前に米軍が兵士用に開発して以来絶大な虫除け効果を誇るこのDEET成分は、虫の感知能力を撹乱させる性質を持っているらしい。しばらく歩くと目の前に開けた空間が広がる。MoturauHutに到着。
湖の前に山小屋他ベンチがいくつか無造作に並んでおり、そこで滞在しているであろう欧米人が昼食を取っていた。時間にして13ごろか、あまり長く休憩しすぎると日が落ちた後も歩く羽目になるので、同じように10分ほど休憩した後MoturauHutからさらに先へ進むことにした。
3時間後。足が少し疲れてきたな、と思ったころにRockyPointShelterに到着。シェルターとは名ばかりの風を凌ぐ壁もない、テーブルと椅子のあるただの屋根付き空間だった。公園によくあるやつだ。期待を裏切られた気分だった。少し長めに20分ほど休憩をとる。ところで、少しずつ景色が変わってきたことに気づく。ずっと平坦だった道が、徐々にではあるが上りに変わってきており、近くに流れのある川があり、山に近づいてきている証拠だと思った。アイリスバーンハットは山の麓にある、あともう少し。
そこからさらに2時間ほど歩いた先で事件は起きた。突然現れた湿地。地面がかなりぬかるんでいる。特に防水性能のついていない普通のトレラン用シューズを履いていたので、土に触るとまず中まで泥だらけになるだろう、と思いながら石の上をなるべく踏んで進んでいたが、ついに頼みの石もなくなる。
まだマシに見える地面を探して一歩踏み出した時深く足が地面にめり込んだ。完全にいってしまった、と思った。そこから何かのリミッターが外れたかのようにぬかるみを何の気なしに進み始め、泥だらけになりながら進み続けた。
そしてようやく18時ごろ、アイリスバーンハットに到着した。ほぼ予定通りの時間になった。山小屋にいたDOCの管理人にキャンプ場の予約証を提示し、キャンプサイトに向かった。既に5つほどテントが張られているが、快適そうな場所はだいたい陣取られている。同じタイミングで雨が降ってきたので、雨を凌げる木陰を探してそこにテントを張った。とにかく今日は早く食べて早く寝て早く起きる。米を炊き、ツナ缶と一緒に食べた。予想以上に夜は冷え込み、炊き立てのクッカーに両手を当てて温める。水分が少し危なくなってきた。近くに川が流れているので、明日上流の方まで上がった際に補充しよう。
雨がテントを打つ音が次第に大きくなり、本格的な大雨になっていく。何も考えないままに、身体が回復を求めるように自然に眠りについた。