小説「不可抗力合体(寿司)」
大気汚染や地球温暖化が進んだ未来。
人間はもはや、そのままの体では、この世界に住めなくなってしまっていた。
そこで、科学者たちは種としての人間を改造し、変動した気候に対応できる身体能力を身につけさせようとした。
「博士、どうですか」
「だめじゃ。うまくいかん」
「いかなる生き物でも」
「うむ。すべての哺乳動物、それに鳥類や爬虫類、魚類や果ては菌類、バクテリアと人間を合体させようとした。しかし、結果は見ての通り、しばらくは生きているが、そのうち死んでしまうのじゃ」
「しかし、このままでは、人間がこの世界に飲み込まれて全滅するのは必至です」
「そうなんじゃよ。だからもう、最後の手段を使うしかないのじゃ」
「最後の手段?」
「うむ。人間という種族をどうにか生き続けさせるための、最後の手段じゃよ」
「ま、まさか、博士!?」
「そのまさか、じゃよ」
「それはいけません! 人間が人間でなくなってしまう!」
「全滅するよりかは、ましなのじゃ!」
「でも、人間を寿司と合体させるなんて!」
「寿司と人間であれば、肉体的にも精神的にも親和性は高い。しかも‥‥」
「腹が減った時に、共食いができるという‥‥」
「そうじゃ‥‥」
「あなたはそんな、神でさえも許されないような行いをするつもりか!」
「人類存亡の危機の前では、神も仏も関係ない!」
博士は懐から突然小さな銃のようなものを出して、引き金を引いた。すると、その先から飛び出たものが、助手の胸あたりにプス! と突き刺さったのだった。
「うっ! 何をするんですか!」
「それは一時的な作用を持つ筋弛緩剤じゃ。お前はしばらくからの自由が効かなくなる‥‥」
「ま、まさかあんた‥‥。おれを、おれを‥‥」
「すまん。申し訳ないが、化学の礎になってくれ‥‥!」
見ると、博士の手には、まぐろとサーモンの寿司が乗っていた。
「せめてものはなむけだ。君がまぐろと合体するか、サーモンと合体するか、選ばせてやろう‥‥」
「あ‥‥あ‥‥」
「どうした? これは、薬が効きすぎてしまったか?」
「あ‥‥あ‥‥」
「それでは、大人にも子供にも一番人気というところで、ここはいっちょう、まぐろにしてみるか‥‥」
「あ‥‥あじ‥‥」
「なに!?」
「‥‥あじと‥‥あじと合体‥‥したいです‥‥」
しかし、残念なことに、この時代、温暖化が進んだことで、人間は海の恩恵からも見放されていた。マグロやサーモンなどの人気のある魚は養殖で育てられていたが、あじやいわしなどの大人好きする光り物の養殖はほとんどされておらず、博士もあじの寿司は手元に置いていなかった。
そこで博士はやむなく、助手をまぐろの横に添えてあったガリと合体させたのであった。
体が半分人間、半分ガリになった助手は、その後の人類が寿司になってしまった世界においても、人気のある他の寿司が共食いの目に遭い死んでいくなか、あまり見向きもされず、寿司となった人間がいよいよ滅ぶ直前まで、生き残ったのだという。