めんへら問答
君、「めんへら」というのを知ってるかい。
いいや。何か平たいへらのようなものかい?
いいやこれは一種の奇人のことを指す言葉だよ。
たとえば君が往来で「めんへら」に会うとするだろう。一見普通なんだ、「めんへら」は。でも少しちがう。
たとえば色が白かったり、目の焦点が定まっていなかったり、人の話をよく聞かなかったり、すぐに泣いたり、黒子が人より多かったりする。タバコも吸ったりするね。
うーん。そういう人は巷にたくさんいるように思うが‥‥。
あと一点、ひととはちがうところがある。
なんだい。
すぐにやらせてくれる、いや、言い方が悪いな、男と懇ろになるのが上手、だ。
ふうん。ねえ君、僕が「めんへら」をどう思っていると感じるね? 僕は君の話を聞いて思ったんだ。僕はね、「めんへら」が好きだよ。
なあに、僕だってそうさ。そうだよ‥‥。しかし、「めんへら」には気をつけねばならないんだ。
なぜだい?
「めんへら」は、一度寝た男は、最後にはなんらかの方法で殺すらしい。
‥‥君、僕はどうやら、「めんへら」が嫌いだ。君の話を聞くところではね。
何、僕だってそうさ。そうだとも‥‥。
そのとき、向かいから、一人の極上に美しい「めんへら」が歩いてきた。
二人は彼女が「めんへら」だと気づかずに声をかけ、それぞれ己の連れにしようとし、喧嘩をした。
「めんへら」は二人を諌め、二人同時手を打とうと持ちかけた。向かいにホテルがあった。
山奥の渓谷の茂みで三人の無理心中遺体が見つかったのは、それから二週間後のことであった。