「ほかならぬ人へ」 白石一文
この小説を読み終わったあとに凍り付くような「ある淋しい感覚」を覚えて。この淋しさの正体がどこにあるのか、物語を運んでいる作者の筆致と構成にあることは確か。わたしなりに分析してみたい。
東海さんの年齢の記述祥伝社の単行本でいうと、p5-p179で終わる小説の「第0章」では、名家に産まれた主人公「宇津木明生」の出自と、彼が池袋のキャバクラ嬢だった「なずな」を見初めて結婚した顛末を辿る、いわば登場人物紹介の章。第0章の最後は、明生がなずなに結婚から二年足らずで裏切られたと記して締