スキル以前の大切なあり方を教えてくれるエリクソン博士のストーリーテリング
数回にわたってミルトンモデルに関連する記事を書いてきましたが、今回はスキル的な側面ではなく、エリクソン博士の世界観やあり方などについて考えてみましょう。
ミルトンモデル=催眠療法の大家ミルトン・エリクソン博士の言語パターンをNLPの創始者たちがモデリングしたもの
今回の記事で興味をもったら、以下の4記事でスキル的な側面も解説していますので、参考にどうぞ
源流の物語
エリクソン博士自身、セラピーや教育の中で、よくストーリーを活用する人でした。なので、エリクソン博士が話していたストーリーがたくさん残されています。
まず紹介したいのが「ジョーとスージーの物語」です。これは数々のストーリーの中でも、僕が「源流の物語」と言ってもいいと思っているものです。100年以上前のアメリカ。とある町での出来事です。
このエピソードを話してくれた上でエリクソン博士は言います
必要なことは全てクライアントの中で起こる。
だから僕たちは最小限のことをすれのでいいんですね。クライアントは自分で生きていける。ちょっといきづらいやり方や考え方を使っている時も、ほんの少しのきっかけで、自分で変わっていくことができる。
これも、すごい一言ですね。彼女はお金持ちのお嬢様です。街で評判の美人です。みんなはスージーとジョーなんてまるで釣り合わないと思っているんです。そんな彼女は街一番の悪者にジロジロ眺められても一切怯まず
「ダンス?いいわよ」
と言うわけです。そして
「もしあなたが紳士であるなら(周りの人がどう言おうと、あなたの過去がどうであろうと、私には関係ない)」と。
これは実質的には
「あなたはどう生きたいの?(紳士=社会の一員として生きる勇気があるの?)」
という問いかけだと思います。ジョーはそれに応えた。彼は自分が生きたいと思う未来のために、行動を変えたのです。これをエリクソン博士がセラピーであると言うなら、コーチングはセラピーだな、と思います。
そして、僕がこれが源流の物語だというのは、子どもの頃から大病で苦しんでいたエリクソン少年を励まし医学の道に進むことを勇気づけたのが、他ならぬジョーである、というエピソードがあるからです。
スージーの一言によって、ジョーは覚醒しました。そして後のジョーの関わりでエリクソン博士は医学の道に進んだ。そしてそこから僕も含めて多くの人間が恩恵を受けている。
まさに「大河の(はじまりとなる)一滴」のような出来事ですね。日常のコミュニケーションの中にも人生を変えるセラピーがある。そうやって人々は変化し、歴史は作られてきた。そんな世界に私たちは生きているのではないでしょうか
完璧を手放そう
今度はエリクソンとクライアントの物語。
これもすごい話ですね。エリクソン博士のお弟子さんがこのケースについて、質問をしたと言います。
「親指を動かすことから、クライアントがこのように変化することをどこまで予見していたのですか?」
それに対する博士の回答は、「もちろんそんなことは予想できない。悪態をつき続けるよりは、何か別のことをしたほうが良いと思ったのだ」というものだったそうです。
まだゴールが見えなくても、これまでとは違う行動をすることに希望を持ってみる。
大切なことですね。
この背景にはエリクソン博士の考えがあります。
完璧ではないし、完璧になれないのが我々人間だからこそ、少しでも良いことを目指して、小さなことに取り組むことが大切なのです。実際にこのケースでも麻痺の問題が完全に消えたわけではないんです。それでもできることもいっぱいあるし、変わる部分もたくさんあるのです。
拙著「人生を変える!コーチング脳のつくり方」でも紹介したエピソードに石川さんという女性の話があります。彼女は脊椎損傷(首から下が動かない)で長期間の入院生活を余儀無くされていました。そんな石川さんの体のサポートを担当していたのが理学療法士の橋中今日子さんでした。橋中さんは患者さんの心のサポートもしたいと思って、コーチングを学びました。
でも脊椎損傷の石川さんに対しては「本当は何がしたい?」と質問できなかったと言います。それも当然ですね。仮に石川さんから『やりたいこと』が出てきたとしても、実際にできることは殆どないのです。石川さんは首から下は一切動かないし、車椅子に座らせるなど、上半身を起こすと血圧低下で意識が混沌とするのです。
この時、橋中さんの勇気になったのが『親指しか動かない男の話』だったそうです。授業の中で僕がこの話を紹介したときに「石川さんにだって可能性があるかもしれない」と思ったそうです。そしてそれからは会うたびに「石川さん。なんでもできるとしたら本当は何がしたいの?」と質問するようになったのです。
この関わりによって、石川さんは自らの夢に気がつき、それを実現することができました。そして、それだけでなく、なんと石川さんの身体も動くようになったのでした!!※よかったら↓の本のP288からのエピソードを読んでみてください
未来とイマココを希望でつなぐ
今回の記事の最後は僕の大好きな話です。
アドラー心理学では勇気づけを大切にしています。
勇気づけ=「自分らしく他者に貢献する行動」を促す関わり
このときのエリクソン博士の行動こそがまさに勇気づけだと思うのです。
彼女の家まで訪れ、彼女の生きるエネルギーを探り当て、シンプルに鉢を増やす行為を提案する。そこから始まる彼女の物語があることを信じているのでしょう。
「洗いざらいぶちまける」行為は、困難にぶち当たったときのよくある対処法の一つですし、「洗いざらいぶちまける」ことを積極的に進めるカウンセラーやセラピストもいますね。
それも悪くはないと思いますが、エリクソン博士は「行動をとってもらうこと」により、もっともよく学習すると言うのです。
行動をとることで、自分が何ができるか?それをしたら何が起こるのか?を学ぶわけですね。自分は誰であり、どんな力を持っているのか、を知るのです。
「今ここでできること」と「未来」の双方がお互いに役にたつように橋をかけること
それがエリクソン博士のやり方です。今ここで取り組めることの力によって、未来に希望の火を灯し、
未来の希望の火からもらったエネルギーで、今ここの行動をドライブする。
一人の人間の力。それを支える人間の力。それを信じて相手の世界に触れていくエリクソン博士。そんな彼が使う言葉だからこそ、クライアントに響いたのだと思います。
僕たちと人生を変えるコーチングカウンセリングが学びたいかたは