CBC⑯「津波で亡くなった弟と『最低』の兄貴」
天国って本当にあるのでしょうか。
「絶対にある!」とも言えないし、逆に「絶対にない!」とも言えない
個人的にはそんな風に思っています。
けれど、コーチ・カウンセラーとしては、天国にはとてもお世話になっているため、とても足を向けて眠れません。。。。
とくにカウンセリングに関しては、
天国はカウンセリングのために創られたのかな?
と思ってしまうほどです。
※信仰篤い方へ。単なる例え話なのでお許しください
今日は東日本大震災から4年経ったころ。岩手の沿岸部でのお話です。
※この話では津波など震災時の描写があります。苦手な方はここで読むのを辞めてください。この話以外からもカウンセリングは学べます。またこの話は伝聞なので、一部宮越が想像で補完しています。ご了承ください。
卒業生のMさんは、被災体験の記録を残すためのインタビュープロジェクトに参加していました。県内様々な地域の被災者の方を訪れて、被災とその後の出来事をきいてまわるのです。
インタビューって、本当にコーチ向きの仕事だな、と僕は思っています。なぜなら、僕たちコーチは、見ず知らずの人に信頼してもらい、なんでも話してもらえます。具体的な出来事と、そのときの心情を言葉にしてもらえます。そしてそれらを整理してまとめることができる。素晴らしいですね!!
Mさんのインタビューも、リアリティがあって、わかりやすいということで評判だったようです。
そうやってインタビューをしているなかで、Mさんは、ある男性に出会います。彼は震災で弟さんを亡くしたそうです。
「あの日のことを後悔している」と彼はいいました。
それはこんな話でした。
彼の弟さんは、震災のしばらく前に仕事を辞めたそうです。大変な仕事だったので、家族も仕方ないね、と言っていたそうです。
ところがそれから時間が経っても、なかなか再就職できない。最初は心配していた家族も、だんだんと仕事について厳しいことを言い始めたそうです。
そして、3月11日の朝。お兄さんは職場に出かける前、弟に対して
「いい加減にしろ。仕事を探せよ。親父とお袋に心配かけるな」
と言い残して家を出たそうです。
そして昼過ぎ。誰もが体験したことのない大きな地震。
お兄さんは仕事場から離れ、急いで高台に登りました。どんどんと人が上がってくる。焦る気持ちでお父さん、お母さん、弟さんを待ちます。
しばらくしてお父さん、お母さんが登ってきました。ホッとしたけれど、弟がいない。どうしたのかきくと、声をかけたが見当たらなかったと。
祈るような気持ちで弟を待ちます。どこかに出かけていて、他に逃げたのだろう。。。きっと大丈夫だ。。。
でも心配も募ります。思い切って様子を見に行くべきか。。。。
その時です。
見たこともない大きな波。黒い壁のようにも見える巨大な波。
想像をはるかに超えたものが、すごいスピードで町にむけて迫ってくる。
そして
それは、高い防潮堤を超えて、町中に入ってきます。電柱がなぎ倒され、家が、車が、何もかもが飲み込まれていきます。
弟の名前を叫びます。
弟はどこにいるのか。。。どこかに逃げているのか。。。
しばらくして海水が引いた後、自宅の方向へ降りていくと、見慣れた景色が跡形もありません。瓦礫の中を覗きながら、声をかけ続けます。
弟を探す中で、何体ものご遺体を見つけます。「弟はどこにいるのか。。。。どこかで生きているのか。。。。それとも。。。。」
探し続けます。何日も。。。。
遺体安置所になった体育館にも足を運びます。。。でも弟はいない。。
「お父さん、ごめんね。。。。迎えにくるのが遅くなって。。。。寒かったよね。。。」ご遺体と再会し、泣きながら謝る家族の姿。。。。
そんな中で、お兄さんは思います。「なんで、あの日、出掛けに俺はあんなことを言ったんだ。。。弟は一人で、どんな気持ちだったろう。。。こうなるって分かってたら、あんなひどいこと言わなかったのに。。。。こんな寒い中。。。弟はいま。。。どこに。。。。何もしてやれない。。。すまない。。。。俺は最低だ。最低の兄貴だ。。。」
結局、弟さんのご遺体は見つからなかったそうです。それ以来お兄さんは意気消沈し、鬱々とした日々を過ごしてきたそうです。
聴かせてもらったのはそんなエピソードでした。聴き終わってMさんは言いました。
Mさん「お兄さん。僕、東京までカウンセリングを学びにいっています。もしよかったら、少しでもお兄さんの気持ちが楽になるようなお手伝いを、最後にしたいのですが」
お兄さん「。。。。はい。。。ありがとうございます」
Mさん「では、よろしければ、改めてきかせて欲しいのです。お辛いとは思いますけど。。。あの朝、お兄さんは弟さんに具体的には、なんと言ったのですか?」
お兄さん「具体的に。。。。。。。そうですね『いい加減にしろ。仕事を探せよ。親父とお袋に心配かけるな』と。。。」
Mさん「どんな言い方でしたか?」
お兄さん「ちょっと強い感じで。。。ぶっきらぼうな。。。」
Mさん「今、目の前に弟さんの姿を想像しながら、もう一度同じことを言っているのを想像して。。。。ちょっと強い感じで。。。。」
お兄さん「。。。。。。」
Mさん「お兄さん。。。。弟さんに対して、本当に言いたかったことはなんですか?」
お兄さん「本当に言いたかったこと??」
Mさん「弟さんに伝えたかったことです。。。。あの日の言葉の奥にあった。。。」
お兄さん「。。。。。あぁ。。。。『そんなに心配しなくても大丈夫だよ。お前はできる。家族はみんな知ってるよ。。。だからやってみろよ。。。なんとかなるから』(涙)」
Mさん「大丈夫。。なんとかなる。お前はできる」
お兄さん「はい。。。」
Mさん「弟さんはどんな気持ちできいていたのだろう。。。」
コンパクトでとても素晴らしい関わりですね。
実際の言動とその意図(目的)をしっかりと分けてきいています。
実際の言動「いい加減にしろ。仕事を探せよ。親父とお袋に心配かけるな」
意図や目的「大丈夫。なんとかなる。お前はできる、と伝えたい」
実際の言動を確認すると、別にひどい言葉でもないし、ましてや最低の兄貴ではありません。
そしてさらに、その意図は、本当に愛情に満ちたものです。伝え方は素朴だったかも知れませんが。。。
また、こう考えてみても良いですね。もし震災がなかったら。。。
弟さんはいつか再就職したでしょう。それまでお兄さんは「仕事をしろ」と言い続ける。やはり彼はいいお兄さんなのです。
震災が悪いのです。でもお兄さんはなかなかそう思えない。ひどいことをしたという思い込みから逃れられない。
NLP教育の第一人者。山崎啓支先生は言います。
思い込みは、感情強度×回数でインストールされる
誰も体験したことのない震災。多くの命が失われているなか、必死で弟を探す。。。その体験がつくる強烈な感情。その感情の中でお兄さんは
「あんなことを言うべきでなかった。。。俺は、最低だ。。。弟にひどいことをした。。。」
と繰り返し思考してしまった。。。そうやって、自分の脳に、無意識に思い込みをインストールしてしまったのです。
そして、このような思い込みを持っていたら、今後いつまでも罪悪感の中で閉じこもって生きていくことになってしまいます。
コーチが教え諭すこともできます。「あなたは最低じゃない。むしろいいお兄さんだ!震災が悪いのだ」と。。。
でも多くの場合、それは説得力を持ちません。気休めにはなるかもしれませんが、なかなかすぐに気持ちは変わらないでしょう。。。
これはお兄さんと弟さんの物語なのです。だから弟さんと書き換えたいのです。
インタビュー&カウンセリングの現場に再び戻りましょう。Mさんは独り言のように言ったのでした
Mさん「弟さんはどんな気持ちできいていたのだろう。。。」
お兄さん「。。。。」
ここでMさんは椅子から立ち上がりました。そして
Mさん「お兄さん。ちょっと変なことをお願いするのですが、立ち上がってもらって、僕が座っていた椅子に座ってもらえますか?」
お兄さん「。。。。。。。はい」
Mさん「座ったら、そこで、弟さんの気持ちを想像してみます。。。。目の前でお兄さんが言っている。。。いい加減にしろ。。。仕事をさがせ。。。。。。そして、その奥でお兄さんは思ってる。。。。大丈夫だから。。。。お前はできるから。。。。知ってるよ。。。」
お兄さん(弟)「。。。。。。。」
Mさん「あの朝、弟はどんなふうにきいていたのか。。。お兄さんの気持ちがどんなふうに伝わっていたのか。。。」
お兄さん(弟)「。。。。。分かってる。。。自分を想う気持ちは。。。。ちゃんと伝わってる。。。。動けなかったけど。。。気持ちは分かってもらえてる(涙)」
そのことをしっかりと感じてもらい、ダメ押しです。
Mさん「よかったです。。。。それじゃあ、またその椅子から立ってもらって、元の椅子に戻ってもらえますか?」
お兄さん「はい。。。。」
Mさん「お兄さんの想い。。。弟さんに伝わっていたんですね」
お兄さん「。。。はい。。。」
Mさん「本当によかった」
お兄さん「。。。。。。。はい。。。ありがとうございます」
ポジションチェンジって素晴らしいですね。
弟には気持ちが伝わっていた。分かってくれていた。
お兄さんがそのことに強くリアリティが持てたら、今度はそれが新しい事実となるのです。
ここまででも、お兄さんは相当癒され、解放されたのではないでしょうか。
しかしMさんはさらに次の手にでます。
Mさん「ところでお兄さん。弟さんは今どこにいるんでしょうか」
お兄さん「どこって?。。。」
Mさん「いまどこかにいるとしたら。。。。どこに」
お兄さん「。。。。。天国にいると思います。。。」
Mさん「。。。天国。。。。。お兄さん。。。何度もすいませんけど、あっちの椅子のほうに移動してもらって、あの椅子の上に立ってもらっていいですか?」
そう言って、少し離れた椅子の上に立つようにお願いしたそうです。何だかわからないながらもそうするお兄さん。Mさんは、お兄さんが立っている椅子の横に行って、そして言いました。
Mさん「今度は天国の弟さんから見てみましょう。あそこの椅子を見てください。お兄さんがいます。。。弟さんになったつもりで見てみてください。。。あなたのお兄さんを。。。。『あの日、あんなこと言うべきじゃなかった。俺は最低だ』と言っています。。。。そして鬱々と暮らしています。。。。もう4年も。。。。」
お兄さん(天国弟)「。。。。。。」
Mさん「弟さん。。。なんて言ってあげたい?」
お兄さん(天国弟)「。。。。やめてくれよ、って。。。。そんなことないよ。。。。俺のことはいいから、って。。。。そう言うと思います。。。」
Mさん「それをあそこのお兄さんに言ってあげてください!弟として!!あのお兄さんの気持ちが変わるように!!お兄さんの人生を生きられるように!!!」
お兄さん(天国弟)「。。。。兄貴!!!!何やってるんだよ!!!!ちゃんとしてくれよ!!!!兄貴!!兄貴が親父とお袋安心させないでどうするんだよ!!!!兄貴!!!!頼むよ!!!!!(涙)」
この時、お兄さんの目から流れた涙は、この4年間のさまざまなものを流していったのではないでしょうか。
そして、強い感情とシンプルな言葉が、クライアントの中に新しい世界を作っていくのです。
落ち着いた後、Mさんは、またお兄さんに最初の椅子に戻ってもらいました。
そして
Mさん「ここから天国の弟さんを見て。。。。言葉をききましょう。。。『兄貴しっかりしてくれ!親父とお袋を安心させてくれ!頼む!!』。。。。さぁ、なんて返しましょうか」
お兄さん「。。。。俺は何をやってたんだろう。。」
Mさん「。。。。弟さんを見て、こたえてあげてください」
お兄さん「。。。やるから!!!みててくれ!!!絶対に。。。やるから!!」
落ち込みの元になっていた思い込みを解消し、前向きに生きる決意につなげる。。。本当にすばらしいとしか言いようがありません。
そしてこんなふうに、ベースが整ったら、ここからGROWモデル的な「目指すゴールは何?」「何からやるとよい?」というコーチングをやっても、効果を発揮しますよね。
ただこのケースでは、このあと「まずは何から始めてみたいか?」を考えてもらって、勇気づけして終わりになったようです。
もちろんそれでいいのです。カウンセリングが必要なクライアントとゴールを考えるときの原則は「すぐ達成できるくらい低い目標にする」もしくは「簡単な行動目標(〜をやりたい)にする」だからです。
このケースでも、コーチは天国に助けられました。天国という舞台があったからこそ、弟さんとの対話が成立し、変化が起こった。
天国は、他にカウンセリングでどのように使われるか。そしてその意味はなんのか。そのことはまた別のケースで考えてみましょう。
続く
お気持ちありがとうございます。資料入手や実験などに活用して、発信に還元したいと思います。