CBC㊳「破滅」するまで逃げてはいけない(その2)

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 昨日から始まった新シリーズ。クライアントから公開許可が出たおかげで珍しくオンラインセッション(ZOOM)の様子が紹介できます。

 クライアントは40代男性。中小企業で営業担当役員をやっています。会社を愛しスタッフを愛し、社長の右腕として長年頑張ってきた彼がする「辛い決断」をコーチが支えます。

クライアントとテーマ

 その1では、自部門の急な売却で混乱しているクライアントの気持ちを、丁寧にヒアリングしながら整理していきました。その2ではそれを踏まえて「言えなかった気持ち」を社長にぶつけるポジションチェンジが始まります。

 オンラインでも簡単にできますから、ぜひ参考にしてみてください。



椅子配置(上から見た図)

 その1の最後で、コーチはクライアントに「椅子をもう1つ用意して向かい合わせに配置」するように依頼しています。それを受けてクライアントは上図のように椅子を配置しました。

 コーチは、クライアントに社長の椅子の方を見てもらうようにお願いして

CO「社長の言葉をもう1回思い出してさ。で、感謝とかはちょっと脇に置いて。。。なんて言いたい?。。。言いたいことを言ってみよう。。。」
CL「何を今更。。。ふざけんなよ。ここまで残ってる人たちをさらに切ろうとか。『みんなの会社』とか言って、自分が好き勝手やってるだけじゃねえか。ふざけんなよ。どんな思いでみんなやっていたと思ってるんだよ。。。。お前が酒飲んでる間も必死でやってんだよみんな。さふざけんなよマジで。ふざけんなよ。ふざけんな。。。。本当に好き勝手やって。。。(涙)」

CO「今どのぐらい言えてる?10点満点で何点ぐらい言えてるかな?」
CL「。。。6点くらい」

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 蓋をしていたものを吐き出してもらいます。そしてそれらを綺麗に収めていきたいのです。

 そのためにもまずは出し切ってもらうこと。ここでもスケーリングは便利ですね。

CO「残りを言おう」
CL「。。。。(沈黙1分強)。。。。卑怯者。逃げてんじゃねーよ。卑怯者。最後まで背負えよ。(ハンカチで目元を押さえて嗚咽)。。。。。。言えました」

CO「何が一番言いたかったのかしら」
CL「(沈黙30秒)最後まで、どんな形でもいいから全力でやりかたかった。それを逃げるんじゃねぇ」

CO「それを言ってみてどうですか?」
CL「それをしたかった。。。」

CO「逃げなかったら一緒にやりたかったってこと?」
CL「逃げなかったら、こんな変な結末にはならなかったし、みんなバラバラにならなかった」

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 スケーリングを使うと一気に進みますね。オンラインでも簡単です。ただし、コーチは、相手がポジションチェンジに集中できるように、声のトーンを押さえ、少しゆっくり目のスピードで話しかけています

 感情を伴う思いは大分出せたようなので、それ以外の「言っておきたいこと」を確認します

CO「なるほどね。あとね。辞めるに際してさ、感謝とかはまだ傍に置いて、他に社長に言いたいことは何がある?」
CL「どこも一緒だと思うけど、社長が決定しないと進まないことがあるから、すぐに決めろ、決めて欲しい。移籍の期日までにちゃんと間に合うように。。。もうぐだぐだ言わずに、粛々とみんなのためにやってほしい」

CO「そうだね。あとは。。。」
CL「あとは今更いい人ぶって反省とかいらないから、スタッフのために全力で動いて。。。。あとはみんなにちゃんと謝ってほしい。うん。。。みんなに謝ってほしい」

CO「なんて謝って欲しいの?」
CL「言えるかはわかんないですけど『自分勝手にお金を使って、みんなのことを傷つけて、本当にごめんなさい』って頭を下げてほしい」

CO「あとはある?」
CL「辞めた人にも謝って欲しい。。。。」

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 「あとは?」など網羅の質問も使い勝手がいいですね。クライアントが集中している状態で使うと、これだけで延々と引き出せます。


CO「あなたには謝らなくていいの?」
CL「。。。僕個人にも謝って欲しい。。。」

CO「何について?」
CL「僕が守ろうとしたメンバーとこの会社。。。休みも全部返上してプライベートも返上してやってきたものを、自分勝手に台無しにしたことをちゃんと謝って欲しい(声が詰まる)」

CO「どれくらい言えたかな?言いたかったこと」
CL「もうそれがあったら何もいらないぐらい。。ちゃんと言えてます」

CO「今、どんなこと思ってる?」
CL「よく。。。よく頑張ったなって、初めて自分に思えていて。あとは、ささえてくれてた仲間もやっぱりちゃんといて。。。改めてやっぱりスタッフを守りたいっていう自分の気持ちの強さに、少し驚いたというか。。。。うん」

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 人のことは言えるのに、自分のことは「謝ってくれ」と言えないクライアント。なので僕はそれを促しました。

 休みもプライベートも返上

 彼のご家族への想いを考えたら、重い重い言葉です。

 けれど、これが言えたことで

「よく頑張ったし、支えてもらった」

 という認識へと整理されていったのでしょう。

 では、今度は社長にキチっと伝える練習です

CO「では、ここまでのことをまとめて、冷静に妥協なく、社長にまっすぐ伝えましょう」
CL「はい。。。みんなを信用して、みんなでこの会社をもっといい会社にしたかったです。でもこれ以上は、ここではみんなを守れないから、僕がみんなを守ります。僕は逃げません。絶対に僕は逃げません。社長は最後までスタッフのために、しっかり動いてください。そしてみんなに謝ってください」

CO「なんて謝る?」
CL「今いるメンバーは、それでも何とかしようと思ってたんですよ。そういう人たちが最後まで残ったんです。その人たちにちゃんと向き合って謝ってあげてください。この1年も社長のことを信じて頑張ってたんですよ」

CO「あとは?」
CL「僕にも謝ってください。僕ほど。。うん。。。僕ほど。。この会社であなたのことを思って、やってきた人はいなかった。。。僕だけだった。。。だから。。。謝ってください。。。。(目頭を押さえて咽び泣く)」

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 言えなかったことを、冷静に、でも力強く伝えるクライアント。でも最後は感情が溢れてきて、涙が止まりません。

 僕はここで

CO「(涙)。。。ねぇ。。。俺もいま東京で泣いてるよ。。。。お前ずっとさ。。。バカみたいだったもん。。。。みんなのためにバカみたいに頑張ってさ。。。。でもさ。。。かっこよかったよ本当に。。。。。俺だけじゃないよ。。。。みんなお前のこと見てたんだよ。。。。。お前は本当によくやったよ。。。。。」
CL「(号泣)」

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「俺も東京で泣いてるよ」

CO「お前はやれるとこまでやったんだよ。これ以上頑張ったらまた人が辞めることになっちゃうからさ。。。だから今回決断したよね。。。。社長が『みんなのためには売却するしかない』って、まともなこと言ったとき。。。お前はその瞬間を逃さなかったんだよ。。その瞬間、いい決断をしたんだよ。ここが落とし所だ。そう思ってそこに道を切り拓いたわけさ」
CL「はい。。。。。」

CO「だからさ。事情知らない人間が何て言うか知らんけどさ。。。スタッフは嫌と言うほどわかってる。。。。そうだろ?。。。で、社長だってわかってる。。。。あなたの家族だって。。。俺たちだって。。。ちゃんとわかってるんだよ。。。」
CL「(咽び泣く)」

CO「だから自分を認めてあげてな。可哀想だよ。本当は自分が一番わかってるんだろ?。。。お前はベストな選択をしたと思うよ」
CL「。。。。はい。。。。よく頑張ったと思います。。。コーチング学んでいろんな人に会ってなかったら、こんな風に決断できなかったかもしれないけど。。。。自分でもいい決断をしたと思います。。。うん」

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 こうやって強烈に整理をかけてみたのです。強い感情が存在するときに、新しい考えがインストールされます。だから感極まる彼に僕は次の考え方を伝えたわけです

 ・あなたはベストをつくした
 ・それをみんな知ってる
 ・事情を知らないやつはどうでもいい
 
 彼が自分を信じて迷わず進んでいけるように。。。

 彼に新しい考えがセットされたのを感じて

CO「よし。じゃあ今度は社長の椅子に座ってみよう。何考えてるのか、社長の立場で感じてみよう。。。ちょっといい人ぶってる感じをやってみて。。。そう。。。でさ『社員と商品を守るために』みたいなセリフを、社長っぽく言ってみてくれる?」
CL「(社長の席に移動して)『私はみんなを守ために決断したんだよ』。。。」

CO「そう言いながら。。。社長の内側では何が起こってる?」
CL「。。。。寂しい。。。。」

CO「あとは?」
CL「。。。俺はみんなにいいことをした」

CO「なんのこと言ってる?」
CL「最後、スタッフを解雇するのに。。。ちゃんと次の会社まで見つけて」

CO「そっか。。。」
CL「ああ。。。色々やり散らかしちゃったけど、なんかこれができれば、みんなに許してもらえるような気がしてる。。。。パワハラとか散々やってきたけど、みんなを守るためって言えばなんか許してくれる、認めてくれる気持ちで言っている。。。」

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 いよいよ社長の椅子に座ります。ここまで時間をかけてクライアント自身の気持ちにしっかり寄り添ったからこそ、クライアントはうまく社長になりきることができます。

 自分の話を聴き切ってもらえたから。だから他人の立場にも立てるのです。

CO「じゃあどっかで悪いことしたなとは思ってる。
CL「うんうん。あと。。。そうなんか。うん。。後悔もしてる」

CO「なんだろう」
CL「みんなが怒ってる。。。嫌われてる。。。。呆れてる。。。。いや、嫌われてる、嫌われてる。嫌われてる。ああ嫌われてるを超えて、もうなんか俺に関心がない。無関心。うん。。無関心なんだ。。みんな俺のこと」

CO「無関心」
CL「うん。。なんかそれがすごく怖い。怖い。怖い。。。みんなが無視。怖い。すごい1人ぼっち。。。」

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 社長の気持ちにつながっていくクライアント。

 「ひとりぼっち」という言葉がでたのをいいことに、目の前の椅子に意識を向けてもらうことにしました。

CO「オッケーじゃあそういう状態で、目の前にいる部下のこと見てもらいたいんだけどね。彼はあなたのことをまっすぐ見つめていますよ」
CL「(社長の椅子に座ったまま、クライアントの椅子を見る)」

CO「彼は言っています。。。。。もっとみんなでいい会社にしたかった。でもこれ以上ここでみんなを守れない。だから僕がみんなのことを守ります。僕は逃げずにそれをやります。なので、みんなのために、しっかりと動いてあげてください。そして、できればみんなに一言謝って欲しいです。だって社長のために、みんな頑張ってきたんですよ。僕だってそうです。僕ほど社長と会社のことを持って、休みもプライベートも返上して頑張ってきた人間はいないと思います」
CL「。。。。。」

CO「ごめんねって言えそうですか?」
CL「うーん。言えそう。。。言えそうな感じはする。。。けど、なんだろう。。。ちょっと自分を守りながらというか。。。そんな感じになりそう」

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 社長がクライアントの話を受け入れ、きちんと謝罪してくれるなら、気持ちよく進んでいくことができるわけです。

 でも、社長の現状だとそれは難しいのでしょう。そこで

CO「そっか。じゃあ今日は、そんな社長に代わって、あなたが謝ろう。社長にめっちゃ勇気があったら、こんな風に言うだろうって感じで謝ってみませんか
CL「はい。。。俺は。。今でも自分のことを守りたいと思っちゃってたけど。やっぱりお前にだから。。。お前にだからちゃんと伝えるな。。。俺も本当に苦しかった。頑張ってるみんなを見て。。本当申し訳ないなって。。。うん。。。。そんな気持ちだったから、みんなの前に出れなかった。ごめんなさい。うん。」

CO「お金のことも謝って」
CL「会社のお金のことも。。。本当にごめんなさい。自分勝手で卑怯な人間でした。。。」

CO「どう?こういう気持ちは社長の中のどこかにありそう?」
CL「あると思います。。。うん。。。そういう人なんだ。。。うん。。そっか」

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 こんなやり方があるわけです。勇気があったらこれが言える。ってやつですね。

 そしてこのパート最後の仕上げに入ります

CO「じゃあ謝れたから、その上で、目の前の部下に伝えたいことを伝えてください」
CL「。。。みんなを頼む。うんみんなを任せた」

CO「どうして彼なんですか?
CL「本当に成長した。。。周りもついてきてくれると思うから」

CO「新しい会社で彼のチームがどうなっていって欲しいと思ってますか」
CL「生き生きと。。。みんなが活躍して。。。ずっと笑ってるような職場に。。。。あぁ俺がそれを作りたかったって。。。。ちょっと思った。。。。」

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 バトンを受け継ぐ儀式ですね。さらに

CO「『せめてお前だけには俺の気持ちをわかっていて欲しい』そう言ってもらえますか?」
CL「せめてお前だけには俺の気持ちをわかっていて欲しい。。。俺だって本当は、そういうチームが作りたかった。。。(涙)。。。みんなが俺の悪口を言っていても。。。お前だけには知っててもらいたい」

CO「最後に社長から彼に伝えたいことは?」
CL「あぁ。。。一緒に働けて本当に良かった。。。そっか。。。みんながやめてく中で。。。最後までお前だけが残ってくれて。。。本当に俺は良かった。助かったよ。。。ありがとう」

CO「どう?本当にそういう気持ち、社長にありそうですか?」
CL「はい」

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 綺麗に収まりましたね。クライアントの社長への想いが、うまいこと収まるように

 CO「『せめてお前だけには俺の気持ちをわかっていて欲しい』そう言ってもらえますか?」

 と働きかけたのです。社長の一番の理解者でありたかったクライアント。本当は社長と夢を叶えたかったクライアント。彼の気持ちの収まりどころがようやく見つかったようです。


CO「うん。じゃあ立ち上がって自分の椅子座ってもらっていいかな」
CL「(座席移動)」

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 ということで、心理的な決着はつきましたので、ここからは現実対応を考えるフェーズに入っていきます。どのように進めていくのが次回をお楽しみに

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だいじゅ@コーチング脳のつくり方
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