相手の無意識を「その気」にさせる言葉づかいの秘密

 今日もミルトンモデルの解説の続きです。ミルトンモデルは催眠療法家ミルトン・エリクソンの言語パターンをモデリングしてつくられたものです。

直接的な提案や指示ではなく、「曖昧」で「含み」を持たせた言葉で暗示や誘導を行うことで、相手の内的なリソースを活性化させる

 ことができるのがミルトンモデルです。

今回の記事も単体でも読めると思いますが、理解を深めたい場合は、以下の記事も参考にしてください


 今回は僕がコーチングを学び始めて4年目くらいに作った文章を元にミルトンモデルの言語パターンを学んでみましょう。

 当時の僕はNLPを夢中になって学んでいました。国内外を問わず素晴らしいトレーナーを知っては、そのコースに参加していました。そんな中で「ミルトンモデルを使って、セミナーのオープニングメッセージをつくる」という課題があって作った文章です。ちょっとぎこちない部分もありますが、それが「わかりやすさ」でもあるので、敢えてそのまま載せてみます。

まず最初に、とてもすばらしいことは、お忙しいにも関わらず、こうした学びの場に、意欲的な皆さんが集まってくださっているということです。今日この場での学びを通じて、皆さんにどれだけすばらしい変化が起こっていくのか、私には想像がつきません。
 ここにいらっしゃった方の中には「ご自分のパフォーマンスを上げたい方」もおられますし、「クライアントとよい関係を作りたいという方」「ご家族やお仲間との時間をより充実させたいという方」もいらっしゃると思います。そんなあなたの生活で、仕事でこれからどんなすばらしいことが起こるのか、それを想像することができますか。ここで学んだことが、自分らしく生かされていることに、あなたはいつ気づくのでしょうか。
 そして、ここでの学び方についてですが、私たちは最初にゴールを決めて学んでもよいですし、学びながらゴールを決めても、学んでからゴールに進むのでも構いません。もちろん試験勉強のように肩に力を入れて学ぶ必要はありませんし、すぐに使いこなそうとする必要もありません。ここは皆さんにとって、日常とは違った場所ですから、普段とは違った、もしかしたら本当の意味であなたらしいやり方で参加するのがよいのでしょう。
 そして、私の話から学ぶこともあるでしょうし、仲間の話から学ぶことや、もしくは自分の内側の声から学ぶこともあるでしょう。新しいことを学ぶにはあなたなりの様々な方法があるのです。そして、自分の持っている様々な方法に気づくということは、他にも様々なすばらしいリソースがあなたの中に眠っていることに気づくことにつながります。
 あなたのリソースに気づいたら、あなたらしいやり方で、このワクワクする学びの旅をスタートしていきましょう。そしてこの旅の途中で、行き詰まりや混乱を感じることがあるとすれば、それは、次の気づきへの階段であるのかもしれません。深く深く掘った井戸から、よりキレイな水が湧き出てくるように、深い混乱からは、あなたのすばらしい可能性があふれ出てくるかもしれません。
 そうです。これは変化と成長の旅でもあるのです。そして、ここに参加していることが、もう変化の中にいるということなのだと、すでに感じている方もおられるかもしれません。ここに来たから変化が起こるということもありますし、変化が起こっているからここに来ているということもまたあるのです。
 日本が大きく舵を切ろうとしている今だからこそ、有意義な学びの場を持ち、変化の旅の次の章をスタートさせることは、あなたの今後にすばらしい結果をもたらすことでしょう。

親愛なる皆様へ

 いかがだったでしょうか。ミルトンモデルを知っている方からしたら

 「よく頑張って詰め込んだね!」

 という感じでしょうか。ぜひ、どの部分でどんなテクニックを使っているのかを検討してミルトンモデルの復習素材にしてみてください。

 またこんな風に作文してみることもおすすめです。僕もあらためて読んでみましたが、こんな風に普通じゃない密度で詰め込んでみる練習をするのも力をつけるためには役に立つのではないかと思いました。

何がされているかを解説

 これはセミナーの冒頭部分で話される講師から参加者へのメッセージというつもりで作られた文章です。

 ですから、

 ・参加者との信頼関係の確立
 ・参加者にオープンマインドになってもらう
 ・参加者のモチベーション向上

 などが主な目的となっています。以下、具的に何をしているかを見ていきましょう

まず最初に、とてもすばらしいことは、お忙しいにも関わらず、こうした学びの場に、意欲的な皆さんが集まってくださっているということです。

 「忙しい中、みなさんが集まってくれたのが素晴らしい」という文章の中にサラッと「意欲的な」という言葉を埋め込んでいますね。

 「今日はぜひ意欲的に参加してください!」

 と言ってもいいのですが、

 「意欲的な人たちが集まってくれたのが素晴らしい」

 のように表現することで「あなたは意欲的な参加者です」と伝えているのです。

今日この場での学びを通じて、皆さんにどれだけすばらしい変化が起こっていくのか、私には想像がつきません。

 「素晴らしい変化が起こる」というのを当然の前提にするために、「どれだけ素晴らしい変化が起こるのか想像がつかない」と言っていまますね

 「今日この場での学びを通じて」というのは「今日この場で学ぶことで」ということですから

 今日この場で学ぶことで(因)→素晴らしい変化が起こる(果)

 にもなっています。この前の部分の「意欲的な皆さんが集まっている」とも繋げると、

 (あなたも含めて)意欲的な参加者が集まる場で学ぶことで(因)→講師でも想像がつかないほど素晴らしい変化が起こる(果)

 となっているわけです。

ここにいらっしゃった方の中には「ご自分のパフォーマンスを上げたい方」もおられますし、「クライアントとよい関係を作りたいという方」「ご家族やお仲間との時間をより充実させたいという方」もいらっしゃると思います。

 これもよくある表現です。「Aかも知れないし、Bかも知れない」のようにバリエーションを提示することで相手とマッチングしようという作戦です。

自分パフォーマンス
クライアントとの良い関係
家族や仲間との時間の充実

 と3パターンつくっていますが、さらにみると

 対象: 自分/クライアント/家族や仲間
 目的: パフォーマンス/良い関係/時間の充実

 のように参加目的を場合わけしています。そのことによって、どんな参加者にもマッチング(合わせる)して、相手との関係性を構築しようとしているわけです。

そんなあなたの生活で、仕事でこれからどんなすばらしいことが起こるのか、それを想像することができますか。ここで学んだことが、自分らしく生かされていることに、あなたはいつ気づくのでしょうか。

 また「すばらしいことが起こる」という前提を入れています。今度の言い方は

 「どんなすばらしいことが起こるのか、それを想像することができますか?」

 という言い回しです。想像することができますか?の答えが仮にNOでも、それは想像力が及ばないというだけなので、すばらしいことが起こる可能性自体を否定できないようになっています。

 つぎの表現もそうですね。

 「ここで学んだことは自分らしく生かされる」ことは当然の前提として、「それにいつ気づくか?」ということに意識を向けてもらう表現です。

 そしてこれまた「気づかれなくてもいい」のです。気づかれることがあろうがなかろうが、自分らしく生かされるだろうと言っているわけですから。 

そして、ここでの学び方についてですが、私たちは最初にゴールを決めて学んでもよいですし、学びながらゴールを決めても、学んでからゴールに進むのでも構いません。もちろん試験勉強のように肩に力を入れて学ぶ必要はありませんし、すぐに使いこなそうとする必要もありません。

 これも「AでもいいしBでもいい」という許容表現です。しかしいずれにしても「学ぶこととゴールに向かうことを両方する」が前提となっています。選択肢があるように見えて、じつは結論は決まっている表現なのです。

 「すぐに使いこなそうとする必要もありません」も面白い表現です。

 「いずれ使いこなすことになる」という前提を含んでいますし、否定命令と呼ばれるものですが、

 ・「◯◯はしないでください」
 ・「◯◯は想像しないでください」

 などと言われると◯◯することを想像してしまうのです。

 「ピンクの象を想像しないでください」

 というやつですね笑

ここは皆さんにとって、日常とは違った場所ですから、普段とは違った、もしかしたら本当の意味であなたらしいやり方で参加するのがよいのでしょう。

 「ぜひあなたらしいやり方で参加してください」と言いたいのですが

 「本当の意味で」とつけることで、本当のあなたらしさがあると示唆して(前提して)いますね。

 それを「もしかしたら〜ようのでしょう」と曖昧表現で和らげて、

 日常とは違った場所だから(因)→普段とは違ったやり方で参加したほうが良いことが起きる(果)

 の因果関係表現の中に埋め込んでいます。

そして、私の話から学ぶこともあるでしょうし、仲間の話から学ぶことや、もしくは自分の内側の声から学ぶこともあるでしょう。新しいことを学ぶにはあなたなりの様々な方法があるのです。そして、自分の持っている様々な方法に気づくということは、他にも様々なすばらしいリソースがあなたの中に眠っていることに気づくことにつながります。

 また許容的な表現ですね。

 私(講師)の話/仲間の話/自分の内側の声

 と学びのソースを網羅しつつ、どれから学んでもいいのだから、自分なりのやり方で学んでほしいと伝えています。

そして次は因果表現。

 自分が持つ様々な方法に気づけば(因)→他にも様々なリソースが自分の中に眠っていることに気づく(果)

 と言っています。これはまったく論理的にはつながっていません!

 でも、このように表現されると、繋がっているように錯覚してしまう。そして聞き手は勇気づけられてしまうわけです。

あなたのリソースに気づいたら、あなたらしいやり方で、このワクワクする学びの旅をスタートしていきましょう。そしてこの旅の途中で、行き詰まりや混乱を感じることがあるとすれば、それは、次の気づきへの階段であるのかもしれません。

 旅というメタファーが出てきましたね。学びの旅。

 旅と言われることで

 ・非日常
 ・新しい出会いや出来事がある
 ・楽しい
 ・何か発見や成長がある
 ・比較的長期間、少なくとも数日以上

 みたいなイメージが勝手に湧いてきますね。これがメタファーの効果です。例えられることで、勝手にイメージが沸いてくるのです。

 そして、

 行き詰まりや混乱を感じても、それは次の気づきへの階段だ

 と言っています。こちらも「階段」というメタファーを使っていて、

 ・ちょっと足を上げたら登れる
 ・少し登ったら次の階に行ける

 のようなイメージで乗り越えてもらおうとしているのです。しかも抵抗を回避するために

 次の気づきへの階段であるのかもしれません

 と語尾を曖昧表現にしています。

深く深く掘った井戸から、よりキレイな水が湧き出てくるように、深い混乱からは、あなたのすばらしい可能性があふれ出てくるかもしれません。

 またメタファー。

 あなたの内側には可能性の水源がある

 と言っているのです。コンコンと湧き出る可能性。。。

 最初は泥水(混乱)が出てくるかも知れないけど、そのあとは綺麗な水が自然と湧き出てくるよ、と。

 こう言われたら、混乱することも怖くなくなりますね。むしろその後が楽しみになって、自分を深掘りしたくなりますね

そうです。これは変化と成長の旅でもあるのです。そして、ここに参加していることが、もう変化の中にいるということなのだと、すでに感じている方もおられるかもしれません。ここに来たから変化が起こるということもありますし、変化が起こっているからここに来ているということもまたあるのです。

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 先ほどの「学びの旅」を「変化と成長の旅」と言い換えて

 参加しているということ=変化の中にいること

 なのではないか?それに気づいていますか?と問いかけています。

 このイコールでないものをイコールであるかのように結びつけるのもミルトンモデルのやり方です。

日本が大きく舵を切ろうとしている今だからこそ、有意義な学びの場を持ち、変化の旅の次の章をスタートさせることは、あなたの今後にすばらしい結果をもたらすことでしょう。

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  最後も複雑ですね。

 「変化の旅の次の章をスタート」ということは、すでに変化の旅を何章分か過ごしてきたという前提になっています。

 そして

 次の章をスタートする(因)→すばらしい結果をもたらす(結果)

 という因果関係をつくり、そこに

 次の章をスタート=有意義な学びの場を持つ

 とくっつけていますね。さらに

 日本が大きく舵を切る今だから(因)→次の章をスタートするとすばらしい結果がもたらされる(果)

 とさらに大きな因果関係の中に埋め込んでありますね。

 「大きく舵を切ろうとしている」

 というのも曖昧で何を言っているかわかりませんが、だからこそなんとなく「大きな変化とともに自分も変化していく」イメージを喚起していますし「世の中の動きと連動して、自分も良い方向に進んでいく」とか「自分の変化が世の中の変化にも影響を与える」とかを示唆していますね。

 もちろん「舵を切る」もメタファー表現ですので、その効果

 ・目的地に向けて進む
 ・大きな波や障害物を乗り越える
 ・船乗りの力強さ

 などがイメージされるわけです。

 ということで、今回の記事では、僕の昔の作文を素材にしてミルトンモデルを使って、相手の無意識に刺激を与えるやり方の解説をしてみました。

 使えそうな表現があったら、そのまま活用してみてください。そうしていくうちに、応用パターンなども自然と思いついていくと思います。

 こうやって事例に触れたら、あとは

習うより慣れよ

 の精神で取り組むと身につくのが早いと思います。

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