コーチングの「型」を超えて、スペシャルなコーチになるために(後編)

残り35記事

 昨日の続き。今日の記事では、ほとんどコーチが誤解している「コーチングにおける傾聴の本当の意味」などを考えみたいと思います。他にも、難しいケースを簡単にコーチングするアイデアを提供します。あなたのコーチングが大きく変わる可能性がありますので、ぜひ活用ください。

自由自在なコーチング

 コーチングには定番の型があります。これは先人の積み重ねの結果つくられてきたものですし、時を超えて残ってきたものですから、きちんと理解して使うことができたら、とても価値のあるものです。

 一方クライアントにはその時々の感情や思考があります。それに寄り添うことなく型にはめようとしてもうまくいかないことがあるわけです。クライアントに自由に語ってもらうことで起こる気づきや変化もあります。それも大切にしたいわけです。

 この2つのどちらかではなく、両方を満たして欲しいですし、自由に行き来できるコーチになってもらいたい。

 型を破って自由自在なコーチングでありながら、押さえどころを押さえて、きちんと結果の出るコーチングをして欲しい。

 また中上級コーチになると「自分の勝ちパターン」が確立され、その中に安住することも起こりがちです。その際にも、また新しい型を探求したり、その上で、さらにスケールの大きなコーチングをしてもらいたい。

 そんな思いで、書いていきます。

 前編では「上司の評価」に向いていたクライアントの「関心」にコーチも「関心」を向けてみた事例を紹介しました。

 別の事例も見てみましょう

クライアントの「関心」と地雷

CO「何を話したいですか」
CL「子育てなんですけど」
CO「子育て。。。もう少し教えてもらえますか」
CL「とにかく子育てをどうしていいかわからなくて。。。。子どもはずっと機嫌が悪くて、いつも泣いてるか怒ってるかしてて。。。。私もどうしたらいいかわからなくて、イライラしちゃって、悪循環だとは思うんですけど。。。。でもどうしたらいいかわからないしやめられない。昔から人の気持ちが分からないというか、気づかないタイプなので、それがよくないんだろうと思うんです。そう考えると自分がますます嫌になっちゃう。なんでなんだろうって」

テーマ

クライアントの関心はどこにあるでしょう。
クライアントの意識はどこに向いているでしょう。
クライアントはどこを見ているでしょう。

クライアントが一番話したがっているのはどの部分でしょう。
クライアントがあなたに「ここに触れて欲しい。もっとこの部分の話を聞いて欲しい」と思っているのはどこでしょうか。

 5つ質問を書きましたが、もちろんこれらは全部同じことを探る質問です。あなたにとってピンときたものを採用して「クライアントの関心」を探すのに使ってください。

 ・どうしたらいいか分からない
 ・なんでなんだろう(何が悪いんだろうの意味)
 ・自分が嫌になる

 とか、いくつかピックアップしてみて、どれについて「もう少し教えて」と言った時に

 「あ、このコーチわかってくれてる!」

 とクライアントは感じるのだろか。ということですね。

 別にクライアントが気になっているところ=関心は1つしかないわけではないのです。だから上の3つとかであれば、どれについてきいてもとりあえずOKだと思います。

 でも、この段階で

「とはいえ頑張ってるところは?」
「本当はどうなったらいいんだろう?」
「うまく行ってる時はどんなとき?」
「お子さんの可愛いところってどんなとこ?」
「誰か助けてくれるひといないの?」
「ご主人にもっと協力してもらえないのかな?」
「お子さんからみたママのいいところってどんなとこだろう?」
「お子さんは何を求めてるんだろうね?」
「どうしたらいい状態で関われるんだろう?」

 とかきかれても、それに答えるのにReadyな状態じゃない可能性が高い。だからそんな質問されると、それだけで嫌になったり、コーチングへの意欲が減ったり、コーチへの信頼感が下がる可能性があるわけです。だから、このルートは避けて欲しい。

地雷探知

 クライアントの地雷を踏まないようにして欲しいのです。コーチとしては当たり前の質問でも、その瞬間はクライアントにとって地雷になってしまうことってあるわけです。

 上記の質問も使い所によっては「いい質問」なのです。でもタイミングによっては地雷になってしまう可能性がある。この地雷の怖いところは、クライアントはあなたが地雷を踏んでも、何食わぬ顔であなたの質問に答えてくれることもあるのです。でも心の中では「このコーチ期待できなそう」とか「相談するんじゃなかったな」とか思ってしまう可能性がある。これではコーチが気がつけないから修復できずにコーチングが終わってしまうのです。あなたもそんなクライアント体験あるんじゃないでしょうか。

「傾聴の技術」の使い方

 話を戻して、コーチングの続きを見てみましょう

CO「どうしたらいいかわからないっていうのは?」(具体化)
CL「。。。。とにかく子どもがなんで泣くのか分からない。何がしたいのか分からない。」
CO「そっか。。。あとは?」(網羅)
CL「私の何が悪いのか分からないし、どう関わったらいいのか分からない。。。なんでうちだけそうなのか。。。」
CO「そっか、それはしんどいね」(感情の反映)
CL「はい。。。。」
CO「そんななかこれまで一人で頑張ってきた。。。」(言い換え)
CL「はい。。。。」

傾聴的関わり

 「具体化」「網羅」「感情反映」「言い換え」。。。これらのスキルはカール・ロジャーズのPCA(パーソンセンタードアプローチ)からきている傾聴のスキルです。

 傾聴はただ話をきくことではありません。クライアントに寄り添い、クライアントが話したかったけどまだ言葉にできていなかったことに一緒に触れていくプロセスです。そのためにコーチは、質問をしたり、感じ取ったことをフィードバックしたりする必要があるのです。

 クライアントの関心に関心を向けて、傾聴することでクライアントはこの短いやりとりだけでも「わかってくれた」「きいてもらってよかった」「そうだよね。わたし一人で頑張ってきた」とか思えるわけです。

 クライアントは妙なことも言っています。

私の何が悪いのか分からないし、どう関わったらいいのか分からない。。。なんでうちだけそうなのか。。。」

 これはクライアントの思い込みですね。別にクライアントが悪いわけでないのかもしれないし、べつにクライアントのうちだけがことさら悪い状態でもないかもしれない。

 このことに気づいたコーチは、このクライアントの認知を正したくなるかもしれません。

「え?あなたが悪いの?本当に?どうしてそう思うの?他の可能性もあるんじゃない?」
「え?あなたのところだけじゃないでしょ?みんなそれなりに大変なんじゃない?だからできてる部分も見て前向きに進んだ方がいいんじゃない?」

 大袈裟にいうと、こんな感じの関わりをしちゃう時があるかもしれないわけです。

でも、この段階でそれをやろうとすると大抵うまくいきません。これも地雷なんですね。だからまずは寄り添う。しっかり自分の気持ちにアクセスし表現してもらう。必要なことはあとでやればいいのです。

コーチングへの基本ルート

 さきほどの続きはこんな感じ

CO「そんななかこれまで一人で頑張ってきた。。。」(言い換え)
CL「はい。。。。」
CO「今の状況が少しでもどうなったらいいのかな」(小さく未来にリード)
CL「。。。もう少し私も落ち着けて、子どもの良いところも見ることができて。。。。あとは」
CO「あとは」(網羅)
CL「夫にもSOSが出せたら。。。多分夫も私にどうしていいか分からないんじゃないかなと思うので」
CO「そうなんですね。少し落ち着けて、お子さんのいい部分が見れるようになって、ご主人にも良い形で手伝ってもらえてる。。。。そうなったらどんな気分ですか?」(変化の予測)
CL「あー。。。すごく落ち着くと思います。。。」
CO「いいですね。。。そんなあなたなら、将来どんな家族になりたいとか、どんな自分になりたいって言うんでしょうね」(ゴール)

ゴールへの接続

 昨日の記事でも見たように、ゴールに向かって「小さくリード」したり、その未来を予測して実感してもらうことで、コーチングで描きたいゴールをイメージするのにReadyな状態にもっていけるのです。

 もちろん、クライアントの状態によっては

CO「いいですね。。。そんなあなたなら、将来どんな家族になりたいとか、どんな自分になりたいって言うんでしょうね」(ゴール)

 という質問はしなくてもいいです。そこまで頑張らずに

「少し落ち着けて、お子さんのいい部分が見れるようになって、ご主人にも良い形で手伝ってもらえてる。。。。」

 を今回のセッションではゴールにして、そこに向けて何ができるかを考えるのが良さそうなら、これをゴールにしてGROWモデルなどにつなげてもいいわけです。

次に覚えたい3パターン

 基本パターンを覚えたらそれでほとんど対応できますが、応用のパターンを3つ紹介します。

相手を変えることに関心があるパターン

CL「とにかく上司が最低で、保身しか考えていないというか、私たちがどれだけ訴えても聞く耳持ちません。どうしたらあんな風に人の気持ちを弄べるのか。。。とにかくあの人が変わらない限りはどうにもならない」

相手を変えたい

 コーチングでは相手を変えることではなく「自分がどうなりたいか?」に関心を向けるのが基本です。だからコーチはそっちの方向にリードしたくなるかもしれませんが、そっちルートに入るにはまだReadyでないと、地雷を踏むことになってしまうわけです。

 だから

 「どう変わって欲しいの?」→「それはどうして?」→「もしそうなったら、そこであなたがやりたいことは何?」→「そうして実現したいのはどんな未来?」(ゴール)

 のようにゴールまで繋げるのです。まずは相手の変化から始めて、その後でクライアントの自分ごとにしていくパターンですね。ここまでできたらあとは型通りでいいのです。

 普通にGROWモデルでいくなら

Rリソース
 「このゴールを10点とすると現在は何点?」
 「未来に向けて一番使えるリソースは何?」
 「まだ使えてないけど、使えると良さそうなリソースは何?」

Rリソースフル
 「あなたがどんな状態だとこの未来にきやすそう?そのためにできるのは何だろう?」

Rリアリティ
 「この未来に来るために重要な課題は何?」
 「上司が変わる以外にはどんな課題がありそう?」 

O選択肢
 「この未来が実現したとしたら、これまでとアプローチをどう変えたからだろう?」
 「うまくこの未来を実現できる人がいるとしたら誰?その人ならどんなアプローチをしそう?」
 「これまでとは違うリソースを使うとしたら、何を使う?誰に協力してもらえたら、この未来に近づきそう?」
 「上司を変えようとするやり方以外にどんなやり方がありそう?」


 こんな路線でもやれるわけです。もちろん上司とポジションチェンジして解決方法を探索するのもいいのですが、GROWモデルの良さは、大きなゴールを描くことを通じてクライアントに視座を上げてもらうことなのです。そしてその視座を活用して、上司を変えようとすること以外の新たな選択肢を明らかにできることなのです。

未来の不安に関心が向いているパターン

 これも少し特殊な処理法ですので紹介します。

CL「とにかく不安症でいろんなことが気になるんです。いつも何か不安に駆られていて、安心できません。それを何とかしたいです」

不安に関心

 これもこの状態で「本当はどうなったらいい?」とか質問しても、相手はReadyじゃないので答えづらいですね。しかも「不安じゃなくなりたい」とかの回答が出てきたらその後のコーチングが進めづらいわけです。

 ということでクライアントは不安に関心があるので、一旦「不安」について話を聞いてみます。ポイントは「今回のコーチングではどの不安を扱うか」を決めることにむけてまずは動いてみることです。

 みてみましょう

CL「とにかく不安症でいろんなことが気になるんです。いつも何か不安に駆られていて、安心できません。それを何とかしたいです」
CO「どんなことが気になるんですか?」(関心に関心/具体化)
CL「将来のこととか」
CO「例えば?」(具体化)
CL「ちゃんと就職できるのかな、とか」
CO「なるほど、あとは?」(網羅)
CL「人とうまくやっていけるのかな?とか」
CO「どういうこと?」(具体化)
CL「ビビリですぐ萎縮しちゃうんで、仕事場で怒られたりとかしたら、何もいえなくなりそう」
CO「そっか。。。あとはある?」(網羅)
CL「うーん。そんなんで生きていけるなかなとか思ってしまいます」
CO「そっか。。。一番気になっていることは何かな?」(選択)
CL「やっぱり打たれ弱いので、そこが心配です」
CO「会社で何かトラブルがあったときに、やっていけるのかが気になるってこと?」(言い換え/確認)
CL「そうですね」

不安の具体化と選択

 不安を具体化した上で、1つ選びました。そうしたらこれをテーマにコーチングしていけばいいのです。もちろん基本パターンで「この状況がどうなればいい」と小さくリードするのでもいけます。けれどこんなやり方もあります。

CO「そっか、あなたが避けたいのは例えばどんな未来だろう?」(避けたい未来)
CL「うーん。何かやらかして、上司や先輩に怒られて、萎縮しちゃって。。。。」
CO「うん」
CL「それで何もできなくなって、ますます悪い状態になる」
CO「悪い状態っていうのは?」
CL「積極的に何か言ったりやったりできないので、評価も下がって、ますます萎縮して、居場所がなくなるみたいな」
CO「そっか。。。確かにそうなったら嫌だね。。。」
CL「はい。。。いやですね。。。」
CO「(声のトーンを明るめに切り替えて)じゃあさ、逆に、そうじゃなくてどうなったらいいなって感じなの?例えば」(望む未来に反転)
CL「うーん。『確かにそうですね。わかりました』みたいに相手の話を冷静に聞けて、ちゃんと対応できて、自分も成長するし、上司も安心というか、目をつけてこないというか。。。」
CO「いいね。目をつけらるんじゃなくて、どんな風にみてくれてたらいい?」(肯定形に変換)
CL「ちゃんとわかってるなとか、いえばやれるやつだなって思ってもらえたらいいですね」
CO「いいね!!そんな自分だったら、将来どんなことがやれるようになりたいっていうんだろう」(ゴールにリード)

不安のシーンを描いてから反転

 いかがでしょうか。まずは未来の不安が何かを描いてしまうのです。僕が開発した「目線切り替えMAP」がわかる方は、一旦「未来マイナス」に行ってから「未来プラス」へとリードしていくイメージですね。クライアントの不安が具体的どんなものか、未来の不安のイメージを描いてから、それを反転させる形で望む未来を描くのです。

 ここまできたら、あとはGROWモデルを使うことができますね!!

 また、未来の不安が描けると「障害回避」「障害対策」を考えられるようになります。

 障害回避=未来の障害(問題)が起こらないようにするために何ができるかを考えて実施する

 「そのような問題が起こらないようにするために何ができますか?」「何をすることで(何をやめることで)その問題を避けることができそうですか?」など

 障害対策=実際に障害(問題)が怒ってしまった場合、どのように対処したらいいかをあらかじめ決めておくことで、対応できるようにする

 「実際にそのような状態になった場合、どう対処するとうまく抜け出せる可能性がありますか?」など

 障害回避や障害対策についてアイディアが得られると、クライアントの不安は減少します。ぜひ使ってください。

現状と関係ない夢に関心に関心が向いているパターン

 3つ目です。これは現在の状態とは関係のない、遠い夢に関心が向いているパターンです。

 例えばクライアントは新入社員のケースで

CO「◯◯さんはどんなことがやりたくてこの会社に入ったの?」
CL「いやぁ、そういわれるとちょっと。。。」
CO「どういうことだろう?」(具体化)
CL「。。。。本当は早く独立して、自分のお店持ちたいっていうか。。。会社やりたいんですよね」

突拍子もない夢

 このケースに限らず、周りからしたら、ちょっと非現実的な夢に思えるようなものを語るケースや、本当に取り組む気があるのか怪しい未来を語るケースがあるわけです。

 特に社内や学校内でコーチングしている場合や、お子さんにコーチングしている場合などは、もっと現実的なゴールを持って欲しいとおもって、そちらに誘導したくなるかも知れません。

 でも、それってリードが強くてついてこれない可能性もあるし、表面上は話を合わせるけど、実際には頑なに動かないことが多いのです。

マッチングしないと

だから、まずはあいての話(=関心)に乗っかってみるのです。

CO「いいね!!どんなお店やりたいと思ってるの?」
CL「いや、ずっと音楽が好きなんで。。。(以下省略)」

関心に関心

 今の会社やそこでの仕事と全然関係のない夢でもいいから聴いてみるのです。ポイントは可能な限り具体的に話をきいてみることです。そして

 「それの何がいいの?あなたにとって大切なのは何だろう?」などの質問で相手の価値観や大切にしたいことを聴きだすのです。

 よいでしょうか。突拍子もない夢の話になったら、それに乗っかって具体的に夢を描いてもらった上で、その夢の中に含まれている、クライアントにとって大切なこと(価値観)を言語化してもらうのです。

 例えばそれが

「自分のこだわりを通じて、みんなにもっと人生を楽しんでもらうこと」

 だとしたら、

 「例えばこの会社で、少しでもそれを実現するとしたらどんなことができるんだろう?」

 のように、今の会社でのゴールを描くことに繋げられる可能性があります。

 突拍子もない夢から明らかになったクライアントの大切なこと(価値観)を、いまの環境でも実現する方向性でゴールを描くというやり方ですね。

 もしくは
 「その夢を実現するために、この会社でどんな経験ができたらいいんだろう?どんな自分なら、その夢をしっかりと実現できそう?」
 
 のように、未来の大きな夢の実現に向けて、この会社で何を目標にすると良いかを考える筋に持っていって、そこからGROWモデルなどに入っていくルートもありますね。

 いずれにしても、こんな風に自分の話に真剣ん寄り添ってくれるコーチがいたら、クライアントは心を開き、協力的に未来を考えやすくなるでしょう。そして、自分の未来に向けて、自分の足で進んでいく可能性があがると思います。

終わりに

 クライアントのことを受け入れ。理解しようとすること。

 変えようとするな。理解しようとせよ

カール・ロジャーズ

 そして、クライアントの理解が深まり、Readyな状態になったときに、コーチングをスタートすれば良いのです。

 今回の記事では、コーチングの始まり部分での関わり方のアイデアを提示しましたが、途中でクライアントが脱線し始めた時も、一旦受け止めた上で、そこでの気づきを踏まえて、元の路線に戻ってくることを基本に関わるといいことが起こりやすいはずです。

 コーチの皆さん。ぜひ「型と傾聴」を使っていろんなコーチング体験をしてください。そして自由自在でスケールの大きなコーチが増えると素晴らしい世の中になるはずです。ぜひ一緒に社会が変化していくことを支えていきましょう!!

 僕たちと人生を変えるコーチングを世の中に提供したい人は




いいなと思ったら応援しよう!

だいじゅ@コーチング脳のつくり方
お気持ちありがとうございます。資料入手や実験などに活用して、発信に還元したいと思います。