セルフイメージを変化させる「器の小さいわたし」(前編)

2015年の公開セッションから。今回は「私は表に出たらいけない」と思い込んでいるという女性のケースです

宮越「私は表に出たらいけないと思ってるの?」
CL「はい」
宮越「ほんと。(人前に)出ちゃったね、大変だね。これは別にいいんだ?これは?」
CL「それはずるい(笑)」
宮越「いや、そうだよね。こういう表じゃなくて、どういう表に出たらいけないの?」
CL「え~、なんか、そうだな。なんか人の前に出ちゃいけないというか、出ちゃったんですけど(笑)」
宮越「出ちゃったね。これは置いといてね」
CL「これは置いといて、なんか人の先頭に立っちゃいけない
宮越「あ、先頭に立っちゃいけないとかね。はい、はい。えっと、人の前に出ちゃいけないとか、人の先頭に立っちゃいけない」

まずは軽く笑いをとる

 毎回スタートではできるだけふざけています。これは公開セッションでは、観客を楽しませるためもありますが、非公開のセッションでも同じです。なるべく笑ってもらいたい。笑えばクライアントもリラックスするし、コーチ=クライアント関係もよくなります。

 そして本題ですが、先頭にたったらダメと思っていてもいいのです。でもなにかを率先してやろうと思うなら、先頭に立つべきでないという信念とバッティングしますね。

 だから「先頭に立たなくても別にいいじゃない?何か困ってることあるの?」とかきいてみたいわけです。

 今回はクライアントが他のテーマも事前に教えてくれていたので、それとつなげました。

宮越「あれ、なんか、そういうのもちょっとあった気がするね。『日本でクラウンツアーをしたい』。」
CL「はい」
宮越「クラウンツアーってなんですか?」
CL「えーと、海外から、クラウンを呼んで日本中を回りたいっていう」
宮越「はいはいはいはい。日本中を回りたい。それを、こう、自分がリードしたいって言うことですか?とか」
CL「はい。えー、オーガナイズしたい」
宮越「あ、オーガナイズしたいんだね」

目的

 クラウンツアーというのは、ピエロみたいな格好をしてツアーをすることです。病院や福祉施設などをまわるわけです。このクライアントはパッチ・アダムスという映画にもなった人物と一緒に世界ツアーで活動していて、それを日本でもやりたいわけです。

 だから「先頭に立つべきでない」という思い込みを持っていることに困っているわけです。

 本当はオーガナイズすると、先頭に立つや人前に立つは違うと思いますが、もう少しクライアントが考えていることを知りたいですね。

宮越「私は人前に立ってはいけない?」
CL「はい」
宮越「はい。言ってみてください。私は人前に立ってはいけない」
CL「私は人前に立ってはいけない」
宮越「はい。えー、もう絶対に人前に立ってはいけないが10点だとして、本当は立ってもいいとかね、全然立ってもいいが0点だとして、何点くらいは本当に人前に立っちゃいけないと思います?」
CL「人前に立っちゃ、立つ人間じゃないのは」
宮越「何点くらい想ってる?」
CL「9ぐらい」
宮越「9ぐらい思ってるね。はい。結構強くそう思うことが、何かあったっていうことね。で、どうしてそう思ってるんだろう?」
CL「そんなに才能ないし」
宮越「あ~、そっかそっか。そんなに才能なしい、うん」
CL「そんなにリーダーシップをとれるほどじゃないし、そんなに統率力もない」
宮越「そんなにシリーズがいっぱいあるね(笑)はい。才能ないしね、リーダーシップとれないね、統率力ないね。はい、うん」

スケーリングと根拠

 コーチは、スケーリングを使って「人前に立ってはいけない」の根拠を知ろうとしています。

 どうやらクライアントは、自分には才能とか、リーダーシップ、統率力がないからダメと思っているようですね。

 具体的な出来事をきいてみます。具体的な出来事をきくと、理解が正確になてくるからです。

宮越「で、才能とか、リーダーシップとか統率力がそんなにないのね。どんな時にそう思いました?」
CL「うーんとねですね。あの、そんなに寛容じゃないから」
宮越「あ、そんなに寛容じゃない。どんな時に思った?なんかそういう出来事があった?」
CL「あー、そうですね」
宮越「特に強く感じたのは?」
CL「えー、ありましたね。前の職場で私幼稚園に勤めていたんですけど、後輩がなんかミスった時に何回もやられると『ダメだよ、それ』って」
宮越「あ~、そっかそっか。ミスった時に何回もやられるとダメだろうと思ってしまう。はい」
CL「うん、ありましたね。何度も」
宮越「それが?それが今のとどう関係があるの?」
CL「えーと、なんかリーダーって、もっと寛容であって、なんかミスっても、『そうだね、もうちょっと頑張ってなんかしようね』って言えてたら良かったのに、それ全然言えてなくて、またかっていう感じで、まあ、怒っちゃうのもあったし、でも、怒るの我慢してずっとずっと溜めてきて結局どこかで爆発してたみたいな。はい」

根拠エピソード

 こういうふうにきいてみると、幼稚園教諭時代に後輩が何度もミスったときに「ダメだよ」と言ったというのが事実ですね。

 それを

 ダメだよと言う→ためた怒りが爆発した→私は非寛容→リーダーとして相応しくない→人前に立ってはいけない→クラウンツアーのオーガナイズは無理

 みたいな繋げかたをしているようですね。

 溜めないで言うようになってもいいし、ダメだよといった後でフォローしてもいいし、繰り返されたらフィードバックをするのは普通だと思ってもいいし、いろんな対処があるとは思うのですが、本人はこのようにストレートに自分はダメというロジックを作っているのです
 

宮越「ある時、溜めてて爆発するっていうことがありましたと」
CL「ありました」
宮越「うん、うん。っていう、例えばね過去の仕事の体験の中で、溜めてて爆発します。で、爆発したらどうなったんですか?」
CL「いや~な感じしました」
宮越「嫌な感じ?嫌な感じっていうのは?」
CL「えーっと、あ~、言っちゃったなっていうのもあるし、相手の人ともすごい関係が悪くなりました」
宮越「相手の人と関係が悪くなったっていうことね。はい」

結末

 行動の結末を聞いてみました。爆発したら嫌な感じがしたと。そして相手の人ともすごい関係がわるくなった(ような気がする)というわけです。

 ここでは、聞きませんでしたが、その後その人との関係がどうなったかきいてもよかったですね。もしからしたらしばらくしたら関係は変わったかもしれない。もし変わってなくても「いま振り返ったらどう関わればよかったと思う?」とか質問すれば、関係を好転させる方法が見つかったかもしれません。(もしそれが見つからなかったら「それが見つかったらどうなるとお思いますか?」などとやればいいのです)。

 こうすることで、自分でちゃんと関係を修復できるということを学ぶことができますね。

 このときは別のルートに進みました

宮越「ではね。今、もう一回言ってみて、僕の話聴いてね、えー、リーダーは寛容でなくてはいけない。で、私は怒りを持ってしまう、溜めてしまう、爆発させてしまう、ね。で、雰囲気を悪くしてしまう。で、私は寛容な人間ではない。だから私はリーダーにふさわしくないと、こういってみたんですけれども、今それをもう一回聴いてみてどんな気持ちだったり、どんなこと考えてます?」
CL「やっぱり寛容じゃないよなって、怒っちゃうよな」
宮越「怒ったらダメなんですか?」
CL「そうですね。あ、怒ると、なんだろう多分、器が狭いな私とかって、他の人だったら『もうちょっといいんじゃないの』って器を大きく受け止められるのが、私はちょっと多分、その、あの、器が小さいんですね、私」

器が小さい

 クライアントは自分は「器が小さい」と思っているようです。器が小さいからリーダーに不向きであると

宮越「私は器が小さい人間ってね。はいはいはい、OK、OK、OK」
CL「器が小さいになっちゃいました(笑)」
宮越「ああ、そう。器が小さいのね。で、器が小さいから何なの。器が小さくてもいいじゃないですか?ダメなんですか?」
CL「いや、あの、怒っちゃうからダメですよね」
宮越「なんで怒っちゃうからダメなんですか?それが知りたいんだよね。何で怒っちゃうからダメなの?」
CL「器が小さいというか器を大きくしたいんですよね」
宮越「あー、器を大きくしたいんだ!」
CL「はい」

器が小さい

 クライアントのロジックを明らかにするために、コーチは

 「器が小さいからダメなの?」「怒っちゃうからダメなの?」「なんで?」と質問しています。

 クライアントがどういう考え方をしているか知りたいのです。それを明らかにしていくと、クライアント自身でも

 あれ、なんだか変な考え方しているな!

 と思う瞬間がやってくることが多いからです。

宮越「どうして、どうして?」
CL「もうちょっと寛容になりたい」
宮越「寛容になりたいのはどうして?」
CL「えー、もうちょっと人に優しくしたい」
宮越「人に優しくしたいのはどうして?」
CL「人に優しく、そうですね。あんまり傷つけたくない」
宮越「傷つけたくないよね。それはね」
CL「人を傷つけたくない」
宮越「うん、うん。傷つけたいくないよね。どうして傷つけたくないの?傷つける代わりにどうなって欲しいの?」
CL「傷つける代わりに、えー、傷つける代わりにー、協力したい」
宮越「あ、協力したい。言ってみてどうですか?協力したいじゃなくて、別のことでもいいんですよ」
CL「傷つけないで、うーん、なんか、受け入れるっていうか、多分自分から敵にまわしちゃってるんですよね。あの、傷つけるって」

傷つけたくない

 もっと「協力したい」「受け入れたい」とクライアントはいいます。

 この思いは素晴らしいですね。こんな思いを持っている人が、うっかり人を傷つけるとしたらどうしてでしょうか?

 きっと、自分もわかってもらえなかったり、苦しかったりするのかなとかコーチとしては思うわけです。

 さて、ここまでヒアリングしてきて、ようやくワークの入り口に立った感じです。このセッションでは、器というメタファー(例え)を活用しながら脳内のイメージ操作をすることで、クライアントの認知を変化させると言うちょっとめずらしいアプローチをしていきます。

 続きをお楽しみに

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