CBC㉖「どん底と肩ドン。人生で一番長い手紙」
向き合うこと。コーチもクライアントも。
ケース5◆「勇気づけは肩ドン?」
これも古い話。大阪での久しぶりの講演会。準備もあるから早めに会場に入った。そして、ロビーで見かけた男性に驚いた。
Tくん???思わず二度見した。。。
まるまった背中。スーパーのビニール袋みたいなのに、何かをいっぱいいれて持って、とぼとぼ歩いてる。
であった頃の彼はあんなに元気で夢に溢れ、頑張ってたのに。。。。
10歳以上老けたように見えた。
話しは2週間前に遡る。自宅の近くで飲んでいた時。Tくんから電話があった。
Tくん「だいじゅさん。。。今いいですか」
僕「うん。どうしたの」
Tくん「こんどの大阪講演会、行きたいんですけど、行けなくて。。。。だから一応連絡しておこうとおもって」
僕「あ、そうなんだ!わざわざありがとうね」
彼「いや。。。。」
なんか変な感じ
僕「どうしたの?」
彼「。。。。。なんかずっと応援してもらってたのに、全然コーチングやれてなくて。みんなに合わす顔ないというか」
僕「そうなの?」
彼「結局今もバイトしてるんです。。。なかなかクライアント増えないし、奥さんのためにも頑張りたいとおもってたけど、この前奥さんを泣かせてしまって。『あなた何やってるの?』って。。。。。一番大切な人を幸せにできないのに、コーチとか無理だなって。。。。」
あららら。ちょっと酔いが覚めました。
僕「そっか。。。。でもさ。そういう理由なら、全然大丈夫だから、おいでよ」
彼「。。。。そう言ってもらえるのは嬉しいですけど。。。。」
僕「何?」
彼「。。。。行ったら。。。みんなと自分を比較して、ますます辛くなるんで」
うーん。彼のことは可愛がってきたし、つよい繋がりがあるとおもっていたので、僕は思い切って言いました
僕「ダメ!!おいで!。。。もし来ないんだったら、講演会終わってから、お前んち行くからね。おれは住所知ってるんだから」
彼「。。。。。。。」
僕「本当においで」
彼「。。。。。。。はい」
みたいな経緯があったのです。そして、開演二時間前に、背中丸めながら、会場近くをウロウロしている彼。。。。
もともとスノーボードの選手だったTくん。選手時代にやり切れたかった夢をコーチとして叶えたいと頑張っていた彼。
大阪から夜行バスで東京まで通い、熱心にコーチングを学び、日々実践していた彼。
うまく行かないセッションで悔し泣きをするくらい、真剣にクライアントに関わっていた彼。
キラキラした目で、僕に夢を語ってくれた彼。
おまえ苦労してたんだな。知らなかったわ。
僕はヨレヨレの彼に明るく声をかけました。
僕「おー。ありがとう!!来てくれたんだ!!迎えに行こうかとおもってたよ(笑)」
Tくん「。。。すいません。。。」
俯いて目を合わせてくれない彼。。。
僕「いいんだよ。とにかく一番後ろでもいいから、座ってて。。。俺さ、今日一生懸命やるから」
Tくん「。。。。。はい」
いつも一生懸命ではあるけど、その日はとくに一生懸命でした。もちろんみんなのためでしたが、Tくんの心にも届け!と。
別にコーチングじゃなくてもいいけど、お前のやりたいことをやってくれよ!!誰かのためじゃなく、お前のために生きて欲しい。。。
そんな想いを込めて話していました。
2時間の公演が終わり、彼が座っていた一番後ろの席に行きました。彼に声をかけます
僕「どうだった?」
彼「はい。。。。全部。。。。僕のために言ってくれてるみたいで。。。」
僕「そっか。。。」
彼「。。。。。。。」
僕「コーチング。。やりたいんだろう?」
彼「。。。。。。。」
僕「コーチング。やりたいんだろ?」
彼「。。。。。。。。はい(涙)」
ドンッ!!!!!
僕は反射的に、彼の肩を思いっきり突いていました。
(※良い子は真似しないように。。。というか暴力はダメです)
僕「やれよ!!!!やりたいんだろう!!!」
彼「はい。。。。(涙)」
僕「あきらめんな。お前には才能あるんだから」
言いながら思い出した。当時スクールをやっていた赤坂で。。。懇親会の帰り道。。。駅へと向かう道で、二人きりになって、Tくんに言ったこと。。。
「お前には才能がある。絶対いいコーチになるぞ!」
コーチングの才能はいろんな種類のものがあるけど、彼には思い切りの良さがあった。クライアントにぶつかりながら、そこから立ち上がってくるものを使って、一緒に物語をつむぎ出せる彼。インファイト型のコーチ。
確かにあの夜僕は酔ってた。だけど、そのときの言葉に嘘はなかった。
改めて彼を見る。彼の目に、消えていた光が灯っていた。まだ小さな灯かもしれないけれど。。。ホッとした。。。
そして、
それから2年ほどの時を経て。。。
大阪出張のとき。関西圏の卒業生が開いてくれた同窓会。。。。そこにTくんがいました。
Tくんの活躍は知っていました。プロコーチとして大人気の彼。そんな彼にビジネスを教えてもらいたいという人たちも増えて、ビジネス講座でも大活躍していました。
。。。。。あんなにお金のことで困ってたのに。。。。。変われば変わるもんだな。。。。。
僕「お、金持ちがおるぞ(笑)」
Tくん「だいじゅさん。やめてくださいよ」
僕「いやさ。。。。俺は嬉しいよ。。。。本当に。。。。」
Tくん「。。。。。(涙)。。。。ありがとうございます。。。あのとき喝を入れてくれたおかげです。。おかげで目が覚めました」
僕「そっか。。よかった。。。それにしても、すごい活躍じゃん!」
Tくん「本当に、おもったよりうまくいってて。。。」
僕「それでいいんだよ。。。調子いいときはどんどん行かなきゃ。。。お前は波に乗るの、得意なんだから!」
Tくん「。。。。(笑)。。。。ありがとうございます!。。。。でもね」
でも???
Tくん「でもね。。。。だいじゅさん。。。。俺大変だったんすよ」
僕「そうなの?」
Tくん「ビジネスはうまくいくようになりましたけど。。。。俺コーチとしての底。。。。。体験しました」
彼の話はこうでした。僕の『肩ドン事件』でスイッチが入った彼。本当にやりたいことをやろう。。。やっぱりアスリートコーチをやろうと、積極的に動き始めたそうです。
そして出会ったのが、あるXゲームのアスリート。世界選手権出場を目指す選手でした。
元アスリートだったTくんとその選手は意気投合し、一緒に世界を目指そうと頑張っていたそうです。
勢いがあるときのコーチングはうまくいく。
コーチは迷いなく問いかけ、クライアントも迷いなく決断していく。
もともとトップレベルの実力があったその選手は、メンタルが上向いたことも手伝って、破竹の勢いで勝利を重ねていきました。
そして、夢だった世界選手権への出場も決まります。
選手から帯同を依頼され、Tくんは一緒に現地まで行ったそうです。
Tくん「でも、俺ビビっちゃって。。。。ここで結果出してもらわないと、契約切られるかな。。。。ここまで来たんだから、うまいことやらないと、って。。。。」
僕「そっか。。。まぁ、あるある よな」
Tくん「で。。。ぜんぜん相手に踏み込めなくて。。彼からアイディア求められても、何も言えないし」
僕「。。。。」
Tくん「。。。。結局、結果は出ませんでした。メダルもあり得る状態だったのに。。。」
僕「それで」
Tくん「彼に謝りました。。。。だけど『自分は本気で世界一目指すので、今後Tさんにコーチング頼むことはありません』と言われました」
そういう世界だよな。限られた時間の中で、一つ一つのチャンスを生かせるか?そのためにできることはなんでもやる。そんなアスリートと関わるのがアスリートコーチ。
僕「で、どうしたの?」
Tくん「情けなくて。。。。でももう一度やり直したくて。。。。自分に向き合いました。。。。」
僕「うん。。。」
Tくん「ビビってました。そのビビってる気持ちの、奥には、焦り。。。そしてその奥には恐怖。。。。自分のことしか見てなかった。。。極限状態の選手がベストを尽くせるように関わりたかったはずなのに。。。一番大切なときに。。。。俺は最低でした」
僕「なるほど。。。。」
Tくん「で、手紙を書きました。自分に起こっていたことを正直に、全部書きました。。。全部伝えた上で、もう一回一緒にやりたい。本気で関わらせて欲しい、と」
僕「うん。それで」
Tくん「返事は来ませんでした。。。。そうだよな。。。と思いながらも。。。諦めたくなくて」
僕「うん」
Tくん「毎週手紙を出しました」
僕「やべーな(笑)」
Tくん「あはは。本当に。。。別にもうコーチとして関われなくてもいい。だけど何か役に立ちたい。そう思って、役に立ちそうな情報と、応援メッセージを書いて」
僕「そっか。。。。」
Tくん「もちろん、返事なんか来なくて。。。でもそれで良くて。。。読んでないかもしれないけど、その可能性が高いけど。。。でも、彼を応援したくて。。。他にできることが思いつかなくて。。。。」
僕「。。。。。」
僕は全国のコーチたちにこんなやり方は進めません。でもね。好きなんだよね。個人的には。。。。この情熱が。。。
Tくん「気づけば半年以上経ってました。。。。そうしたら。。。突然来たんです。。。彼からメッセージが。。。」
僕「おーーーーーーー」
Tくん「彼はこう言ってくれました『本気だって分かりました。あらためてお願いさせてください。Tさんと一緒に世界一を目指したいです』って」
いいなぁ。。最高のクライアント。最高のコーチ。こんな体験を一緒にできるなんて。。。。
なぜだか僕の涙が止まりません。
Tくん「だから、俺また世界選手権行きます」
僕「よかったね」
Tくん「だいじゅさん。俺、変わりました。今は選手に言いたいこと何でも言えるし、だから向こうも何でも言ってくれる。今度は彼にベストを発揮してもらえると思います!!!」
かっこいいな。
コーチング、カウンセリングを支えるのはコーチの
一致
カール・ロジャーズは、これを言い換えて
本物であること(偽りのない自分)
と言っています。
偽りのない感情
偽りのない言葉
偽りのない態度
そしてそれは「こうありたい」という自分に誠実に生きることなのではないかと思います。
Tくんはコーチになった。本物のコーチに。
そうさせてくれたT君とクライアントの関係。
僕たちがコーチになるにはクライアントが必要です。
僕たちはコーチングをする人ではない。クライアントと共に進むコーチなんだ。
眩しいばかりの彼の笑顔を見ながら、そんなことを思っていました
続く