傾聴はしないほうがいいの?
「傾聴はしないほうがいいと言われたんですが、本当ですか?」
コーチングを学び始めたばかりの方から、こんな質問をもらいました。
みたいな話でした。
コーチングはスクールごとに、もっと言えばコーチごとにいろんな考え方で行われています。コーチングの定義すら団体によってバラバラですから、自分がどんな考え方を採用するかが大切なのです。
いちおうICF(国際コーチ連盟)という国際団体があったりはします。熱心に活動していますし、素晴らしいとは思いますが、それでも世界中のコーチを代表する団体なわけでもありませんし、ICFと関係なく活動している素晴らしいコーチもたくさんいるわけです。
ちなみに10年以上前のことですが、当時のICFの会長が来日時に僕のコーチングトレーニングを見学してくれたことがあります。「とても素晴らしいクラスだ」との言葉をいただきましたが、僕自身はICFに所属していませんし、うちのスクールではICFの資格を出す予定もありません。僕たちは僕たちで探求したい世界があるからです。
コーチングに関しては誰が正しいとか何が正しいということはできないのだと思います。いろんなコーチングがあり、それぞれの価値や可能性があるのだと思うのです。
だから、繰り返しになりますが、どんなコーチングを自分が採用するかということが大切なのだと思います。
「傾聴しない」もあり
そもそも傾聴はカール・ロジャーズの発案です。ということは、臨床心理の世界では、ロジャーズの登場までは、存在しない概念だったわけです。ロジャーズ以前にもさまざまなアプローチが存在していて、それぞれが効果を生んでいたわけですから、傾聴しないというアプローチの意味も当然あるわけです。
傾聴しないことのメリットはあるのです。最初にあげた例の他にも「時間短縮」などもそうですね。コーチングの時間は限られているので、クライアントの話を聞き続けることよりも効果がある時間の使い方があるなら、そちらをすることにも意味があるのです。
なにしろ、古典的コーチングモデルであるGROWモデル自体が、あまり傾聴的でないモデルなわけです。
クライアントは何か相談したいことをもって、コーチのもとを訪れるわけです。でもGROWモデルだと、クライアントの相談事をあまり積極的に傾聴しません。
それは、冒頭で紹介したコーチが言うのと同じ理由です。現状や問題点に意識がいくと、ゴールが制約を受けるので、先にゴールを語らせたいのです。
そしてSMARTゴールなどのガイドラインがあるなら、ゴールがSMARTの要件を満たすように、コーチは質問を繰り返していくことになったりします
こうなると、あまり傾聴的とは言えないセッションになってきますね。別にそれでもいいのです。傾聴しなければいけないというルールがあるわけでもないわけですから、自由にやればいいのです。
ただしクライアントを選ぶことに
というような結論でした。こういう結論でももちろんいいのです。コーチは自分がいいと思うコーチングをすればいいわけですし、クライアントも自分が受けたいコーチングを採用すればいいわけです。
アクティブリスニング
とはいえ、思うこともあります。傾聴って誤解されることが多いよな。ということです。
傾聴っていう日本語訳が悪かったのかなとも思います。英語でいうとActive Listeningですね。だから積極的傾聴と訳すこともありますね。
少なからぬ人が、傾聴のことを「ただ聴くだけ」とイメージしています。それではActive ListeningでなくPassive Listeningですね。傾聴は能動的にするものなのです。
傾聴は聴くコミュニケーションではありません。引き出すコミュニケーションなのです。クライアントがまだ気づいてない「自分が本当に感じてるいること」を引き出すのが傾聴なのです。クライアントがまだ気づいていない「自分が本当に言いたかったこと」を引き出すのが傾聴なのです。
そのために本来の傾聴では、質問もたくさんしますし、クライアントに対して、こちら側の仮説も投げかけます。そうやって関わりながら、
・まだクライアントが話していないこと
・まだクライアントが気づいていないこと
を言語化するのが傾聴なのです。そう言った意味では、傾聴はしないほうがいい、というのは本当なのかな?という疑問が生じますね。
共感というワードもそうですが、誤解に基づいて語られている概念が多いのは残念なことです。コーチングカウンセリングにおける共感は「わかるよ」とか「そうだよね」と同意同調することではありません。
「わからない」ことを前提に、だからこそ、正確に相手の感じていることが知りたいと願って相手の話を注意深く聴いたり、相手に確認の質問を投げかけ続けることが共感(正確には共感的理解の姿勢)なのです。
ぼくは傾聴も共感もコーチングカウンセリングをするには、重要なコンセプトだと思いますし、スキル的にも重要であると思っています。
傾聴とコーチングを組み合わせるのは難しい?
とは言え、傾聴とコーチングを組み合わせるのはそう簡単ではありません。この両者は本来まったく別のコンセプトに基づいているとも言えるからです。
傾聴には短期的なゴールはありません。1回のセッションで何もゴールに辿り着かなくてもいいのです。自分の心の声を聴こうとすること、自己理解を深めようとすることが重要であり、生涯を通じてそのことを続けることを推奨するのが傾聴なのです。
だから、いつ、どこに辿り着くのかわからない話に耳を傾け、その話の奥にある、まだクライアント自身も気づいていない大切な何かに迫っていこうと関わり続けるプロセスが傾聴なのです。
だから本当に傾聴をしようと思うなら、何セッションでも何十セッションでも、その時々に気づきや変化があろうがなかろうが、淡々と続けていくようなものなのです。
一方コーチングでは、もっと短い時間で仮説を作りたがるのが普通です。1セッションの中で「何に向けて、どう動くのが良さそうか」に関する仮説をつくり、そこから新しい行動を起こしてもらう。そして、行動とその結果から学習・成長してもらいたい。それがコーチングの基本的な発想なわけです。
というわけで、ロジャーズの考えたような傾聴とコーチングは、かなり方向性が違うものとも言えるのです。
でも、僕も含めて、多くのコーチング指導者は、傾聴をコーチングの重要な一部だと思っているのです。それはなぜかというと「クライアントにとっては、質問に対して明確に答えることは難しいから」です。
クライアントは質問に対して理路整然と答えることが難しいのです。だから、クライアントの答えに対して、傾聴のスキルを使い、まだうまく表現されていないことを言語化していくことを助ける必要があるのです。
例えば、制約から自由になった未来を思い描いてもらい、それを言語化してもらおうとしても、クライアントはうまくそれをやれない場合が多いわけです。
そのときに、コーチ側に傾聴のスキルがあれば、クライアントがうまく表現しきれていないことを言語化していくことを手助けすることができるわけですね。
このような意味で、コーチングクエスチョンと傾聴のスキルを組み合わせて運用することには一定の意味があると考えているわけです。
自己受容と自己理解
傾聴をつくったカール・ロジャーズはいいます。傾聴のスキルよりも態度のほうが重要である。
傾聴の態度とは
のことです。
まずはコーチが一致していること。一致とは自分が感じていることを正確に認識していることです。
次に、コーチはクライアントをジャッジせずに、クライアントが何を言ってもやっても、無条件の肯定的関心の姿勢で接することです。心理的安全性もこれと関係しています。
最後に共感的理解です。クライアントのことをわかった気にならず、クライアントのことを、より正確に理解しようとし続ける姿勢のことです。
これらの3条件が揃った状態でクライアントに接するとクライアントは自然と変容を始めると言うのがロジャーズの主張なのです。
自分のことをジャッジしないで何でも受容的に関わってくれるコーチがいること。そしてそのコーチが自分のことをわかったつもりにならずに、しつこく理解を深めようとしてくれること。そのことによって、クライアントは自分のさまざまな側面を受け入れながら、その奥にある自分自身に対しての理解を深めていくのです。
そして、それを助けてくれたコーチは自分自身も同様の探究を続けた上で、自分の無意識のメッセージをしっかりと受け止めて、自分らしい人生を生きているのです。そのことに勇気を得たクライアントは「自分も自分の心の奥底が願っているような人生を生きたい!」と自然に思うのです。
そして、そのような自分との対話と気づきの実践を繰り返しながら生きることで、クライアントは自分の可能性を全開に生きるような自己実現の世界へと進んでいくのです。
傾聴は、コーチのスキルよりも態度(=関わり方)によって、クライアントの自己受容→自己理解→自己実現を促進していくプロセスなのです。
そのようなことも理解した上で、傾聴をする/しないを選択したらいいのではないかな、と思います。
よかったら参考にされてください。
今日はここまで
僕たちと人生を変えるコーチングを学び自分のものにしたい方はどうぞ
お気持ちありがとうございます。資料入手や実験などに活用して、発信に還元したいと思います。