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8 1/2

8 1/2を観た。
今このタイミングで観たのには大きな意味があるのではと思うほど、素晴らしい映画だった。

最近、職場の人、友達、家族。誰かと話してる時に、「こいつ何言ってんだ?」って自分自身に対して思うことがよくある。なんというか、意識はふわふわ宙に浮いてて、口だけ動いてる感じ。別に適当に嘘を並べてるわけではないんだけど、会話が終わって振り返った時に、なんか自分の思ってることと違うこと言っちゃった気がする…と考えてしまう。大体の場合そっから色々派生して、結局自分が一番言いたいことって、別にないんじゃね??と落ち着く。

本作の主人公は40代半ばの売れっ子映画監督。色んな俳優が役をくれ!って彼のところに来たり、マスコミとか批評家が彼の作品を勝手に分析して神格化したり貶したりする。それだけ注目を浴びてる監督。だけど、本人は新作のアイデアが全く降りてこないことに焦っている(焦りを通り越して落ち着いてるけど…)。プロデューサーには「SF映画を通して自分の中の真実を表現したい」と作品の大枠を話すも、肝心な自分の中の真実が全くないことに気がつき始める。

幼少期の思い出、過去の女、色々とアイデアに落とし込もうとするけどうまく形にできない。というか、それも全部今の自分が作った虚構であって、別に真実ではないのでは?と病んでいく。

疎遠になってた奥さんには「いつまで嘘をつき続ける気なの!?」とキレられ、「語ることないのに語ろうとして、そのくせ保険はかけたがるのダサいぞ」と続けて言われる。これは言われたら辛い。めちゃくちゃ刺さる。そこから彼は、「実際真実なんて何一つない自分に気づいちゃった自分」と「メディアやら仕事仲間、奥さんが作り上げる自分」の間で葛藤しまくる。

自分の作品が好き勝手考察されて、そこから「あいつは〇〇な奴だ」なんてイメージを作られる。実際自分はそんなつもりで作ったわけじゃないし、勝手な自分のイメージも受け入れられない。でもだからと言って確固たる自分のイメージがあるわけではない。幼少期の思い出ひとつ映画にできない自分が、SF映画を作ろうとしていて、その上奥さんに何も信じてもらえないのに、「自分の中の真実」をテーマにしようとしてるなんて…。こんな感じで監督は病んでいき、最終的に映画発表の記者会見のテーブルの下で銃を自分に向ける。

そこから色々と切り替わり最終的に、特大セットの上(このセットはSFのために作られたロケット発射台。このデカさが彼の二つのイメージの間の溝を表してるよう)から彼の人生に関わった人が全員降りてきて、彼と彼の奥さんと一緒に手を繋いで踊って終わる。

彼は散々葛藤した挙句、人生は嘘も真実も入り混じったパレードなんだと考えて過去を全て受け入れた。誰かが作る自分も、嘘と受け取られた真実も、真実になってしまった嘘も、全部自分がしたことなんだと。

冒頭の砂浜の浮く足から撮ったショットはあまりにも有名だが、あれはまさに最初に書いた自分の心情を表している。幽体離脱ほどは行かずとも、自分の真実はどこか自分から遠いところにある感覚。そんな遠いところに真実がある気がしてても、結局は自分の言うことすることが自分の全てなのかななんて思う。

すごく元気をもらえた。

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