東北仕事を振り返る 釜石編
釜石復興へのキックオフ。
2018年、岩手県釜石市「釜石鵜住居復興スタジアム」でのこけら落としイベントを振り返ります。
編集後記:懐かしく書いていたらとっても長くなりました。
ラグビーとの出会い
話は2015年に遡ります。大学を卒業しサッカーの指導現場で生計を立てていくことの難しさに直面し、悩み抜いた末に転職したスポーツに関連する人材を育成する専門学校でラグビーに出会いました。7人制ラグビー(セブンズ)の全日本チャンピオンを決める大会を学生の活動現場にするという取り組みが私のラグビー初現場です。当時は競技経験は勿論ながら、観戦経験もなく、大学同期にラグビー部は居たものの、ルールもボールを前方に投げてはいけないことしか知らないような「ド」がつく素人。そんな私がラグビーに心奪われかけがえのない経験をしたお話です。
東北でラグビー
初現場を経験したのち、私は生まれ育った東北であり故郷の隣県宮城県仙台市に転勤することとなりました。時を同じくして雇用先がJRFU(日本ラグビーフットボール協会)とのパートナーシップの上で産学連携活動を推進しており、転勤先の東北でもラグビーに携わる業務を担当することとなりました。しかし当時の東北にはトップカテゴリに所属するチームがなく、公式戦での活動機会は東北に所縁のある「NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(再編後の現:浦安D-Rocks)の1試合のみ。加えてプレシーズンに1試合という決して学生を頻繁に活動させる機会が担保された環境ではありませんでした。
限られた機会の中でも宮城県協会の皆様に多大なるサポートをいただき育成年代を含め複数回の活動機会を創出しました。他の種目現場にも参加する機会は勿論ありましたが、ラグビーの現場は終わった後の学生の表情、そして振り返りの質が非常に高く、学びの多い有意義な現場として大切に取り扱わせていただきました。これはまた別の機会に残します。
耳にするけど何もできない「復興」の2文字
私は、2011年未曾有の大災害当時は進学のために福岡に住んでいました。故に、直接的に震災を経験した立場にはありません。それでも18歳まで育った東北の地が、そして同じ場所で育ったかつての仲間たちが苦しむ声を幾度も耳にしてきました。その度に、20代前半の自分にできることもわからず、行動する勇気も出せず、中途半端な顔をしていたことをよく覚えています。
ようやく、自分が何かの形で仕事として貢献できるチャンスを手にしたのは2018年のことでした。翌2019年に自国開催のラグビーワールドカップを控えた日本では様々なスケジュールや機運情勢イベントが動き出し始めていました。初めての出会いから2年以上が経過した私は、すっかりラグビーの虜になり、大柄な選手たちが激しいコンタクトを繰り広げ、試合を終えれば笑顔で検討を讃えあう姿に心奪われていました。
オフを使って東北を代表するラグビーの聖地、岩手県釜石市まで車で向かい市役所をはじめとする各所の盛り上がりを楽しむほどののめり込みようです。
大友信彦さんとの出会い
引き続き宮城県そして東北でラグビーに携われる機会を模索していた中、当時、バイブルのように何度も読み返した「釜石の夢」の著者であり日本ラグビー界を代表するスポーツライター大友信彦さんが仙台での講演を行うことがわかり、業務を早々に切り上げ仙台駅の会場に向かいました。多くの方が大友さんの話を楽しみに聞き、様々な相談事をしている中で「宮城県、そして開催地である釜石で学生たちに現場経験を積ませたい。そのチャンス、可能性を教えてほしい」と相談をしました。今思い返せば挨拶も十分でなく、立場もわきまえない大変不躾な相談であったにもかかわらず大友さんは嫌な顔ひとつせずお話を聞いてくださいました。「改めて一緒に考えてみましょう」という言葉を受け、東京で再度面会の機会をいただきます。
今こうして企画やプロモーションという仕事をしている立場になってよくわかりますが、この時の自分にあったのは「想いと馬力だけ」でした。どんな機会が欲しいのかの言語化もできておらず、相手にとって役に立てるポイントも見極められていない、ただ機会を作りたい。必ず学生にとってかけがえのない経験になるというどこからともなく沸いた不思議な勇気と共に。
大友さんとのお話の中で出会った一つ目のチャンスは、プレシーズンでのNTTコミュニケーションズと釜石シーウェイブスのゲーム「ラグビーフェスティバルinSENDAI」におけるパレードイベントです。後に、宮城県協会の皆様にもお願いし、試合運営に寄ったセクションでも機会をいただき結果としてイベントへは多くの角度から携わることができました。
北の鉄人 石山次郎さんとの出会い
前述したイベントで大友さんのご紹介により出会ったのが、W杯を釜石に誘致したいと動いたその中心にいた石山次郎さんでした。新日鐵釜石でV7を成し遂げた釜石ラグビー界のレジェンド石山さん、またしてもわきまえずにただひたすらに釜石での学生の活動機会を作りたいとお伝えしていたことをよく覚えています。日を改めて釜石で面会の機会をいただきました。(大阪出張から翌日始発の飛行機で岩手に飛んで行ったことをよく覚えています)
勢い任せの若者を関係者に紹介いただいたり、誘致に至る経緯、なぜ釜石で開催する必要があるのか、中心で動いてきた石山さんの言葉を聞けたことで、初めて「復興」の本当の意味を理解したように思います。想いが人を突き動かす。
舞い込んだこけら落としイベントのチャンス
石山さんとの面会から数ヶ月が経過した時、JRFUから一本の連絡が舞い込みました。「8月に鵜住居のこけら落としイベントをやるから、学生さんと一緒に参加できませんか?」テイクバックしながら今か今かとチャンスを待ち構えていた私は迷うことなく、即答で参加意思を表明しました。
迎えた8月19日、2015年のW杯で日本中を感動の渦に巻き込んだ五郎丸選手擁するヤマハ発動機ジュビロを釜石シーウェイブスが迎える形となりました。
会場には6,500人の観衆。平原綾香さんによる「Jupiter」の歌唱やEXILE ÜSAさんTETSUYAさん率いるRising Sunプロジェクトのパフォーマンスでこのイベントにかける想いがスタジアムに充満します。
中でも私の記憶に強く残っているのは、釜石高校2年生(当時)の洞口さんによるキックオフ宣言。
ふんわりと理解していた「復興」の言葉の意味について、当日までの大友さん、石山さんはじめ多くの方との会話の中で少しずつ理解を深め、当日このキックオフ宣言を聴いて、全身に染み渡る感覚がありました。
大好きな街で、大好きな家族・仲間と過ごしていた日常を一瞬で呑み込んでしまった震災。帰ってきて欲しいと願っても帰ってこない日常に何度も苦しく辛い時間が存在したことと思います。それでも、大観衆を前に「感謝」という言葉を届けられる強さ、復興とは何なのかを心で見つめることができました。
私が引率した学生も皆、震災当時東北に住み、当たり前の毎日が一瞬で目の前からなくなった辛い経験を持つ子たちでした。彼ら、彼女らにとっても「スポーツに関わること」そして「東北が立ち上がること」をリアルに感じられた機会になったことはいうまでもありません。
試合は大観衆に見守られ、激しいコンタクトのたびに湧き上がるどよめき、トライが近づくに連れ盛り上がる会場のボルテージ。トライ後に会場に響き渡る歓声、そしてスタンドで圧倒的な存在感を発揮するフライ旗。「たくさんのありがとう。そしてこれからに向かっていくこの街にはラグビーが必要だ」そんなメッセージを会場全体が発し続ける日となりました。
石山さんをはじめ、釜石のレジェンドたちによる特別試合も含め盛りだくさんの1日を終え、各所のイベントサポートをした身体は本来であれば疲弊しているはずでしたが、言葉にできない充実感と、この地でW杯が開かれ世界に東北を轟かせる将来への高揚感で満ちていたことを思い出します。
準備期間から当日まで、組織に所属する中で必要な配慮も気遣いも欠けてしまうほど、ただひたすらに釜石の復興に携わりたい一心で活動してきたことを大きな心で許し、見守り、時に力を貸してくれた上長には今も感謝が尽きません。
こうして、私の大切な東北仕事の記憶に大きな1ページを刻むことができました。
2019年、W杯本番の開催地となった釜石市、私は組織の命を受けて勤務地を東京に移していましたが、釜石の開催が気になって仕方がなく、遠くからではありますが、様子を追っていました。
予選プール2試合が当たっていた中、2試合目のナミビア-カナダ戦は台風の影響で中止となりました。「また自然災害か」多くの方が落胆し、肩を落とす中で台風一過の晴天に変わった会場の周辺を彩ったのは、南三陸の大漁旗「フライ旗」でした。一般社団法人フライキプロジェクトによるサポートで試合を盛り上げるはずだったフライ旗が中止のはずの会場で大量(いや大漁)に振られていたと後日談で聞きました。「もう大丈夫、釜石は負けない」そんなメッセージのこもった一幕だったのだと思います。
また、試合が中止になったカナダ代表が台風による倒木や土砂崩れの清掃作業を行なっていたことなども話題になりました。世界に届いた東北・釜石の想い。試合が行われなかったことは残念に違いありませんが、それでも開催地として釜石でしか果たせない役割を担っていたことがよくわかりました。
こけら落としから早6年が過ぎ、当時とは所属組織も変わった私ですがスポーツの現場に立つ機会や、東北に関わる機会にいつも思い出すのは当時の景色です。かけがえのない経験というのは、まさにこのような機会を指すのだろう。そう思います。これから先も自分の大切な思い出であり、自慢の仕事です。
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