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100m先まで歩けた日
脊髄梗塞を発症して五ヶ月入院した母は
退院前日に院内感染で陽性となり、心身不調のまま退院した。
先日入院していた病院に行った際
「退院頃くらいまで体力は戻っている。」と担当医に言われたらしい。
退院してから徐々に体力は戻りつつあるが
体調は波があるし
メンタルも弱くなってしまい
担当医からそう言われるまで
母本人も家族も実感はわかなかった。
ただ、確かに退院してからはよく座ると尾てい骨が当たって痛いと言っていたが最近は言わないし
家でほとんど過ごしていた母が
庭を散歩できるようにはなった。
退院して三ヶ月が経ち、母は訪問リハの日に家から100m離れたお店に買い物に行ったらしい。
歩行器を使い、信号を渡って行ったようだ。
退院してから歩行器を使い、そんなに歩いたのは初めてだ。
そこでブドウや白菜等を買ったらしい。
「あそこまで歩いたの!?すごいね!」
私は素直に感動した。
だが、その話をお母さんが私にしている時、父がキレた。
父「訪問リハなんかの人に、ブドウをあげやがって。あんな人にあげるなら、俺に買えよ。」
母「家族にも一房買ってきたから食べていいよ。」
父「ブドウいくらだと思ってるんだ!俺は家族のために買い物に行ったって自分のものは一切買わないのに!」
母「好きなものを買っていいっていつも言ってるじゃん。」
父「もったいないから買わないよ!」
怒った父は怒鳴るだけ怒鳴って去って行った。
多分父は労ってほしかったのだろう。
いつもありがとう、と言ってはいるが
今以上に感謝してほしいのだろう。
訪問リハと家族に同額のブドウを渡したのが気に入らないのだろう。
父のためだけに何かを買ってきたらまたちがかったのだろう。
「お父さんが白菜で鍋が食べたいと言うから白菜を買ってきたのに。」とお母さんが言っても
怒り狂った父の耳には入らない。
父が仕事を辞め(正確には介護休暇だが)、母も仕事を辞め(正確には病気により休職だが)、収入が減り
父がお金を節約している中
300円のブドウを振る舞ったのが気に入らないのだろう。
確かに大盤振る舞いすぎるような気がする。
お母さんは訪問リハの人にいつも飲み物やお菓子を振る舞っているが
私もそんなに気を遣わないで大丈夫だと言っているし
なんならそのふるまう飲み物やお菓子を買わなきゃいけないのは私や父だから
私も苦言を呈したことは何度かある。
「毎回同じお菓子を渡すわけにはいかないし。」
と言われ
わざわざ何種類も用意しているのは私や父だ。
だが、母からしたら普段からお世話になっている人だし
久々の家族以外との買い物だし(10ヶ月ぶりくらいか)
初めての歩行器での買い物だし
嬉しくなって買い物をする気持ちも、訪問リハの人にプレゼントする気持ちも分からないでもないのだ。
母が入院してから、そして退院してから
私も父も怒鳴る回数が増えた。
怒鳴っていると自己嫌悪するが、苛々が止まらない。
母は入院してから泣く回数が増えた。
「こんな体にさえならなければ。」
「脊髄梗塞にならなければ。」
そう、静かに泣く。
お互いの気持ちが分かる。
それでいて、優しくなれない日がある。
父が寝た後、「次はお父さんに見つからないように訪問リハの人にプレゼント渡しなよ。」とアドバイスした。
父は嫉妬深く、器が小さい。
100m先のお店に行って帰ってこれたものの
母は体のあちこちが痛み、湿布を貼り、グッタリしたようだ。
焦らず、少しずつ慣らしていかないとな。