楽な恋愛
私は二人姉妹だが、近所にいとこ姉弟が住んでいて、小さい頃からよく四人で過ごした。
二人姉妹だが、四人きょうだいの末っ子のような気分になる時がある。
従兄弟のにーちゃんは私に優しかった。
漫画やゲーム、アニメ、音楽といった趣味を布教したのはにーちゃんだったし
料理が得意だったので、料理を作ってもらったりもした。
会えば、色々な話をしたりもした。
我が家の家系は、女性はことごとくモテない。
容姿が恵まれておらず、性格的にも男ウケするタイプではないからだ。
しかし、男性はモテた。早い内から彼女がいた。
容姿が恵まれていなくても、優しい人が多かったからだ。
私も男だったら、今頃本家を継げていたのではないかと
何度思ったか分からない。
この、仲の良いにーちゃんもモテた。
優しくて本当に面倒見がよくて
私は父親か従兄弟のにーちゃんのような人と付き合いたいと願うほど
従兄弟が好きだった。
私が中高生くらいの時に、年上の従兄弟からこう言われた。
「100%好きじゃなくたって、付き合いたいって気持ちがあるなら付き合ってみてもいいんだよ。付き合っていくうちに相手を知ったり、気持ちが深まることもあるんだよ。」
「二人っきりでデート三回できたら、脈ありとみなしていい。だから三回デートしたら、俺は告白するようにしている。」
まだ彼氏がいない私には、分かるようで分からなかった。
好きだから付き合うものだし、好きだからデートしたくもなるし
愛されるより愛したいじゃないか。
「いつか分かる時が来るよ。」と従兄弟は笑ったが
確かに私はそれを
言われてから10年後くらいに実感することになる。
婚約破棄されて、婚活をしていたアラサーの時だ。
私は飽きてきた。
所謂回転寿司と呼ばれる婚活パーティーの流れ作業的なお決まりの自己紹介や
当たり障りのないフリートークや
若くて容姿に恵まれた女性がモテている様子を見ることに
段々と疲れていた。
なんだってわざわざ休日に、お金と時間をかけて
こんなことをやらなきゃいけないのだろう。
婚活に参加したことがない友人に、婚活パーティーの仕組みを話すと
大抵「うわっヤダッ!」と引いていた。
「いいなぁいいなぁ行きたーい!」と言う人は、全くいなかった。
行きたくて行くわけではなく、日常生活を送るだけでは出会いがないから行く。
それが婚活だ。
年齢=彼氏いない歴の友人は大抵「私は人見知りしちゃうし、本当無理…」と言い
彼氏がいる友人は、婚活に参加しなくても学生時代や会社で相手を見つけていたので「そんな世界があるんだね…」と他人事だ。
結婚している友人も同様の反応だ。
婚活は婚活に参加したことがある人ではないと、分かり合えない苦労が多々ある。
断言してもいいが、婚活して三ヶ月以内に上手くいった人はいない。
皆さん、こういった状況が何年も続いているし
適齢期で結婚していなかったり、恋人がいない人は社会からまともじゃない扱いを受けるので
婚活をしている事実は隠して生活しがちだ。
彼氏が過去にいたことがあり、だけど今はフリーで
婚活で頑張って、結婚をしたい。
もしくは
結婚したい気持ちがあるが、家と職場の往復で出会いがないし、とりあえず参加してみた。
会場にいた8割以上の女性は、私と同じような立場で
同志だった。
見知らぬ人なのに、分かち合えるような気がした。
婚活パーティーに飽きてきた……もとい、成果が出なかったからモチベーションが低下してきた私は
変わり種の婚活パーティーにも手を出すようになった。
ちょうど婚活が流行りだした為、企業や地域も様々な企画をしていた。
バスツアー婚活という、噂では成功率が高い婚活もあるが
車酔いがひどいと話にならないので、車に弱い私はこちらに参加したことはない。
スイーツ食べ放題婚活、アニメ漫画婚活、謎解き婚活、イチゴ摘み婚活、料理婚活……と
話のネタに困らない程
様々な婚活パーティーに参加した。
そんな中参加した、アロマ婚活について
今日は書いていこうと思う。
アロマ婚活パーティーは、某お店を貸しきって行われた。
対象年齢は23~33歳くらいだったかな。
私は何度も婚活したので分かったが、例えば対象年齢がこのように10歳の幅があった場合でも、参加者の年齢は
均等に分かれない
ということをお伝えしたい。
大抵女性は、参加条件年齢の最低基準値+2歳くらいの方が1/3を占める。
つまりこの場合、23~25歳の方が多く、アラサーは不利になる。
前回の記事でも書いたが、婚活において女性は、年齢と容姿でほとんど勝負が決まってしまう。
「人によって好みは違う。」と言うかもしれないが
会って間もなく、かつ異性と一度に20人位と出会えるならば
容姿が恵まれ、若い子が有利なのは仕方ないのだ。
しかも人気は、偏る。
間違いなく、偏る。
学生時代を思い出してほしい。
クラスに30~40人いても、モテる人はほんの一握り。
婚活パーティーも、それが露骨に出る。
婚活パーティー途中で、人気順位が出たり、誰が自分に興味を示しているかが、プリントアウトして渡されるからだ。
それを渡された上で、フリートーク中に別の女性に男性が群がり、ちょっと気になる人が別の女性にアプローチしているのを
見せつけられるのである。
そしてパーティーが終わったら、特に興味がない人に出待ちされる場合もあるという…
本当に、婚活はやればやるほど、疲れるし、自信をなくす。
さて、話を戻そう。
そんな婚活パーティー事情だが、アロマが絡むと、まぁ行ってもいいかな?という気分になる。
イベント紹介文には「あなた好みのアロマスプレーを作りましょう。パーティー最後にプレゼント」だかなんだか書いてあった。
以前、学校のイベントや友人の家でアロマスプレーを作ったことがあり
私はアロマに興味があった。
私はベルガモットやオレンジの匂いが好きだった。柑橘系がとにかく好きらしい。
まず、受付を済ませると、番号札をつけて
タロット占い師に占いをしてもらった。
アロマ+占いがウリの婚活パーティーだった。
「何を占ってほしい?」
と、言われ、婚活パーティーなのに、仕事について占ってもらったアホはこの私だ。
占いが終わった後は、周りの方とフリートークをしながら、たくさん並んだアロマの匂いを嗅ぎ、自分好みの香料を選んだ。
そう、アロマ婚活では、回転寿司スタイルやプロフィールカードを重視しないスタイルで
気楽に色んな人と話しやすいところがよかったのだ。
私はそこで、男性二人組と仲良くなった。
一人は私と同業者の福祉職のイケメンで
もう一人は真面目そうな建築士の方だった。
通常の婚活パーティーと異なり
カップリング成立しなくても、自由に連絡先を交換して良いシステムだったので
私は二人に連絡先を渡した。
福祉の方はメールが絵文字や小文字、ギャル文字だらけで
多少やり取りをして終わった。
私は絵文字や小文字をやたらと使う、多用使いの方が苦手だった。
一方、建築士の方は絵文字が全くなかった。
私はそこに好印象を抱いた。
私は絵文字を全く使わないか、多少絵文字を使うくらいの方が好みだからだ。
会って話した時は、福祉の方の方が親しみを感じたが
メールのやりとりでは、建築士の方の方が好印象だった。
まぁよくある話だ。
以下、建築士の方はアロマさんと呼ばせていただく。
アロマさんと私は同い年で、しかも家がめちゃくちゃ近かった。
同じスーパーで買い物しているくらい近かった。
驚いた。
婚活パーティーでこんなに近場の方と知り合ったのは初めてだ。
何回かメールのやり取りをした後
私はデートに誘われた。
お洒落なカフェで、建物も素敵だったし、料理も美味しかった。
二人で会い、話すのは初めてだったが
私達は閉店で閉め出されるまで話をしていた。
正直、私は驚いた。
婚活パーティーで知り合った時よりメールより
二人きりで会った時の方が好印象だったからだ。
清潔感のあるキレイめカジュアルな服も良かったし
会話も一方的ではなく
様々な話をしたり、聞いたりしたと思う。
想像以上に楽しい夜だった。
「また近いうちにお会いしましょう。」と、アロマさんは言った。
もしかしてもしかして…アロマさんと付き合うのか?
アロマさんが運命の人か?
私は久々に、手応えを感じた。
婚活パーティーにおいて、連絡先交換に至るまではハードルが高く
連絡先交換してから一ヶ月以上やり取りをするのは更にハードルが高く
一回目のデートをするのは更に更にハードルが高く
二回目のデートには、まず辿り着けない。
婚活はこれが当たり前だった。
自然消滅が非常に多い。
知り合って間もない状態で職業や結婚観をさらけ出すのが婚活のため
その人の性格うんぬんより「結婚相手として相応しいか否か」という条件で
人の善し悪しを判断した。
私はそもそも人を本気で好きになるまでに、出会ってから半年かかる。
そんな私が、すぐに誰かを好きになるわけはなかった。
ただ、周りの友人と話をしていると
私は人に対して関心が強い。
「ちょっと気になる」「いい人」と感じるストライクゾーンが
周りの友人の中で、一番広いらしかった。
ストライクゾーンは広いが
本気で人を好きになるまではかなり時間がかかる。
私はそういった面倒な女で
短期決戦向きな婚活には非常に不向きだった。
まして、「次に付き合う人とは結婚したい!」と強く思っていた為
転勤族だとか、遠方に住んでいるとか、非正社員といった人は
ちょっと気になっても、連絡先交換はしなかったし、仮にしても、私から打ち切ってしまった。
そういった意味で、近場に住んでいたアロマさんは条件が良かった。
収入も高く、ご家族の経済面も安心そうだった。
年齢も近く、家も近く、結婚してからも実家に行き来しやすい。
浮気をしなさそうな真面目さや、初デートにチョイスしたお店のセンス、話術等
また次回も会ってもいいと思えるような人だった。
「また近いうちにお会いしましょう。」と言って別れたわけだが
本当にまた次のデートを誘われた時は驚いた。
婚活パーティーで知り合った人の「またね。」ほど宛てにならないものはない。
お互いに大人だし、社交辞令であることは非常に多い。
「二回目のデートの誘い!?それ、いけるんじゃない!?」
婚活同盟の友人に、私は途中経過を報告をした。
「いいじゃん、いいじゃん。話聞いていても、いい感じだと思うよ~頑張れ☆」
友人に話した時、私は確かに前向きだったのだ。
明るい未来が見えた
…………………気がした。
そんなに、人生は、簡単に上手くいかない。
二回目のデートはカラオケだった。
お互いにカラオケが趣味だった。
その人を知る為には、色々な場所でどんな反応か見た方が今後のために良い。
一緒に夕飯は問題なかった。さて、カラオケはどうだろうか。
部屋が空いてないとかで、二人きりなのにパーティールームに通された。
パーティールームである。
ふ、二人きりでパーティールーム………。
少し微妙だが、まぁいい。
途中まではそれでもまぁまぁ楽しかったが、いきなりアロマさんは立ち上がり、上着を脱いだ。
「本気出しますよ!」
そうしてアロマさんは本気で
魔王
を歌った。
あの、音楽の教科書に載っている「魔王」である。
熱唱とはこういうことを言うのだろう。
ドイツ語か英語バージョン……だったかな?台詞は日本語だったかな?
そこあたりは定かではないが、自信満々に間違うことなくなりきって歌っていた。
アロマさんはもはや魔王さんだ。
私は顔を引きつらせた。
いや、確かに魔王好きだよ。授業で知った時は衝撃だったよ。
たださぁ…たださぁ………
数時間のカラオケの間、魔王だけ熱量が半端ないんですけど!!
その歌い方はまさにガチだった。
魔王の後は再び上着を着て、座って歌っていた。
魔王さんから、アロマさんに戻ったのだ。
魔王が得意曲の一つならまだしも
魔王が十八番というのはどうなんだろう………?
私は二回目のデートで、気持ちが下降した自分に気づいた。
更に、二回のデートとも、一円単位で割り勘なのも引っ掛かった。
男性が絶対に驕るべき!とは私は思わないが
婚活においては初回は驕るのがマナーだった。
それが、二回目においては一円単位までキッチリ…。
うーん……
と唸った。
いやだが、まだ、これだけで判断はいかん。
悪い人じゃないのだし、従兄弟が言うように、あと一回デートしてみて決めよう。
条件だっていいし。
そう、私は二回目のデートで悪い予感はしていた。
そして予感や直感は大抵外れない。
アラサー婚活の身であった為、私は自分の本音を見て見ぬ振りをした。
3回目のデートは映画に行った。
すごく、全うだと思った。
一緒に夕飯を食べ、カラオケに行き、映画。
すごくベタで、まともで、順調な付き合いに見えた。
相手は真面目で、手を握ったり、告白もなかった。
友達ではなく、好きな人でもなく、お互いに見定めている、婚活相手でしかなかった。
映画は相手の希望でアニメ映画だった。
魔王と言い、アニメ映画と言い、ちょっと飛ばしすぎだと思った。
確かに私もアニメは好きだが、最初はもうちょっとこう、ムードがある映画とかさぁ………ねぇ?と思ったが
まぁ映画のチョイスでも
その人の性格があらわれるのでよい。
ただ、その映画がいまいちで
天気が雨だったことがよろしくなかった。
映画の後、私は軽くテンションが下がった。
相手の歩くスピードが早く、駐車場は遠く、せっかくお洒落してきても
洋服や足元が濡れてしまった。
相手はそれに気づかなかった。
だが、それでも私はまだ、「今すぐ帰る。」というレベルではなかった。
婚活で知り合い、付き合っていない状態で3回目のデートまでいったのはアロマさんが初めてだからだ。
映画の後は夕飯の予定だったし、そこでまた見極めようと無理をしていた。
……自分でも分かっていた。
3回目のデートは、無理をしていた。
夕飯を食べながら、会話をしていた時に、恋バナになった。
アロマさんは年齢=彼女いない歴の人だった。
私は何故かあまり恋愛経験のない方にモテたし、恋愛経験のあるなしはそんなに気にしなかった。
ただ、「アロマさんも恋愛経験ない方か……私は本当、あまり恋愛経験ない方にウケがいいな」と思った。
かつ
やはりな、とも思った。
付き合い経験のあるなしは、デートしている時の様子で伝わるものだ。
「でも、両想いになった子はいたんですよ。」
アロマさんは昔の恋の話をした。
大学四年生の時、同じ研究室の人と仲良くなった。
そしてその子からクリスマスデートを誘われた。
卒業研究があるから断り、卒業研究が終わるまで連絡をしなかったら、連絡をした時には既に別の人と付き合いだしていたという話だった。
私はそれを聞きながら、内心、そりゃ他の人と付き合うだろう…と思った。
付き合ってはいないが両想い状態の時に、勇気出してクリスマスデート誘って断られたら、実質フラれたようなものだし、連絡途絶えたらアウトだ。
振る口実に「今○○忙しくて」は常套句だ。
例え、本当に忙しいにしても、完全な放置プレイは人を諦めさせる。
恋に積極的なタイプじゃないと、女性からはクリスマスにデートを誘わない。
恋に積極的というのは、間違いなく出会いを呼び寄せる。
「だから僕は、もう本気の恋愛はしないと決めました。楽な恋愛がいい。傷つきたくないんです。あなたとならそれができそうだ。」
………………ん?
私は一瞬、耳を疑った。
楽な恋愛。
楽な恋愛。
楽な恋愛。
……そりゃ、私だって、本気で好きなわけではない。
所詮婚活で知り合った仲だ。
お互いに打算もあるだろうし、恋愛がしたいというよりも、結婚相手としてどうかを見極める為にデートをしていた。
言わんとしてることは分かる。
恋愛にだって色んな形がある。
燃えるような恋もあるし、一緒にいて落ち着く恋もある。
それは私だって、分かっている。
だが、楽………ってなんだ?
楽しいじゃなくて、楽ってなんだ?
私はその言葉にひどく傷ついたし、悲しみも怒りも感じたし、その一言で「あ………ないわ。」と、完全に迷いを断ち切った。
私は適当に相づちし、ご飯を食べ終わったので帰ることにした。
告白めいたことを言ってきたが、「付き合おう」も「好き」もなかったのは、かえって気が楽だった。
最後まで割り勘なのもちょうどいい。
借りを作りたくなかった。
正式にお付き合いを求められていないなら、私が正直なことを伝える義務も義理もない。
その後もデートに誘われたが、「今、仕事忙しいんで、またの機会に。」と伝えたら、そのまま引いた。
多分、両想いの方ともこんな感じだったのだろう。
だから失敗したのだろう。
いかんよ。
手放したくない恋愛は、攻めないと。
連絡はほどよくして、好意があることをアピールしないと。
そのまま自然消滅したり、他の誰かにとられちゃうよ。
そう思ったが、自然消滅を狙っていたので、私は余計なことは何も言わなかった。
その後も、一年に一回のペースで忘れた頃にデートに申し込まれた。
タフだ。
告白はしないが、デートには年一ペースで誘うとはタフだ。ただし、愚かだ。
私はそのたびに、仕事の忙しさを理由に断った。
相手はそのたびにあっさり引き下がり
また次の年に連絡があった。
どうやらまだ彼女ができたり、結婚はできていないのだろう。
私は私で結婚に至らない恋愛や出会いと別れを繰り返していたので
偉そうなことは何も言えなかった。
そして数年後、連絡は途切れた。
楽な恋愛ってなんだろう。
私はそんな恋愛、1度もしたことがない。
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