「まだ若いのに。」
お母さんは10月からリハビリのためデイサービスに通うようになった。
その際、周りの利用者に「まだ若いのにね。」と言われるのが辛いと自宅で泣いていた。
確かに、デイサービスは70代以上の方が通うことが多く、60代で利用する母は若い方なのだろう。
私がかつて勤めていた障害者施設は10~70代の利用者がいた。
40代~で脳梗塞等を発症した人は障害者施設を利用しやすかった。介護保険の関係だ。
やはり、高齢者のデイサービスは40~60代の障害者は若手に入り、周りと合わないらしい。
それこそお母さんがもしも50代で発症していたら、行くべきは障害者施設だった。
軽作業もできただろう。
だが、60代後半となると、やはり管轄は高齢福祉なのだ。
障害者施設契約で60代後半では年配過ぎる。
どちらつかずのお母さんがかわいそうだった。
先日、お母さんと外をリハビリがてら散歩していた。
すると見知らぬ人から声をかけられた。
観光に来たらしいが、道に迷ったらしい。
「見たところ、俺より若いのに。病気かい?まだ若いのに大変だね。」
その人から何度も言われ、私は内心カチンときた。
見ず知らずの他人が何も知らないくせにうるさい。
退院直後は外にだって出られなかった。
庭以外を歩けるようになったのも先週からだ。
退院してから、ちょっとずつできることは増えてるんだよ。
「今はリハビリ中なんですよ。」
お母さんは弱々しく笑いながら言った。
「早く治るといいね。」
その人はそう言いながら立ち去った。
お母さんより10歳くらい年上だろうか。
今から夫婦で観光とは羨ましい。
お母さんは脊髄梗塞を発症してから
病院や美容院、銀行、デイにばかり出掛けていて
スーパーさえろくに行けていない。
脊髄梗塞にならなければ
お母さんもお父さんと毎月のように旅行に行っていたのに。
私が見知らぬ人に言われただけで不快なのだから
お母さんはより悲しい気持ちになるだろう。
“まだ60代なのに”
と、一番思うのは他ならぬお母さんだ。
今は100歳以上生きる人もいる時代だ。
60代はまだ若い。
なんなら70代でもまだ若い。
80代で病気になったり、亡くなったら、「まぁ80代だしな。」と周りは思うだろう。
お母さんはこの先の人生、「まだ若いのに。」という言葉や概念と戦わなければいけない。
お母さんのこの先の人生、少しでも傷が少ない人生ならいいのに。