入院54日目:タイミング
昨日残業後色々買い物をした帰り、LINEが鳴る。
「明日、ジュース持ってきて。」
お母さんからだ。
10分前ならば、お店にいたのに。タイミングが悪い。
翌日、歯医者や病院に通院した後にドラッグストアに寄った。
お母さんに頼まれたジュースを買うためだ。
お母さんリクエストのものはコンビニには売っていない。
ジュースは多めに買った。
どうせ後日また持ってきてと言われるだろう。
ドラッグストアを出た後、またもLINEが鳴る。
自宅からエコバッグを持ってきてほしいことや柿の種を持ってきてほしいことが書かれていた。
お母さんからだ。
…何故二日連続、お店を出たら連絡が入るのだ。
ハァ、とため息を吐く。
あちこちに寄った後、前の職場の元主任に会う。
母のことや私の体調のことなどを親身に話を聞いてくれた。ありがたかった。
元主任から「玄関段差が16㎝なら、足が上がらなくても車椅子で乗り降りできるわよ。ただ、玄関が汚れたり傷つきやすいから、お風呂マット敷くといいわよ。」と実に素晴らしい助言をいただく。
退院後の状態次第ではお風呂マットを敷こう。
元主任と話が盛り上がり、お昼を食べ逃す。
柿の種を買い、アイスを食べた後は急いでお母さんの面会へ。
病院に着いたのは約束5分前。
荷物を持って足早に院内を移動し、エレベーターで上へ上がる。
ベッドにお母さんはいなかった。
メモを見ると、10分前にリハビリは終わっているはずだが、トイレだろうか。
持ってきた荷物を片付けたり、持ち帰る荷物をまとめてお母さんを待った。
待つこと10分。
「1、2」
「1、2」
聞き覚えのある大きな声がどんどん病室に近づいてくる。
お母さんだ。
お母さんは足に装具をつけて、病院の方とスタスタ歩いてきた。
以前お父さんから「装具での歩き方はぎこちなく、歩くというより後ろから無理矢理押されて歩かされている。」と聞いていたが、だいぶ話が違う。
一ヵ月前の話だから、リハビリによりここまで回復したのだろうか。
話によると、一階のリハビリルームから歩いてエレベーターに乗り、上の階まで来て、そこから病室まで歩いてきたらしい。
距離は50m以上あるだろうか。
それはすごい。
お母さんはベッドに腰掛け、補装具を外した。
ロックがかかっていた。なかなかにしっかりした作りだ。
お母さんには夢中になって今日あった嬉しいことを話した。
今日は数年越しの夢が叶った日だった。
お母さんからは、職場に入った新人さんはどうなのかと聞かれ、「悪い人ではないが受け身」「厳しいというより朗らかな人」と伝えた。
「受け身な人には仕事をふりやすい。具体的に仕事をふればいい。気が強くて仕事ができる新人より、受け身な人のが仕事はやりやすい。」と言われる。確かにそうかもしれない。
面会時間は30分だが、今日は一時間くらい話せた。
病院はしっかりとは時間をはかっていない。
お母さんの近況や私の近況を色々伝えられて嬉しかった。
お母さんに、一日早い母の日のプレゼントを渡す。
お母さんは明日が母の日だと忘れていた。
本と焼き菓子のセットだ。
お母さんは喜んで写真を撮っていた。
前に母の日のプレゼントで渡した立体カードも、何年経っても部屋に飾ってある。
「花の写真が一番嬉しい。」
「お菓子も日持ちするのが嬉しい。」
想像以上に喜んでいたので、あげたかいがあった。よかった。