公私共に晴れ男
私の父は晴れ男だ。
お金で買えない才能、生まれ持った才能と言っていい。
勉強しても修業しても徳を積んでも晴れ女や晴れ男にはなれないだろう。
恵みの雨というように雨の日も大切だ。作物や生き物は雨なくして育たない。
だが、運動会や試合、遠足、デート、お出かけの日に晴れるかどうかは大きくモチベーションに関わる。
「明日晴れますように。」と願ったことがない人は恐らくいないだろう。
天気ばかりは仕方ない。どうすることもできない。
そんな時に父の晴れ男パワーを見せつけられると、途端に奇跡の物語になる。
父は晴れ男だが、他の家族は至って凡人だからだ。
晴れ男とはいっても、父の話を聞いたり、行動パターンを見ているといくつか法則が見えてくる。
①必ずしも晴れとは限らず、過ごしやすい適温にする融通性がある。
②公私共に晴れ男パワーを発揮する。
③パワーを発揮しても、晴れる範囲は限られている。
そう、父のすごいところは①だ。
ただ晴れにするわけではない。あまり暑すぎると野外活動が長い時はバテてしまう。
野外活動時間が長い日は晴れ時々曇りにしてくれるのだ。
例えば一日中雨予報の場合の例だ。
父が同行する場合、観光中は曇り、写真撮影時は晴れ、そしてバス移動中は雨といった具合に、雨を降らせてもいい時は降らせる。
晴れ男とはいっても、映画「天気の子」のようにどしゃ降り→晴れ、なんて神業は毎度毎度使えはしない。毎度ではないというのは、使える場合もあるからだ。
バスや電車や車に乗っている時は雨だが、父が降りると止むのだ。
だからもしかしたら父の晴れ男パワーは乗り物に乗っていると効力が弱まるのかもしれない。
職場でも晴れ男として実績を重ねていると聞いた時は驚いた(②)。
晴れ男っぷりは職場でも知れ渡っているらしく、父を同行させると晴れる(もしくは曇り)ということは有名だったらしい。
職場を異動しても効力は続き、やがて噂は知れ渡るというらしかったから、公私共に晴れ男だったのだろう。
いい仕事をしてくれる。これは臨時ボーナスものじゃなかろうか。
「いやぁ今回も助かったよ~アッハッハ。」なんて言葉だけで済ませてもらっちゃ困るよ、上司様。
晴れで有利になった仕事もあるでしょうな。
……とは言えない。娘が思いはしても、こうして書きはしても。
だって仕事だもの。仕事とはそういうものだもの。
非科学的なものにお金は払えない。証拠もない。そして何より父は臨時ボーナスなんか(晴れ男という面においては)期待していない。
晴れてほしい日にはてるてる坊主をぶら下げるより父を同行させる。これが鉄則で確実性がある。
③について。
父の晴れ男パワーは日本や県全域や市全域までは及ばないようだ。
天照大御神や松岡修造や天気の子と比べたら、父の晴れ男レベルはまだまだなのだろう。
父を中心として半径5km程度(以内?以上?)だろうか。
それ以外の地域では天気予報通りに雨が降る。
だから晴れてほしい行事や場所の近くまで父を連れて行かなければ効力は弱いらしい。
③をつくづく実感したのは今から約5年前のことだ。
地底湖ツアーというものに母と二人で申し込んだ。
父や友人が既に参加していて、大絶賛だったからだ。
話によると大人気ですぐ予約が埋まる上、人数はごく少人数のツアーらしかった。値段も割と高い。
たまたま予約がとれたその日は、朝は曇りだった。まぁ暑いよりはいい。
集合場所は辺鄙なところだった為、父にバス停まで送ってもらい、そこからはバスで移動となった。
バスで移動中に雨雲は真っ黒に発達し、滝のような雨に変わった。
しかも私と母はバスを乗り間違えたらしく、一旦バスを降りなければいけないことになった。
バスを降り、駆け足で屋根付きの場所に避難する。それだけでもう濡れてしまった。
普段は明るい母もさすがに無口になった。
今からバスを乗り換えたら集合場所に到着が遅くなってしまうし、地底湖探索前は外(森など)を歩くプランになっている。
出ばなをくじかれたとはこのことだ。
こんな足元がグチャグチャで雨が嫌がらせのように降っている時に地底湖どころじゃない。
行きたくないなぁ…
でもツアー料金高いし、なかなか予約とれないし、せっかくのチャンス。
キャンセルするわけにもいかないよなぁ……
多分私と母で同じような思いをしながらどしゃ降りの雨を見ながら、集合場所に向かうバスを待っていた。その時だった。
雨が一気に止み、雨雲が晴れ間へと一気に変わった。陽射しがあたたかい。希望の光だ。
そんなバカな。今まであんなに空が真っ暗だったのに。
バスが到着し、父が降りた。
バスを乗り間違えたことを父に連絡したら、私と母に傘を届けに来てくれて、正しいバスを説明に来たのだ。
父は笑顔だった。
晴れ渡った空の下、バスから笑顔で降りる父は天気の神様に見えた。
私「今までこっちはどしゃ降りだったのに…」
父「そう?お父さんのところは晴れだよ。」
私と母は確かに見たのだ。
父が雨雲を連れ去り、晴れにしたのだ。魔法のように天気が逆転した。
実際、見渡した空全てが晴れていた訳ではない。遠くの空には雨雲があった。
父が移動したことで雨雲が遠のいただけだと本気で思った。
傘を手渡された時は逆に傘がいらない上天気になっており、父はそのまま笑顔で手を降ってまたバスで去っていった。
太陽は眩しく、空はどこまでも晴れ渡っていた。
お陰で地底湖ツアーは楽しかったことは言うまでもないが(バス乗り換えも上手くいき、無事集合時間に間に合った)
父の晴れ男伝説を目の当たりにしたことの方が興奮してしまった。
父は自分を晴れ男とは認めない。
認めてはいるかもしれないが、それで図に乗ったり、自慢したりはしない。
あくまで「たまたまだよ。」と言い張る。放っておかないのは周りだけだ。
私が知る限り、父が出掛ける日で、天気予報通り雨で外出が雨天中止になったのはわずか二回だ。
「晴れじゃなくてごめんなぁ…。」と謝る。
晴れ男とは認めないけど、謝りはする。それが父だった。
父に何か晴れ男の秘訣はあるか聞いたことがある。
「ご先祖様に毎日手を合わせて、ご先祖様に感謝する。今日も一日家族を見守りください、と毎朝伝える。お父さんが心がけているのはそれだけだから、ご先祖様が力を貸してくださっているんだろう。」
ご先祖様に、今日もありがとう。
お天道様に、今日もありがとう。
ちなみに私の推しバンドのポルノグラフィティは雨男、推しのアイドルのガールズq/bは雨女として数々の伝説を作ってきた。
父とライブに行ったら、晴れ男と雨男(女)パワー、どちらが勝つかが気になる。