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三味線を聴きたいだけなのに

毎年のことながら12月は忙しい。
まさに師走だ。

仕事に追われたり、サービス残業も当たり前。
そんな日々だ。

 
その日は利用者が不穏だったり、見知らぬ方に怒鳴られたり、その件を取引先に報告したり、行事の司会進行をしたり、一人残ってサービス残業をしたりと、忙しなかった。あまりいい日ではなかった。
本当は怒鳴られた時点で定時に上がりたくてたまらなかったが、仕事が残っているのでそれどころではない。

ただ、行事は利用者が楽しんでくれたし、帰り道月がキレイだった。
月を見ていたら一人泣けてきた。

 
 
帰宅後、今日は母親の調子が悪いと聞いた。
母親は気温と室温差と話していたが
私と父は三味線のせいだとしか思わなかった。

 
その日、父は三味線の演奏を聴きに行った。
午後四時前には帰宅できた。

母親は午前中が一番調子がよく、夕方5時~6時が一番調子が悪いらしく、17:00~18:00の間は一人にできない。メンタルがやられてしまう。

 
だから母親が退院してから、休日の用事はなるべく午前中に済ますようにした。
父か私がなるべく家にいられるようにした。

お母さんは私やお父さんがいればメンタルが安定し、体の調子がいいことが多い。
逆にいえば、最近は調子がいいと錯覚しやすい。

父親が午後三味線を聴きに行ったのもそんな状態だからだ。
午後かぁ…とはちょっと思ったが
私も母も反対しなかった。

 
その日母はデイサービスの日だった。
デイサービスの日は施設に預けて安心だから、母親を見送った後、帰ってくるまで色々なことを父はやりやすいそうだ。
基本的にはいつも出迎えもした。

だが、その日は三味線の都合で父は出迎えはできなかった。
鍵はいつも持っているし、身体的には母は一人で家にいられる。

 
母が帰宅してから一人の時間は1時間にも満たなかったが、それでも心細かったのではないだろうか。

 
朝から調子が悪かった、とも母は言った。

デイリハの日は緊張するのか、確かに行く前から体調を崩しやすかった。
ただ、最近は安定していた。
今日は父が帰宅時にいない不安が朝からあったのではないだろうか。それで不調になってしまったのではないか。

私はそんなふうに思った。

 
 
父は自分のせいだと責めた。
母は申し訳ないと涙ぐんだ。

仕事で疲れているのに、帰宅してもなお疲れた。

 
息抜きしたいお父さんも
好きで病気になったわけではないお母さんも
誰も悪くないのに

誰も悪くないけど

しんどい。

 
 
これからずっとこうしてお母さんの心身の調子を気遣って私もお父さんも生きていかなければいけないのだろうか。

三味線さえ自由に聴きに行ってもいかないのだろうか。

 
月はキレイだけど
家の空気が暗く、重い。

 

 

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