入院99日目:ずぶ濡れ
朝、Coccoの「絹ずれ」を聴きながら出勤した。
涙が込み上げた。
仕事に、行きたくない。
今日は毎年恒例のブルーベリー狩りに行ってきた。
ブルーベリー狩りに行くための用意を一番最後に帰った私がやり
不穏な利用者の対応を私がやり
行く前から苛々した。
用意をさせておきながら、行く前もあーだこーだうるさかった。じゃあおまえがやれよ。とは言わずに仕事と割り切ろうとする。
去年も不穏な利用者の対応は私だったけど
優しいリーダーが隣にいて助けてくれた。
優しい事務長も一緒の車だった。
事務長も助けてくれた。
だけど今年はリーダーがいなくなり
事務長も今日は勤務日ではなかったし、数ヶ月後にはいなくなる。
私がやるしかないんだな。
そう思うとため息が出る。
上は安定に助けてくれなかった。ブルーベリーを頬張る姿に殺意が沸く。
ブルーベリー狩り。
響きはなんて楽しそうだろう。
私は10分くらいだけ不穏な利用者から解放された。
300円で食べ放題だし、お土産パックにも詰められるし(利用者は持ち帰れるが、職員は施設に寄付)
元を取るくらい一気に食べたし、摘みもした。
私が撮る利用者の顔は穏やかで、写真だけ並べて見たら平和そのものだった。
私の仕事の苦労なんて何もないかのように。
天気も今までで一番マシだった。
最高気温は高いけど、まだ過ごしやすい曇り空だった。
だけど、もういいかな、と思った。
来年またみんなで来たいとは思わなかった。
今年が最後で構わないと思った。
不穏な利用者の対応にも
やって当たり前と言いたいかのように、上が感謝も労いもなくふってくる仕事にも、私は疲れた。
来年のブルーベリー狩りは、私抜きでいい。
ブルーベリー狩りの後も苛々が止まらなかった。
書類作成として与えられた時間だったのに
なんやかんやと現場を手伝わされた。
書類が進まない。
「私今日早く帰りたいから早く書類あげてくれない?」
なんであなたが早く帰るために私が当たり前のようにサービス残業しなきゃいけないんだよ。
あぁ、私が雇われの身だからか。
いちいち、腹が立つ。
急いでその書類をあげた後、上から「真咲さん明日振替で休みだから○○と▲▲の仕事を今日中にやってください。」と言われ、泣きたくなった。
定時間際だったからだ。
他の職員は休みの時○○や▲▲は出勤の職員がやるのに
なんで私はやらなきゃいけないんだろう。
振替休日だって、土曜日職員一人で出勤してもらえる休みなのに
土曜日出勤の時もサービス残業したのに
またサービス残業か。
昨日もサービス残業だったから、今日こそは早く帰りたかったのに。
○○や▲▲の仕事は、やっても、やっても、やっても、ダメ出しされた。
そんなにダメ出しするなら、完璧主義なあなたが全部やればいいのに。嫌がらせか。
周りの同僚がそのやりとりを見ていた。
見かねて手伝おうとしたり、先に帰るのを申し訳なさそうにしていたが
その仕事は私や上や、今はいないリーダーしかできない。
だから手伝ってもらうわけにはいかないし、先に帰るのを躊躇うことはない。
リーダーはこんな風に私が上にダメ出しをされるたびに見かねて助けてくれた。
私が仕事の相談をしたら、ダメ出しをしないで具体的にアドバイスをくれた。
その上で、「俺ならこうやるけど、真咲さんのやりかたでいいんだよ。俺が正しいわけではないから。」って言ってくれた。
だけど今はリーダーがいないのだから、ひたすらにあーだこーだ言われるしかないし
私がやるしかない。
それでもイラっとして、私は感情的な発言をした。
最近、上に対して苛立ちを隠せない時がある。
こんな分からず屋に苛立ちを見せても私の評価が落ち、時間と労力の無駄なのに、私はまだまだだ。
心を殺して仕事をしないと。
結局予定より1時間以上帰りが遅くなった。
サービス残業だけでは仕事が終わらず、持ち帰ることにした。
早く帰ってお父さんに夕飯を作らなきゃ。
職場を出て少ししたら、急などしゃ降りにずぶ濡れになった。
うちの職場は、職員駐車場が遠い。
折りたたみ傘を慌てて広げるが、車に着く頃にはずぶ濡れになり、濡れないようにカバーしていた持ち帰り仕事も、雨に濡れた。
もっと早く帰れていたら、濡れずにすんだのに。
お金も増えず、持ち帰り仕事も濡れて、嫌になった。
私は車内で泣いた。
泣きながら帰った。
リーダーの名前を呟いた。
更に泣けた。
リーダーはもういない。
もう二度と助けてくれない。
このしんどい仕事は転職しないかぎり、逃げられない。
でも転職したところでどこもブラックだろう。
行き場も逃げ場もない。
終わりだ。もう。
夕飯を作りながら泣けてきた。
明日は振替休日なのに持ち帰り仕事もあるし、気持ちは晴れない。
お父さんは今日お母さんの面会に行ったらしい。
10分だけ話せたようだ。
その際、姉の旦那さんの親が面会に来たと行っていた。
入院して明日で100日だ。
一度くらい面会に行こうと思ったのだろう。
孫の話で盛り上がったらしい。
お父さんの話によると、姉はお母さんの退院日に休みをとったらしい。
お母さんの退院は午前中で、お母さんはお父さんに「午後からでも仕事に行け。」と行ったらしいが、お父さんも休みをとった。
むしろ、お父さんが休める日に退院日を決めた。
私はその日は大きな仕事がある。
休めなくはないが、休みを取りにくくはある。
お父さんもお母さんも大丈夫だと言ったし
退院日に休まない気だったが、姉が休むとなると複雑となる。
やはり私も休みをとったほうがいいだろうか。
「いや、ともかは毎月面談に行っているし、毎週お見舞いにも行っているし、退院してからも長い生活が続くのだから無理するな。」
「たまにはお姉ちゃんに任せてもいいんじゃないか?」
父が言う。
確かに姉は月一くらいしかお見舞いに来ていないし、差し入れもない。
退院日くらい姉に任せてもいいのかもしれない。
どうせ姉は退院祝いにご飯に連れて行くくらいだろう。
私やお父さんは色々買い出しやらサポートやらがこれから待っている。退院したら毎日共に生活するための手助けが必要なのだから。