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最後の砦じゃなかった

以前既婚者の知人に、「相談所行けば結婚はすぐできるよ。」と笑顔で言われたことがある。 
私は苦笑をしてやり過ごした。

その人が相談所を経て結婚したのか
一般論から言ったのかは分からないが
相談所に行っても結婚できなかったのは私だし
婚活仲間もできなかった。

全てを話せば理解してもらえるとは限らないし
それを求めるのも傲慢な気がした。
 
 
生きている限り、色々な人から結婚について言われ
私は次第にいくつかの返答パターンを身につけていた。

ネタとして笑いにするか
「ご縁があれば。」と大人の対応をするか
婚約破棄の話をすればいい。

 
本音や実際なんて、全てをさらけ出すことはないのだ。
 
 

 
 
これは、婚約破棄をしたてのアラサーだった頃の話だ。

「結婚相談所に行きましょう。お金は出すから。」

と母に言われた。
本家を継ぐ使命の私に拒否権はない。

 
 
実際、様々な婚活を一通りやり尽くした私は
結婚相談所ならば、と期待した。
結婚相談所は最後の砦だと思っていた。
合コンほどは容姿がハンデにならないだろうし
身分証明書を提示し、一定の条件をクリアしないと
男女共に入会できないことを知っていた。 

晩婚化が進んでいるとは言っても
女性は圧倒的に若い子が有利で
容姿が優れている子が有利である。

 
私の独断と偏見だが
年齢=彼氏いない歴の女性は、ほとんど表立った婚活をしない。
婚活パーティーにはまずいない。
婚活時に会う女性は、「(将来性のない)彼氏と別れて今は一人」という人が非常に多く
美人で容姿が優れていて
性格も普通にいい人が多かった。

 
 
何故外見以上のことを知っているかというと
私は一人で婚活パーティー等に参加した時

周りの女性との方が

あっさり仲良くなるタイプなのだ。
 
 
「男ではなく、女と仲良くなってどうする!?」と母にツッコまれても
それが私の性分なのだから仕方ない。

婚活パーティーは男女比率がおかしい時もよくあるし
特定の若く美しい女性に男性が群がることもよくある。
妙齢で人気のない女性陣は立場がなく、同性同士で仲良くなりがちなのだ。 

 
 
 
婚活は、女性に関して言えば、絶対に早めに始めた方がいい。
それは婚活をしてから痛いほど思い知らされた。

 
 
結婚相談所に入会する日、私は白のカーディガンを羽織り、ライムグリーンのワンピースを着ていた。
七分丈のレギンスと、茶色のサンダルを合わせ、髪はサイドで束ねた。
母親は母親で、たまたま私と全身コーデどころか髪型までかぶり、まさかの双子コーデとなった。

その日はキレイな青空だった。

 
 
 
母の車に乗り、某結婚相談所に着くと
40代後半位の女性が対応した。
そこは白を基調とした場所で、緑が飾ってあり、狭い事務室のようだった。

私は指示に従い、プロフィールカードに記入していき
相談所で写真を撮った。 
履歴書のようなものを作成し、それがパソコンに反映された。

 
母親は係の人とベラベラ話し、係の人もベラベラ話し
私はそのやり取りを苦笑いをしながら聞いていた。

「まぁ~○○歳!ちょうどそのくらいの年齢の方が登録するんですよ~!大丈夫。いいご縁がありますよう、サポート致しますわ。」

係の人はオホホオホホと笑いながら話し続けた。
壁には私より年上の女性が写真付きで紹介されていた。もちろん、成功体験だ。
私はそれを見ながら、実績を感じたというよりは
世の中にはこんなにも、私より年上でも結婚できない女性が溢れているのだと感じた。

写真の人達は、アラサーを通り越したアラフォーだった。
 
 
 
入会金は一年間で約10万円。
正直、高い、と思った。
だがまぁ、いい相手が見つかるならば仕方ないと思った。
上手くいけば、10万なんて安かったと思うのだろう。

チラシではその半額位だったが、なんやかんやオプションで倍額かかった。
カードでの支払いができず、母親は現金が足りず 
私が係の人と話している間に一旦抜け
銀行からお金を卸してきて、その場で払った。 

 
係の人の話では、男性登録者は三桁で
私や母が希望する条件の男性は70人を越えていると言った。
その話に私は希望を感じた。
今度こそ上手くいくといいな、と思った。

 
 
係の人の説明によると、私がパソコンを使って男性プロフィールを見ることはできないらしかった。

①良さげな人がいたら相談所側から私の携帯に電話をするので、私はその電話をもらったら、近日中に相談所に行き、そこで簡単なプロフィールを知らされる。

②話を受けるかどうかは、その場で決める。

③私がOKを出したら、近日中で都合のいい日時を各自相談所に伝え、相談所から二人の都合のいい日時を伝える。

④二人で会う日は一旦、相談所に集合し、係の人立ち合いの元、自己紹介をする。
女性はナチュラルメイクでワンピースを着ること。

⑤男性の車に乗り、一時間喫茶店に行く(料金は個人持ちだが、基本的には男性が払うのがマナー、と相談所マナー本に書いてあった)。

⑥相談所に戻り、男性は先に帰る。女性は係の人に、個人的に今後会いたいかどうかを伝える。

⑦もし両者OKの場合は相談所の人が、女性携帯番号を男性に教え、男性から女性に電話をかける。

⑧女性がOKで男性がNGの場合は、相談所からその旨が連絡が入る。
女性がNGで男性がOKの場合、相談所からは何も連絡はしない。

⑨両者OKの場合、その後は二人で個人的に会う。相談所からは、別の人紹介はストップする。

⑩個人的に交流をした一ヶ月後、相談所からその後どうなったか様子を聞く。
もし、合わなかった場合は、そこからまた新しい人を紹介する。

⑪二人が結婚した場合、成婚料として相談所に1万払う。

 
ルールはこんな形だ。
私はお金を払ってからこれを聞き、うーん………となった。
てっきり、自由に相手のプロフィールを見られて、会う会わないはこちらで決められると思っていた。
相手が良さげな人をススメてきたら、いちいち仕事帰りに寄らないといけないのか。早急に都合をつけて。
うーん、仕事が定時で上がれないからなぁ…。
時間のやりくりしなきゃな…相談所、とは言えないし。
デートでナチュラルメイクでワンピースって…………
いや、私はたまたまそういった服装好きだけどさ
女性みんなその格好が好きなわけではないじゃん。
なんだそのステレオタイプは。
しかも、途中経過を特に信頼していないこの人に逐一話す上に 
結婚したらまたお金を各自払うの?一万も?
しかも、毎回相手の車に乗るのか…初めて会った人の助手席に……二人きりで………………
何か犯罪に巻き込まれたらどうするんだ、それ。

うーん……となった。
親戚の人が持ってきた見合いに毛が生えたみたいだな。

思い描いていたものと、だいぶ違う。
だけど後戻りはできない。

婚約破棄したのだから、次に行かなければ。
私はそうして自分を奮い立たせていた。

 
 
 
さて、結論から言うと、相談所で一年間に紹介してくれたのは、僅か7名であった。
7名である。
70数名とやらは相談所のほら吹きなのか
男性側が私の顔や年齢やプロフィールがお好みでなかったかどちらかだろう。
多分だが、私が本家跡取りということが大問題だったのだと思う。
プロフィールに同居しなくても構わないとは書いたが
やはり二の足は踏むだろう。

 
いや、しかし…しかしだ。
これは詐欺じゃないか?
婚活パーティーなら、一回3000円未満で20人くらいと出会えるし 
合コンだって、一回3000円くらいで5人くらいと出会える。
街コンも一回3000円くらいで10人位と出会えた。

 
あまりに非効率だ。
なのに金額が高い。
しかも、良さげな人がいたら、わざわざ仕事切り上げて相談所に行かなきゃいけない…たかが5分の話のために、なんで電話じゃいかんのだ。
手間がかかる、手間が。

私は入会序盤から、その相談所に不満や不信感を抱いた。

 

さて、相手が気に入ってくれたからには一度は会うべきだ。
仕方なく、私はその7人全ての方と会った。
なお、個人情報とやらで、顔写真は事前に見せてもらえず、ぶっつけ本番である。 

  
相談所で出会った人達の印象だ。

男性は公務員や大企業など、お堅い職業である。
見た目はチャラチャラしておらず、地味目かオタクっぽい。
長男で跡取りが多く、妻に祖父母の介護を求め、みそ汁は出汁から作ってほしく
恋愛経験が(ほとんど)ないが、理想が高い人が多かった。


 
断言してもいい。
婚活をすると、過去の元彼や男友達が素晴らしい人種に思えるほど

普通の人がほとんど、いない。

女性とは異なり、婚活をしている男性は
恋愛経験がない人(と思われる人)の比率が異常に高い。
何故それが分かるかというと、衛生面やファッション、コミュニケーション力、外見である。
また、出待ちやナンパ等もいる。
「空気が読めないな…。」と感じる人が多いのだ。

 
断言しよう。
婚活パーティーで一番素敵な男性は毎回、司会進行をする、婚活パーティー主催の人だった。
なお、参加者が主催者にアプローチするのは禁止されている。

 
そんな中、相談所で出会った7人に関してだけ言えば
私が体験してきた様々な婚活の中で一番ひどかったのが

相談所である。

 
 
10万円を払ってこの7人と出会うくらいなら
その10万円を使って婚活パーティーや合コンに行ったり
脱毛やエステをして、次の機会に備えた方がいいと思うほど

人としての常識がなく(仕事で地位が高いから)、一番理想が高く(恋愛経験がないから)、結婚を考える前に人として関わりさえもちたくない(見た目や衛生面やコミュ力で課題が多い)人達だった。
 
 

  

大抵、相談所の待ち合わせで初めて会い、挨拶をした瞬間に

ないなぁ…

と思った。
困った。今までの婚活ではここまでひどくなかった。
話してみなければ分からない善し悪しもあるのに
最初の段階で「ない」のだ。
その、ないなぁ…と思った人と、5分以内にはその人の車に乗らなければいけない。
 
 
皆さん、女性を車に乗せるだけあり、洗車はバッチリだった。車内も掃除が行き届いている。
そこはまぁよいのだが
エンジンをかけた瞬間に童謡が流れた時には、ずっこけかけた。

いや、あの、童謡よ?

私は童謡は好きだが、いきなり「森のクマさん」がアラフォーの人の車から流れた時、どうしたらいいか分からなかった。
私は白い貝殻の小さなイヤリングでも落としたのだろうか。

 
休みの日なのに、仕事着で着た人もいれば
肩にフケがあり、爪が黒く汚れている人もいた。
会っている間に時計をひたすら見る人もいれば
携帯電話をいじる人もいた。

婚活において、男性は甘えていると思っていた。
こちらからはそれらを指摘せず
微笑みながら話の聞き役になり
場を和ませるのが当然のような空気になりやすかった。  

一時間の喫茶店で飲み物一杯驕ってもらうだけでは
本当に割に合わないと思った。
会う日は昼間と決められていたので
必ず仕事休みの日の昼間に時間を潰された。
メイクして相談所まで行って帰ってという予定だと
休日が中途半端に潰された。

  
 
相談所だけではないが
大抵、婚活において、障がい福祉の仕事をしていると伝えると、引かれた。

「障がい者って怖くない?」「偉いですね。」「大変ですね。」

何度言われたか分からない。
私が婚活において不利だったのは、職業もあった。
事務職、保育士、看護師あたりが人気が高かった。
その裏には、「従順そう」「優しそう」「介護や家事をしてくれそう」「子育て得意そう」が大抵ちらついていた。

私は結婚後も働きたかったが
彼等は専業主婦を望んだ。
彼等が求めたのは完全に「家政婦」だった。
無料の家政婦であり、性のはけ口でさえあったのかもしれない。

 
朝ご飯は出汁からみそ汁を作り
旦那さんがいない間は家に尽くし
子どもを二人は産んで
同居する両親や祖父母と上手く付き合い、介護をしてほしい。
母親が家事は全てやってくれたから、母親と同等もしくはそれ以上の家事力であってほしい。

………さすが、結婚相談所に頼るだけあるなぁ、と思った。
「一緒に家事をやろう」という考えは彼等になかったし
当然だが、私の家を継ぐことにも前向きじゃなかった。

 
水の入ったコップの水滴を自身の肘で拭きながら
出っ張ったお腹が息を吸ったり吐いたりするたびに激しく動き
顔が汗だらけで、息がフゥーフゥーと上がっていた方もいた。
ポケットに入れたボールペンを取り出し、ひたすらクルクル回している。

…話すどころじゃない。
ただそこにいるだけで、非常に大変そうだ。

……一時間がやけに長かった。

 
 
「ともかは理想高いんだよ。いいじゃん、水滴を肘で拭いたって。」

「元婚約者なんか忘れて現実見なよ。」

美人でイケメンの旦那さんと恋愛結婚した二人の友人に、相談所の愚痴を吐いた時
私は内心ピキッとなった。
25歳で三年以上付き合った人とゴールインしている人は言うことが違うなぁと思った。
分かってもらえないとも思ったし
私が「ないなぁ…」と思った人と同レベルと言われた気がして
悲しかった。

結婚した人の悩みが私に分かりきらないように
アラサー婚活をしている人の悩みは
例え友達だろうと
順調に結婚した人には分かってもらえるもんか。

  
彼女らも悪気はなかったのだろうが、私は理解を求めると悲しくなったので
ひたすらにピエロのごとく笑いに変えたし
成功者のお言葉とやらを聞かされ
内心ウンザリし
彼女らとは段々と疎遠になっていった。

 
 
 
「いや、分かるよ………あり得ないよね。リアルで知り合ったら恋愛どころか、友達にすらなりたくないタイプばかりがいるというか…。」

婚活同盟をしていた友達も、私とは別の相談所に入会していた。
入会金は私のところよりも安く、代わりに男性と会うごとに3000円?(5000円だっけな?)を払わなきゃいけなかったり、相談所内の指定された部屋で一時間話すといった感じで
私の相談所とは勝手が違うようだった。
紹介された人数も私より多く、係の人はかなり親身になって婚活相談に応じてくれたらしい(ただし、のちに距離感が近すぎて色々言ってきたらしく、関係は悪化していく)。

私の場所は放置型だった。
あくまで男性紹介と段取り係で、相談は一切なかった。
やはりそれで10万円は高い。

友「この前さ、全身ピンクのスーツ姿でアクセサリージャラジャラつけた人が来てさ………。」

私「全身ピンクって、林家ペー・パー子じゃないんだから………。」

 
友達は友達で苦戦していた。
相談所は、どんなに嫌でも、その場で退席は許されない。
友達は相談所一年間の間に、個人的に連絡先を交換して付き合った人がいたが、二股の上、本命ではない側だった。もちろん、すぐに別れた。

 
 
 
 
相談所に登録して、進展のないまま、10ヶ月が過ぎ、季節は冬になっていた。

私はそこで、紹介された7人目の人に出会う。

 
その人は私と年が大して変わらず、普通の人だった。
清潔感があり、服もキレイめなカジュアルで、標準体型。

あぁ、普通の人だ……

私はそれだけで嬉しかった。
仕事を真面目にしているところや両親の仕事が私の両親と似ていたこともよかった。
喫茶店で会話している時、真っ直ぐに目を見てくれた。 
誠実で純情そうな様子は伝わり、好感触だった。

 
珍しく福祉職も評価してくれたし、結婚しても仕事はやる・やらないは自由だと言ってくれた。
子どももほしいとも言っていた。
 
会話中、彼が長年かわいがっていた犬が死んでしまった話になり
私は思わず泣いてしまった。
一人っ子の彼は、犬が兄弟代わりだったのだ。
泣き虫な私に普通は引くと思うが

「なんて心が美しく、優しい人なんですか…。」

と、その人は感動していた。

 
 
 
この人ならばと思った。
連絡先を交換してみてもいいと思った。

相談所の人からも、相手はかなり私に夢中だと聞いていたし
大切にしてくれそうな気がした。

 
7人目にしてようやく、個人的に交流する人ができたのだ。

 
 
相談所を抜けたらすぐに付き合わなきゃいけない決まりはないが、私は押しに押されて付き合うことになった。
実際、婚活は付き合ってから半年で婚約がベタだった。
逆に、ちゃっちゃと付き合って、見極めて、ダメなら次にいくのが普通だった。

「しばらくはお友達としてよろしくお願いします。」なんて
悠長なことは言っていられない。
それがアラサーだ。
それが婚活なのだ。

 
さて、彼は連絡がマメだった。思いをストレートにあらわすタイプだった。
私より残業は少ないらしく
私が仕事中の時にもLINEが届いた。

朝・昼・晩とLINEが届き
毎夜電話がかかってきた。

毎週、1、2回デートしていた。
近距離恋愛だったので、都合が合わせやすかった。

 
うちの家族に挨拶に来てくれたし
デート待ち合わせ場所にはいつも早めに来てくれて
車では私の家まで送り、駅では改札まで私を迎えに来て
とにかくマメな方だった。
浮気は無縁そうだった。

「早く結婚しよう。ともかちゃんも20代のうちに結婚したいでしょ?ウェディングドレスにお色直しのドレスもいいね。」

「うちの親にともかちゃんのこと話したら、すごく気に入っていたよ。今度うちにも来てよ。」

 
私は嬉しかった。
ちゃんと結婚について考えてくれてる。
元婚約者の家族には、散々悪態を吐かれたが
今度こそ
今度こそ
30歳前に結婚できそうだ。

ギャンブル癖や借金もなさそうだし
きっとこの人となら、緩やかな結婚生活を送れるんだ。

 
 
………と、思えたのは、一ヶ月にも満たなかった。

 
 
彼「もう新居は用意してあるから。両親が買ってくれたんだ。」 

私は彼のその言葉に違和感を感じた。
家を継ぐとは言っても、私だって最初は二人暮らしをしたいし、まぁそこはいいんだけど、彼の実家から5分の場所に家が用意してある………。
ま、まぁ私は家やインテリアにあまり興味がないし、お金持ちなのだろう。
悪い話じゃないよね、うん。
そこから職場も通えるし、うちまでだって遠くないし、どちらの実家も行き来しやすいしさ、うん。

 
「いや、それはダメだろ。」

 
そう言ったのは姉や周りの友達だ。
 
 
「これから長く二人で一緒に住む場所だぜ?奥さん側の意向は関係なしってことだろ?新築じゃリフォームもできないし、そこに住むしか選択肢ないじゃん。
新生活はさ、夫婦二人でより良い住処を一緒に悩んで選ぶところから始まるのに、それじゃあ旦那と両親の意向の家じゃん。スタートからくじけてる。」

 
結婚している姉の言葉はごもっともだった。
私が感じた違和感はこれか。
そうなんだよな……彼が一人暮らししている家や部屋に転がり込んで、インテリアをいじるならありだが
彼と両親のカラーで染まった
新築一軒家が既に建ててあるのは………。

 
いやでもまぁ、経済力あるってことだし。
まだその家見てないし。
まぁまぁ、家くらい………。

私は自分自身に言い聞かせていた。
大したことない、と。

 
 
「俺さ、よく重いって言われてフラれたんだよね。ともかちゃんは嫌がらないよね…?」

「男性のデータ、電話帳から全部消して。元彼とは二度と連絡しないで。」

デート中、それを言われた時はゾクッとした。
確かに連絡の頻度は上がっていた。
仕事中でLINEを返せないと追加LINEが来たし
電話も着信が何件も残っていた。

 
同僚は男性がたくさんいるし、男友達もいる。
元彼とは別れたて、しかもフラれたてだ。
連絡は私からはとってなかったが、男性データ全消しは……………。

彼「この着信は誰?」 

私「同僚だよ。私の職場は仕事上、よく電話するのよ。」

  
嘘じゃなかった。
着信履歴は大抵が仕事関係者で、一日10回くらいやり取りしてもおかしくない。
LINEでのやり取りもしていた。

彼「俺といる時に、仕事だろうと男と連絡しないで。」

 
……………。

 
………………………。

 
 
重い。
どうしよう。重い。
いくら退勤した後でも、仕事関係者とやり取りすることはあるし
正職員が男性ばかりだから
必然的に男性と連絡する頻度は高い。

 
心臓がドキドキした。
どうしよう…どうしよう………と焦った。

 
 
 
その次のデートの時、気を取り直してパンケーキを食べに行った。
ちょうどその頃はパンケーキが大ブームだった。
長蛇の列で有名なお店だったので、私は分厚い膝掛けを持参した。
私は寒がりだった。

「こっちを使ってよ。お揃い。これから、車にいつもともかちゃん用を置いとくね。」

 
それは北欧風の柄で、彼と色違いで、確かに可愛らしくはあったけど、嬉しくなかった。
 
お揃いなら、一緒に選びたかったな…
私の意見は聞いてくれないんだ。
寒がりだから、柄も大事だけど、あたたかいタイプがいいのに…。

それは新居と同じように感じた。
私の意思は関係ない。
優しい。
優しいのかもしれない。
いや、優しいのか?
押し付けじゃないか?

 
 
内心モヤモヤしている時に、彼はトランクからアルバムを何冊も取り出した。
それは幼稚園~大学までの卒アルだった。
どうやら、パンケーキ屋の待ち時間が長くなるらしいから、持ってきたらしい。 

私はざっくり個人写真やグループ写真を見ていたが
彼はページを戻した。

 
「俺はどこにいるでしょうか?♪」

 
それはクラスや学年全部の集合写真だった。
野外写真で、みんな眩しそうに顔をしかめている上、一人一人の顔は小さい。

 
私「え~っと………これ?」

 
彼「ブブー♪ちゃんと見てよ。真っ直ぐにともかちゃんを見てるよ。早く見つけて、僕寂しいって顔して、ずっと見てるよ。」

 
 
………鳥肌が立った。
なんだこいつは。

出会ってまだ10回も会ってないのに、幼少期の写真までちゃんと当てられたら逆にすごいだろうが!?

 
………私はパンケーキの順番が来るまでの間、一時間半あまり
その調子で全ての卒アルに載っている彼を探すように求められた。

 
人生初のインスタ映えのパンケーキは
よく味が分からなかった。

 
 
 
 
私はパンケーキ屋で怒りや不満は80パーセントに達した。
自分がモテないことは分かっているし、贅沢を言っていられないことは分かっていたが
段々と彼と関わることが苦痛になっていた。

そんなある日、仕事の愚痴を5分くらい話した時に

「つまらないから、面白い話にしてよ。」

と言われたことで私は我慢の限界を超え
その人に別れを切り出した。

 
向こうはそりゃあ未練がましく、ごめんごめんのLINEや電話オンパレードだが
私はそれさえも嫌悪感しかなく
もう二度と連絡はとらなかった。

 
 
相談所にも速攻で電話をかけ、次の人の紹介を促したが
次の人は見つからないまま、契約切れの一年が過ぎた。

相談所の更新手続きはしなかった。

 
 
 
 
母親からはそれはもう言われた。

「いい人じゃない。結婚本気で考えてくれて、仕事真面目にやっていて、経済的ゆとりがある。何が不満なの?100点の人なんていないのよ。一緒に暮らしていくうちに夫婦になる。そんなもんなのよ。このままじゃ行き遅れるわよ。今からでも仲直りの電話しちゃいなさい。」

  
「ヤダー!もうヤダー!もう無理!我慢の限界!あんな人と結婚なんて息がつまる!ヤダ!ヤダ!絶対ヤダー!」

私は顔を真っ赤にして切れて泣き叫び、その場にあったチラシを片っ端から壁に投げつけた。

 
「だったらお母さんが結婚すればいいじゃん!ヤダ!ヤダ!もう顔も見たくない!」 

 
泣き叫びながら物を投げたのは、これが人生初めてだった。 
結婚するためにこれら全てを耐えて我慢して、50年以上一緒にいる気は全く起きなかった。

 
別れて悔いなし、と思った。
限りない自由と笑みを手に入れた。

こうしてまた、婚活は振り出しに戻った。
 
 
 
 
その後、風の噂で私と別れてから二年後にその人が結婚したことを知った。
あの束縛に奥さんは耐えられるのか…すごいな。
私は素直に感心した。
それと同時に、私は空しさを感じた。

受け入れられない私がワガママなのかなぁ。
フッたことに悔いはないけど
結局あの人は結婚できて
私は結婚できないままだもんな。

 
私が人として女性として、何かが欠けているのかな。

 
  
こうして私は婚活するほどに自信を失い
恋愛が絡む男性不信が強くなっていくが
婚活をやらざるを得ないという
悪循環の日々を過ごすしかなかった。


 















  


  





 



 
 




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