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有名理系大学院を卒業して大道芸人の道を選んだ人

私が初めて大道芸人を見たのは
おそらくテレビだったと思う。

ジャグリングを見たような気がする。
「おぉ!すごいなぁ!」と釘付けになりながら見たが
そういった人を大道芸人と呼ぶことを知らないまま
私は成長していった。

 
 
 
私はやがて大学生になった。

大学一年生時は女子サッカー部に入ったが、ドクターストップにより
私は料理サークルに入り直した。

 
私の仲良しグループの子はみんな部活やサークルに入っていなかった。
バイトや趣味や何らかのことを行っていたり
自宅から通っていた為に制限がかかっていた。
片道二時間かけて通っている友達も少なくなかった。

親友は女子サッカー部に入っていたが、私とほぼ同時期に辞めてしまった。
私が辞めたからではなく、お互いに別の理由だった。

私の仲良しグループのメンバーだけでなく、他の仲良しグループの子達も入っていなかった。
最初から入っていない人もいたし
部活に一旦入って辞めた方も多かった。

 
運動部は活動日が週3日以上であり、ハードだった。 

 
初心者はなかなかついていけないくらい練習がきつく
またレポートやバイトとの両立は難しく
人間関係も課題が見られた。

 
もう小学生~高校までのように
部活に情熱を注ぐことは難しい人も多かった。
一人暮らしの人もいたし
どうしたってバイトの比率が上がる。

部活は大学付近に住む人や体力がある人、バイトと学校生活が両立できる人に限られた。
人間関係が円滑というのもポイントだろう。

 
 
昼休み、学食でお昼を食べるのは部活をしている人や一人暮らし組が多かった。
私の仲良しグループは全員実家組でお弁当持参だったので
いつも空き教室でお昼を食べた。
売店や移動パン屋、近隣のコンビニでの買い弁をする時もあった。

 
 
その、よくご飯を食べる空き教室の窓から
ジャグリングをしている人が何人か見えた。
どうやら大道芸サークルらしい。
昼休み中に外で練習をしているようだった。

 
私達は窓際の席に座り、よくその光景を見ながらご飯を食べた。
三階から私達は眺めていたから
彼等は私達が見ていたとは気づかなかったかもしれない。

おぉ~!すごいな~!

私達はそう思ったり、言ったりしていた。
私にとって大道芸は手先が器用な人がやるイメージがあり
自分でやりたいとは全く思わなかった。
だからただ眺めているだけだ。

 
 
そんな日々がしばらく続いた後、隣で友達がポソッと

「…大道芸サークル入ろうかな。」

と言ったので大変驚いた。

  
まさか友達がそういった目で大道芸サークルの方々を見ていたとは全く思わなかった。
目立ったり、人前に立つタイプではないし
昔は弓道部だったと話を聞いていたからだ。

 
「大学の弓道部はハードだから、いくら経験者とはいえ、大学ではできないかな。

でも、ともかさんが女子サッカー部や料理サークルで楽しそうな話をしているのを聞くと、何か、こう…私もやってみたいなって思って。」

 
私は驚いた。
友達は私の影響で何かしら部活やサークルをやりたくなったというのだ。
まさかそこまで影響を与えていたとは。
周りの仲が良い子は部活やサークルをしていない子ばかりだというのに。

私は嬉しくなったし
友達のやりたい!を応援したい。

 
「大学の部活は本当ハードだから、バイトやレポートと両立するならサークル活動の方がマイペースでやりやすいと思う。
近場組は部活やっているけど、私達は遠方組だしね。

大道芸、いいんじゃない!なかなかああいった体験できないしね!面白いと思う!」

 
私は友達にそう伝えた。
友達はそのサークルに入部届を出し、大道芸サークルに入会した。

 
 
私は今度は窓から友達が大道芸を練習する様を見つめた。
放課後の練習は見られなかったが
昼休み中、友達が練習しているのを見ることは微笑ましかった。

 
学祭で、料理サークルの私は飲食物販売をしていたが
友達は大道芸を披露していた。
私はお店当番じゃない日に友達の様子を見に行って
技の数々に拍手をした。

すごい。私にはできそうもない。

大道芸サークルの先輩はみんないい人だったらしく
人間関係は良好だったらしい。
友達が楽しそうな様子を見て私は嬉しかった。

  
友達は大学二年生の頃に入部し
引退するまで大道芸サークルに所属していた。

 
 
お互いに、大学卒業後は福祉職に就いた。

料理や大道芸はあくまで趣味であり
それで生計を立てる気は
私達には全くなかった。

 
 
そんな中に、私はその人と出会った。

 
 
 
あれは今から5年くらい前のことだと思う。

私は当時付き合っていた彼氏と海に行った帰りに
ショッピングモールに立ち寄った。
そのショッピングモールで何か買いたかったわけではなく
二人で様々な物を見たり、食べたりを気ままにしていた。
成り行きで立ち寄ったのだ。

 
ショッピングモールには貼り紙が貼ってあり、大道芸人がショーをやると書いてあった。
見知らぬ人だったが
大道芸人を見る機会はなかなかないし
二人で見てみようという話になった。

私達は買い物を中断し、二階の席から見下ろすような形で、一階で行われたショーを見ていた。
二階から見ている人もいたし
一階で間近に見ている人もいた。
間近に見ていた人達はファミリー層が多かった。

 
ステージ衣装を着たその人は、アンバランスな場所で様々な芸をし
私達観客はパチパチと拍手をした。
世界でもその大道芸人の方しかできない技だとか
日本でもできる人が少ない技だとかを
その方は次々に披露していった。

 
私は大道芸に詳しくないから難易度はよく分からないが
すごいことは伝わったし
楽しい30分間を過ごせた。

MCによると、収入はおひねりらしいし
遠方から来ているらしい。

 
一階にいる子ども達がわぁわぁ投げ銭をした後
私は彼に「私も投げ銭してくる!」と言い
階段を駆け下りた。
彼は微笑みながら後ろからついてきた。

 
「大道芸、感動しました。少しですけど…。」

 
私はそんなことを言いながら、指定された箱に小銭を入れた。

 
 
大道芸人の方は、その日数回ショーをしていて、私が見た回が最後だった。
観客がみんな立ち去った後、一人片付けをしていた。
私から具体的にあれがよかった、これがよかった、とベラベラ話しかけられたことが嬉しかったらしく
その方は身の上を話し出した。

その人は某大学卒業後、某大学院に進学していた。

その大学は偏差値が高いことで有名で
その大学院を卒業した人は大手企業の就職が確実に近かった。
文系の私でさえ、それはよく知っている。

 
大道芸人「大学院卒業後、大道芸人の道に進むと決めた時、両親から大反対されました。今でも反対されています。まだまだ不安定な職業で、親の気持ちも分かります。
だから私は私にしかできない技を身につけて、たくさんの人を笑顔にしたいし、有名になって、芸だけで飯を食っていきたい。親を安心させたいです。

だから、初めて見た方が最後までショーを見てくださり、お金もくれて、大道芸褒めてくれて本当に嬉しかったんです。」

 
私「ちなみに、大道芸には大学院卒業後に出会ったんですか?」

 
大道芸人「いえ、大学の頃から大道芸は行っていました。プロになれるのはほんの僅かですから、大学院に進学したのですが………どうしても夢を諦めきれませんでした。」

 
私「夢に真っ直ぐで素敵です!応援しています。」

 
大道芸人「ありがとうございます!本当に嬉しいです!!」

 
 
私はショーの様子をSNSに投稿したら
ご本人から感謝のコメントやDMが届いた。
相当嬉しかったのだろう。

ありがとう、ありがとうと何度も言われ
それを機に私達は知り合いになった。

 
 
その大道芸人の方を調べると、様々なコンテストで優勝や入賞をしているようだし
日本各地、海外でも
大道芸を披露しているようだった。

夢に向かい、日々頑張っている大道芸人の方の姿を見て
私も頑張ろうという気になった。

 
私はその方の潔さが素敵だと思った。

有名大学院卒をしていながら不安定な道を選ぶ彼に
私はかつての自分を重ねた。
私も大学卒業後に内定を蹴って専門学校に入り直したし
人より遠回りをして夢を追いかけた。

大道芸と福祉ではまた世界は違うが
諦めの悪さはよく似ていると思った。
年が近いから尚更
私は自分に近しい存在のように思えた。

 
いつか私の職場の行事に来てもらえないだろうか。

 
私はそうも思った。
きっと利用者は喜んでくれるだろう。

なかなかタイミングは合わず
また私の地元でショーを行っていない関係もあり
私は結局あの一回しか生でショーは見ていない。

そう
初めてショーを見た日
私達は遠方でデートをしていて
本当にたまたまあそこでショーを見れたに過ぎない。
ご縁でしかなかったのだ。

 
あれから直接は会わず、SNSで繋がりがあるだけだが
遠くどこかで今日も彼が夢に向かって大道芸を続けていることは
私の勇気へと変わった。
仕事の励みになった。

 
今はコロナ禍で大道芸人の方も仕事の機会が減って大変だとニュースで見たが
SNSを見ると
彼は変わらずに今も大道芸を続けているようだ。

 
あれからご両親が彼の頑張りを認めてくれていたならいいなと
思わずにはいられなかった。

 
  
 
余談だが
友達はかつて大道芸人と付き合っていた。

私はそれを聞いた時にビックリした。
一瞬、私が知っている大道芸人の方かと思ったら違うらしい。
世の中には私が思う以上に
大道芸人の方がたくさんいるようだ。

 
私の元彼が医者というのもなかなかのパワーワードだが
私の友達は、かつて探偵や漫画家と付き合っていた。

Aちゃんから彼氏が探偵と聞き
Bちゃんから彼氏が漫画家と聞き
Cちゃんから彼氏が大道芸人と聞くと
元彼が医者というのは
そんなに珍しいことではないような気がしてしまった。

 
そもそも私の周りには、漫画家の友達や女優になった友達がいた。

 
みんなすごいなぁと思う。

 
 
芸でお金を稼ぐことは容易ではないし
本業としてその道を進むことも容易ではないし
成功も、夢を諦めることもまた
決して容易ではない。

それでも夢を追いかける彼等の目や姿はキラキラ輝いている。
眩しすぎるくらいに。







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