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下請け作業と障害者福祉施設

障害者福祉施設とは、利用者が働き、工賃を得る場所だ。
利用者の仕事のことを、作業と表現する。
給料も、工賃と表現する。

 
就労継続支援A型、B型、就労移行支援、地域活動支援、生活介護と事業は分かれており
生活介護は作業をやる施設とやらない施設がある。

福祉施設の作業は最低賃金の保証は義務づけられていないため
原則、時給はA型以外派性しない。 

ほとんどの施設の作業が歩合制である。

   
B型に関しては、目標工賃(その施設・事業所を利用しているB型利用者の平均工賃)を定めなければならず
目標工賃額が前年より下がると施設への補助金が下がるため
施設は売上をいかに上げるかが大きな課題になっている。

 
  
多様化の時代であり、福祉施設で行う作業は多岐に渡る。

 
有名なのはパン作りや野菜作りだが、cafeレストラン経営、お弁当作り、ワイン作り、ジャム作り、チョコレート作り、豆腐作り、果物やキノコ作り等飲食物を作ったり販売する施設も多い。
メダカを育てたり、花を育てたり、肥料作りをする等の施設もある。

また、(外部に出向き)清掃や草むしり、クリーニング、リサイクル作業をする等の施設もある。

 
室内作業では、アクセサリーやキーホルダー、ブックカバー、洋服、バッグ等雑貨を作る施設もある。
パソコンで書類作成をしたり、キャラデザ、HP作成等の作業の施設もある。

  
 
そして、外部から仕事を委託される下請け作業がある。
一般の方には、内職、というと分かりやすいだろう。

シールを封筒に貼ったり、袋詰めをしたり、バリ取りをしたり、パーツを組み合わせる等こちらも多岐に渡る。

県や市の障害福祉課からも下請け作業依頼が単発で来る時もあるが、こちらは単価が10円以上と高額であり、各施設の取り合いになる。
抽選で勝ち抜かないと作業はもらえない。

 
大抵の下請け作業をやる施設は民間企業と契約して定期的に、もしくは不定期に作業をもらうわけだが
令和の時代になっても1個1円未満の作業も少なくない。
単価が5円以上の下請け作業は高額である。

福祉施設で働き出して私は10年以上になるが
今まで下請け作業で一番高額だったのは1個20円の単価だった。

 
私は福祉施設で働き出してから0.4円や0.6円や0.8円といった、1円未満の単価を
「てん4」「てん6」「てん8」と略すことを知った。
先輩にあたる同僚にそれを聞いてから
私もやがて職場で「今回の作業はてん4だから、単価安いですね。」なんて会話を当たり前にできるようになった。

 
利用者の一日の作業時間は施設によって異なるが
大体6時間くらいだろうか。
重度の人やこだわりが強い人、また障害の特性によってはそこまで働けなかったり、集中力がもたなかったり、出来高が少ない人も多い。
カバーは職員が行う。

 
利用者が30人以上一所懸命下請け作業をしても
私の日給よりも稼ぎは低い。

下請け作業でお金を稼ぐことは非常に難しい。

 
だから大抵の施設は、下請け作業だけではなく、自社製品を作ったり、飲食物を育てたり作って販売し、工賃を上げようとする。

 
利用者の月工賃は重度の人の場合、毎日頑張ったとしても3000円くらいであり
軽度の人に関しては10000~50000円くらいである。

ただし
施設や地域によってこれは差があるし
利用者の障害や作業能力によっても差がある。

 
だから軽度の利用者で一人暮らしの方は、工賃と生活保護と障害者年金を合わせてそれでなんとか暮らしている。

 
 
能力が高い障害者の方は福祉施設で働かず、一般企業の障害者枠で働いた方がお金は稼げるが
障害者枠は狭き門であり、課題も多い。

自力で運転が難しかったり(精神障害者の方は免許を持っていても、健常者で免許を持っている方が同伴していないと運転できない場合もある)、自転車に乗れない方、電車やバスに乗れない方もいるし
乗れても車や自転車がなかったり、家近くに駅やバス停がないケースもある。

また、障害者雇用の場合、労働時間は長く厳しく、会社に障害の理解がされないケースもあり
福祉施設に利用を切り替えたり、でもどる場合も少なくない。
障害者雇用で一年働き、定着するのは健常者以上に厳しいといえる。

 
障害者は精神障害者、知的障害者、身体障害者の方がいるが 
一般企業の障害者枠は、ほとんどが身体障害者(知的障害を伴わない車椅子ユーザー)か軽度知的障害者で埋まってしまうのが現状だろう。

 
 
そのような現実により
軽度もしくは重度の施設利用者は、下請け作業(内職)を一度はやったことがある人が多いと思うが
下請け作業というのは大きな覚悟が必要である。

それは、下請け作業はいつなくなるか分からないということだ。

 
企業がその製品を作ることをやめたり、規模を縮小したり、もっと安く作ってくれる海外に任せるケースもあるし
不況により倒産してしまうケースもある。

 
同じ会社の下請け作業が三年以上継続的にあるのはいい方で
短期間で契約が打ち切られたり、短期間の作業依頼であることは少なくない。

 
障害者福祉施設で働く職員は営業し、利用者ができそうな下請け作業を探し、作業支援をし、キッチリと納品し(製品に不良があると、「これだから障害者(施設)は。」と下に見られ、作業が打ち切られる可能性があるから)
それを頑張って利用者の工賃を毎月稼いでも
ある日作業がなくなれば
また営業のし直しになる。

 
私は今の職場に働いて4年目で、主に下請け作業を担当しているが
その間に何社もの下請け作業を行ってきた。
継続的に行っている下請け作業もあれば、短期間のものもあれば、作業を打ち切られたケースもあれば、逆に割に合わなくてこちらから打ち切ったケースもある。

下請け作業分野に関して言えば、私が入職当時から比べると月の稼ぎは増えており
また利用者も楽しんで行っている。

 
複数の会社と契約して下請け作業を行っているため
急にどこからか打ち切られても
工賃がなくなることはない。

また、下請け作業以外でも工賃をまかなっているため
今のところは利用者に安定した工賃やボーナスを払えている。

 
かつては今の職場は、自社製品作りが主流で主力であり、下請け作業はほとんど行っていなかった。
それを改革したのは新施設長と私だった。

自社製品は利用者によって向き不向きがあり、また売れなければ稼ぎはない。
一方、下請け作業は納期さえ守れば一定の収入が得られる。

 
私や新施設長は長年の経験から、何か一つのものにこだわって工賃を得ることのリスクを知っていた。
下請け作業のメリットも知っていた。

下請け作業を増やしたことで利用者の作業の幅は広がり、収入も増え
今のところはメリットが大きい。

 
 
 
そんな中、前の職場で10年以上主力でやっていた下請け作業がある日いきなり終わりを告げたと知った。
利用者の平均工賃は、今の職場の利用者の倍だったが
その日を境に0円になった。
 
私がかつて担当していた作業だけに、それを聞いた時、あぁそうか、終わりを告げたんだと思った。
10年以上続いていたのは奇跡だった。
私や利用者はその奇跡にかけていただけに過ぎない。

私がかつて働いていた時、主力で行っていた下請け作業がある日打ち切られ、頑張って主任が新たに探してきた作業がそれだった。

今までの作業ややりとりやそんな歴史が頭の中で鮮明に蘇り、静かに色褪せ、薄れた。

 
頑張っても頑張っても、下請け作業はこうしていつか終わりを告げる。
徐々に作業量が減っていき、やがて。
もしくはある日急に。

 
約10年間、毎日のように同じ作業をやっていたけれど
私はその下請け作業が好きだった。
利用者もそうだった。
誇りを持ってやっていた。
保護者が「うちの子が作業をやってお金を稼げているのが嬉しい。」「他の施設では見放されて作業をやらせてもらえなかった。」と涙ながらに話した日を忘れない。

工賃袋に入った複数の千円札や小銭に喜んでいた、あの頃。

 
 
前の職場はまた一から作業を探さなければいけないのだろう。
それは賭けだ。
見つかっても利用者に向いていない作業だったり、単価が安かったり、そんなことも少なくない。

利用者の下請け作業は出会いと別れの繰り返しだ。

  
 
他施設は自社製品作りと下請け作業の両立が難しく、先日下請け作業を打ち切ったらしい。

納期に追われた現場職員はサービス残業も少なくない。

福祉職員の仕事は作業支援だけではない。
送迎、掃除、トイレ介助、入浴介助、食事介助、余暇活動支援、運動やリハビリ支援、書類作成、打ち合わせ等
数え切れないほどある。

 
福祉の仕事は慈善事業でもボランティアでもないが
サービス残業も少なくなく
業務外でも必要であればやらなければいけない仕事がたくさんある。

 
利用者は働く時間に限りがある。
集中力や出来高は個人差が大きく、施設で働く利用者、特に重度の人はあまりたくさんはできない。

それでも今は、障害者が働く意義や自由や権利が叫ばれる時代であり
保護者からも学校からも本人からも、重度の利用者にも仕事を与えてほしいと求められる。

 
一個一円にも満たない下請け作業でさえ
重度の利用者の場合、自助具を職員が作って作業をやりやすくする工夫をしたり
工程をいくつも分けて利用者複数人と職員で完成させることも少なくない。

 
例えば作業を5工程に分けた時
1~2工程ができる利用者が8割以上で
残りの工程や仕上げを一部の利用者と職員で仕上げることも少なくないのが現状だ。

 
 
お金を稼ぐことは大変だ。
まして、障害がある人がお金を稼ぐことはより大変だ。

他施設の自社製品や作業を見るたびに
私はどこまでの工程を利用者がどのくらいの時間をかけて行っているか気になってしまう。

 
 
令和の時代。
最低賃金954円(我が県)の時代。

一個一円にも満たない作業を日々行う大人がいる。
一個一円にも満たない作業でさえ、一人で最初から最後まで仕上げることが難しくても
「働かせてほしい。」「仕事がほしい。」と願う親や子がたくさんいる。
そしてそれをサポートする、障害者福祉施設の職員…生活支援員や作業支援員という職業の人がいる。

 
私達が一個一円にも満たないで引き受けた下請け作業の製品が
お店では500円やそれ以上で売られていることも
少なくは、ない。

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