入院78日目:お母さんの涙
今日は新しいポスティング会社の仕事を初めて行った。
暑すぎず、風がある日で配りやすかった。
午後は下請け作業の納品に出掛けた。
下請け作業を山のようにもらってきた。上からの指示だ。
下請け作業は量が調整できるので、年間予定に合わせて増やしたり減らしたりする。
今は増やす時期らしい。
私は下請け作業担当なので、検品や納品書作成が大変になるが
今日は日中気が楽だった。
ポスティング作業も下請け作業も、職員一人で利用者複数人と行う。
他の同僚が絡まなければ、自分のペースで仕事ができる。
それに、製品作りより達成感があった。
利用者のペースやセンスや能力に左右される製品作りよりも、私はやっぱり下請け作業の方が性に合っている。
利用者の製品作りは手直しも多く、作業で行うのは色々と思うところがある。
夕方、前施設長から書類を直すように言われた。
その書類書式を作ったのは新施設長のため(その書式を使うよう命じられている)、「原本がこうなっているのですが」と伝えたら
「原本がどうとかではなく、作り直してください。」と言われた。
昨日も似た類いのことを言われた。
原本の意味ってなんだろう?
何故言われた通りに原本を使うと直せと言われるのだろう?
…イライラする。
上二人の足並みが揃っていないから起きている問題なのに
こちらに当たらないでいただきたい。
夕飯は餃子を焼いた。
フライパンに餃子がひっついてテンションが下がった。
「レシピ通りにやってもできないもんなんだな。」
と、お父さんが悪気なく言ったため
「お父さんがレシピ見ながらやってみてもいいんだよ?」と笑顔で言ったら
「お父さんは、できないからやらない。」と慌てて言った。
料理を作ってもらうのも食べるのも当たり前だと思わないでほしい。
夕飯後、お母さんからLINEが来た。
お母さんのリハビリ仲間の人の退院が決まったらしい。
穏やかないい人でいつも励まし合っていたが
退院後、入所が決まり
それをお母さんに伝えた時にとても哀しい顔をしたらしい。
その顔を思い浮かべるたび、お母さんは昨日も今日も泣いてしまうのだという。
話から察するに、入院前は家族と暮らしていたが、退院後は入所せざるを得ないようだ。
私の知っているお母さんは泣かない。
お母さんの涙は数えるほどしか見たことがない。
だけど病院にいるお母さんは
私に見せないだけで
私が知らないだけで
どれだけ泣いているのだろう。
私でさえお母さんに見せないだけで、お母さんに言わないだけで、たくさん泣いているのだから。
お母さんは先に退院する人を見て何を想っているのだろう。
置いていかれた感を感じるのか、障害が残る形で退院していく姿に自分を重ねるのか、退院を羨ましく思うのか。
お母さんは今家に帰りたいのだろうか?
父「お母さんは早く家に帰りたいんじゃないのか?」
私「お母さんは入院してから早く家に帰りたいとは一言も言わないし、私も早く家に帰ってきてとは一言も言っていない。」
父「リハビリに励んでいるのは、早く家に帰りたいからじゃないのか?」
私「リハビリに励んでいるのは、私やお父さんに迷惑かけたくない気持ちや、なるべく色々自分でやりたい気持ちだからでしょ?」
私「今は病院っていう整った環境で周りがサポートしてくれるし、似たような仲間がいるからいいけど、退院した後にお母さんは現実を思い知らされるんだよ。住み慣れたはずの家で色々できなくて、庭いじりも農業もできなくて、一人で外出もできない、そんな現実にぶつかるんだよ。
家族介護は情が入るから、案外施設入所のが気が楽だったりもするんだよ。」
父「お父さんはお母さんを上手くサポートできるかな?なんて声をかけたらいいか分からない。」
私「それでもやるしかないんだよ。」
私は正直、お母さんに今すぐは帰ってきてほしくない。
お母さんの部屋の準備は整っていないし
日々、お母さんの食事の用意やら何やらの課題がある。
今はまだ余裕がない。
「お母さんが帰ってきたら、一人でウォーキングに行ったり、旅行に行くのは控えるしかないんかな?」
お父さんが言う。
それはまだ、分からない。
退院したお母さんは出掛けたがるのか、出掛けるのが億劫になるのかは分からない。
ただ、先のことを思うと不安が押し寄せてくる。
仕事と家事と介護を両立させる自信なんて
私にはまだないんだよ。