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クソババァと呼ばれた日

人はいつからババアになるのだろうか。

かつて学生だった私は30代がおばさんのイメージがあったのだが
いざ自分が20代になり、アラサーになると
30代はまだまだ若い印象があった。
むしろ、30代は素敵な年齢に見えた。

社会人経験を積んだり、家庭を持つといった様々な経験をした顔は自信がみなぎっているように見えたし
お金や時間にゆとりがある大人に見えた。

 
20代半ばで結婚した友達は、30歳の頃に「私はもうおばちゃんだよ。」と自虐していたし
30前半の同僚も似たようなことを言っていたので
もしかしたら早々と結婚した女性は
独身の方と比べたら経験値を積み過ぎて
自分をおばさんと思うのかもしれない。

 
私は30代になっても自分をおばさんとは思わなかった。
では、40代の方をおばさんと思うかといったら、そうでもなかった。
自分がいざ30代になると、40代の方は40代の方で魅力的に思えた。

若い人に価値があるような考え方も世の中にはあるし
青春真っ只中の彼らは確かにまばゆい光を放っていたが
私から見た大人の方々は、日々仕事に家事に育児に奮闘し、とてもかっこよく見えた。
素敵な年の重ね方をしている人は世の中にたくさんいた。

 
私は若い頃よりも年々生きやすくなってきた。
様々な経験や人間関係を築く中で
自分に合った道や生き方が見えてきて
無茶をしなくなってきたからかもしれない。

確かに若い頃と比べたら皺やシミは増えたし、夜遅くまで起きてはしゃぐようなことはできなくなってきたが
あの頃できなかったことが今はできる。

朝早く起きて、自分が着たい服を着て、仕事を頑張り、稼いだお金を趣味に使える。
休日は一人で過ごしたり、家族や大好きな友達と過ごせる。人間関係の悩みは10代の頃よりグッと減った。

私は今の私が好きだった。

 
そんな私が30代後半になり、職場の利用者から「クソババァ。」と言われた。
衝撃だった。
今までババァとさえ呼ばれたことがなかった人生だ。
ババァの上にクソまでついている。
私からしたら実に攻撃的な品のない言葉がクソババァなのだが
自分がそう呼ばれる日が来るとは。

自分には無縁だと思っていた。
クソババァと言われることも言うこともない人生だと勝手に無意識に思っていた。
想定外だ。

人生で初めて私をクソババァと呼んだ人とあの日の衝撃を私は忘れない。

 
作業面で注意された利用者は私をクソババァと呼び
特に何かに注意されていなくても私をババァと呼んだ。
毎日ではない。
時折私をそう呼ぶのだ。
私以外の同僚に対してもクソババァやババァと平気で呼んだ。

 
「このクソガキが…」

心の中でそう思った。
かつての職場で私をババァとかクソババァと呼ぶ人なんかいなかった。
私を、というか、職員に対してそう呼ぶ人はいなかった。
かつての職場で某利用者が70代の職員を「おじいちゃん」と呼んだ時
本人も周りの職員も私も注意したが
私をクソババァと呼んだ利用者を、上は注意しなかったことが更に衝撃だった。

まるで気にする私が悪いみたいだ。
はたまた、もう30代後半なのだからいちいち目くじらを立てるなと言いたいのだろうか。

 
「このクソババァ!」

私は冷ややかな目で見た。
注意をすることは諦めた。
上が注意をしない以上、私が下手な動きをすると私が注意される。面倒くさい。
私が親ならこっぴどく怒るし、前の職場の私ならばやはりこっぴどく怒るが
私は今の職場に前の職場のような思い入れがない。以前ならば利用者をよりよい方に導きたかったが、今の職場は私と上で価値観が大きく違う。
私は所詮他人であり、ただの職員でしかないので、心の中でだけ「このクソガキが…」と呟く。
そして、私は静かに評価表にチェックを入れる。

利用者の仕事は歩合制だ。
半日ごとに作業をどのくらいやったかによって工賃額が決まる。
そして、利用者はどの事業に所属をしており、重度か軽度かによって金額は異なる。

 
その利用者は手先は器用だが、離席が多く、気に入らないことがあると暴言が見られ、作業資材の扱いも雑であり、作業のより好みも多かった。
だが、上は能力値の高さや本人の適性を評価し、言葉遣いや態度には口出しをしなかった。

例え能力値が高くても、仕事に対する姿勢や努力も踏まえて私は評価表をチェックする。
障害があろうとなかろうと、成人し、仕事をしている以上、許される許されないの線引きはあるはずだ。

 
私をクソババァと呼びたければ呼ぶがいい。
クソババァである私はその点も考慮して工賃額を決める。

障害者の人権ややる気を尊重し、働く場や仕事を提供する機会を増やす取り組みが社会で積極的に行われているが
実際、障害者の仕事を考えたり、探してきているのは障害者福祉施設の職員だ。

障害がある人がお金を稼ぐことは健常者以上に難しい。
作業資材を雑に扱う場合、不良品に繋がり、今後の作業が途切れたり、他の利用者の頑張りが無碍にされる可能性も高い。

 
例え能力値が低くても、作業への意欲が高い利用者を私は応援したいし、力になりたい。

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